今年のJBCスプリントJpnⅠは実に見どころの多い一戦となった。連覇に挑むブルドッグボス、藤田菜七子騎手のGⅠ/JpnⅠ初制覇がかかるコパノキッキング、大井1200メートルのダートグレードを連勝しているジャスティン、高松宮記念との芝・ダート両GⅠ/JpnⅠ勝利を目指すモズスーパーフレアに加え、地方勢もダートグレードウイナーを筆頭に実力馬が参戦。激戦必至の好メンバーとなった。
それだけに、レース前には地方の陣営からも「10回やっても、全て結果が違うと思う」という声が聞かれたほど。馬場や展開次第で、多くの馬にチャンスがあると思われた。
そしてスタートから波乱が起きる。昨年の覇者で3番人気のブルドッグボス、そして前走のテレ玉杯オーバルスプリントJpnⅢを制したサクセスエナジーが出遅れを喫した。それを尻目に5、6頭が激しい先行争いを展開し、前半3ハロンは33秒4のハイペース。結果的に芝GⅠ馬のモズスーパーフレアが先頭を奪い切ったが、時計が若干速いわりに差しも決まっていたこの開催の馬場。それを地元の矢野貴之騎手は読み切っていた。
中団を進んでいたサブノジュニアと矢野騎手は、3コーナー過ぎから徐々に進出。直線の入口で前が詰まるような場面もあったが、こじ開けるようにして進路を確保すると、残り200メートルで持ち前の瞬発力を発揮。先団からじわじわと伸びていたマテラスカイ、逃げたモズスーパーフレアを交わし、1馬身3/4差で勝利した。
3歳の頃から重賞級と目されていたサブノジュニアだったが、初めてタイトルを手にしたのは6歳となった今夏のアフター5スター賞。「充実しているし、見せ場は作れるなと思っていた。でも、気を抜くこともなく走ってくれて、時計も速かったからびっくり」と堀千亜樹調教師が話したように、目下の充実ぶりと本格化は明らか。加えて、このレースを目標に据え、1200メートルに照準を絞ったローテーションを組んできたことも的中した印象だ。
矢野騎手は8番人気での勝利に、「もちろん狙ってはいたけど、信じられない気持ち」と目元に笑みを浮かべた。一昨年の春から手綱をとり、「南関でもなかなかタイトルを獲れなかったけど、これだけの力があることを証明できた。思い入れのある馬だし、大井の馬で中央勢を負かすことができてうれしい」と、地元で大仕事を成し遂げた充実感を口にした。
2着には7番人気のマテラスカイ。JBCスプリントJpnⅠでは2018年に続く2着となったが、激しい先行争いに加わりながら脚を伸ばす好内容で、地力の高さを証明した。武豊騎手は「外からプレッシャーをかけられた。惜しかったね」と話したが、コースを問わず、持ち前の先行力を発揮できるのは強み。今後もこの路線では注目だ。
ブルドッグボスは出遅れこそあったものの、直線で猛然と追い込んで3着と、昨年の覇者として意地を見せた。御神本訓史騎手は「勝てたレースだった」と肩を落としたが、近況もつねに掲示板を確保しているように、8歳でも衰えとは無縁。今後もチャンスはあるはずだ。
地元生え抜きのヒーローによる完勝劇に沸いた今年のJBCスプリントJpnⅠ。サブノジュニアのより一層の飛躍に期待が集まるが、もまれたのが響いて8着に敗れた1番人気のジャスティン、追走に手間取って6着の2番人気コパノキッキングも巻き返しの余地は十分にある。頂上決戦を終え、スプリント路線にさらなる楽しみが増えた。
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矢野貴之 騎手
ここ2戦はスタートでもたついていたので、それを注意しながらいい位置に進められたら、と思っていました。少し窮屈だったので、開いてくれたら確実に伸びてくれるとは思いましたが、ここまで突き抜けるとは思っていませんでした。充実期を迎えており、精神力も強くなっています。
堀千亜樹 調教師
ずっとここを目標にやってきたので、本当に感無量です。いつもパドックではおっとりしているのですが、普段の調教は充実してきているので、十分見せ場は作れるなと思っていました。早く先頭に立つと気を抜くところがあるのですが、今回はそれもなく最後までしっかり走り切ってくれました。