「(向山)牧さんの競馬になってしまいましたね」と、レース後に水野翔騎手が発した言葉が、今年のオータムカップの内容を象徴していた。好スタートから先手を取ったシャドウチェイサーの後ろを走った7頭は、最後まで先頭に立つことができなかった。
秋雨前線の影響で、笠松競馬場は前の日から不良馬場。さらに台風の影響が加わって、この日も雨が降り続いていた。そのため、馬場にはところどころに水たまりがある状態で、とくに1コーナー付近は内ラチ沿いに水が浮く場所が続いていた。それもあってか、各騎手は普段よりインコースを空けていたようだった。
「今日は特殊ですね。差しも届きますし」と話したのは筒井勇介騎手。現地の競馬記者も「砂がインに寄っているような感じがしますが、よくわからないですね」と話していた。
いずれにしても、馬場状態はかなりの不良。その舞台で行われるオータムカップは、8頭立てでも近走成績が良好という馬が多く、最低人気馬でも23.2倍という単勝オッズになった。1番人気の支持を得たのはシャドウチェイサーで2.6倍。続いて兵庫のオオエフォーチュンが3.3倍、スワーヴノートンは4.8倍でレースを迎えた。
このレースまでに笠松競馬場に入場したのは、およそ400名。ファンが観戦できるエリアは4コーナー寄りに限定されたが、それでも観客の前で行われる重賞は久しぶりだ。
2コーナーを過ぎたところにあるスタート地点。まず先手を取ったのはシャドウチェイサーで、鞍上の向山牧騎手はすぐさまペースをスローに落とした。2番手にはスワーヴノートンがつけたが、全8頭がほとんど一団。その位置取りは1コーナーを過ぎても変わらなかったが、馬場を一周して向正面に入ったところでオオエフォーチュンが上昇していった。
しかしそれは、向山騎手にとっては想定内だったのだろう。3コーナー手前からペースを上げると、馬群の外を回ったオオエフォーチュンは伸びあぐねる形になってしまった。4コーナーから先は、シャドウチェイサーの独壇場。3馬身差での2着争いは写真判定の勝負になったが、インコースから追い上げたシゲルグリンダイヤが2着、出遅れから巻き返した兵庫のコスモヴァーズが3着。3番人気のスワーヴノートンは大差の最下位で、筒井騎手は「パドックで乗った瞬間、勝てるかなと思ったほどの雰囲気でしたが、最後は心房細動かと思うくらいの止まりかたでした」と話していた。
雨のため、スタンド内で実施された表彰式。その間、川嶋弘吉調教師は笑顔のままだった。川嶋調教師は高崎競馬が廃止されたことで笠松に移ってきたのだが、笠松での重賞勝利は2005年10月にタイガーロータリーで制したスプリント以来。本人が「笠松では初めてかも」と言うくらい、久しぶりのものだった。
勝ったシャドウチェイサーは8歳、向山騎手は55歳、川嶋調教師が75歳。今年のオータムカップは、ベテランのチームが勝ち取る結果になった。
Comment
向山牧 騎手
マイペースで行けると力を発揮できるので、その形になったことがいちばんでしたね。競られなかったことで、折り合いをつけることができました。道中で気を抜くところもあるので、そこは気をつけながらでしたが、3コーナーですこし後続を離しに行って、あとは最後まで楽に進められました。
川嶋弘吉 調教師
笠松の1900メートルでは勝ったことがないので、期待と不安が半分ずつという感じでした。今日は向山騎手がうまく乗ってくれたおかげだと思います。馬場改修の前に勝って、そこで2カ月休んだことで、馬の状態がよくなりましたね。今日は勝てるという確信がなかったので、今後のことはこれから考えます。