「兵庫若駒賞って、自分が初めて重賞を勝った思い出のレース。でも、それだけでなく、将来の活躍馬が出てくるレースで毎年、楽しみだね」
2015年マイタイザン、18年テンマダイウェーヴでこのレースを2度制している新井隆太調教師はレース前、2歳馬たちの返し馬を見ながら、そう言った。今年は出走馬に自分の管理馬こそいないが、一関係者として楽しんでいた。勝った2頭は3歳でも重賞で活躍し、飛躍を遂げた。兵庫若駒賞は出世レースとして、人々の熱い視線が注がれている。
未来を嘱望される2歳馬12頭の中でも、注目は2頭。門別デビューで1勝後、園田で2勝目を挙げ、園田プリンセスカップで2着(地元馬最先着)だったアイルビーゼアと、園田2戦2勝のツムタイザンだった。1番人気は票数の差で前者だったが、単勝オッズはともに2.5倍。これに園田4戦2勝のマルカフォルトゥナが6.9倍、園田プリンセスカップ4着のフセノチェリーが8.6倍で続いた。
スタートで大外枠ストークが落馬するアクシデントで幕が開くと、先行争いは、内から好ダッシュを決めたフセノチェリーの外からツムタイザンがハナを奪い、その外にアイルビーゼアがぴったり。その後ろにマルカフォルトゥナが付け人気の4頭が先団を形成した。
逃げるツムタイザンは、ぴったりマークされる展開だったが、向正面でペースを上げると、逆に追走していたアイルビーゼアが遅れ、差はみるみる広がった。直線も独走で、ゴールでは後続を8馬身ちぎった。鞍上の杉浦健太騎手がゴール手前で左手を挙げるほどの圧勝劇。勝ち時計の1分31秒3は、前日同距離の古馬による中央1勝クラスと地元A級馬との交流戦の勝ち時計を0秒3上回る優秀なものだった。
2着は道中7番手から直線で伸びたスマイルサルファー、3着は粘ったアイルビーゼアだった。スマイルサルファーの大山真吾騎手は「直線はしっかり脚を使った」と振り返れば、アイルビーゼアの笹田知宏騎手は「最後(2着馬に)差されたのは勝ちに行く競馬だったので仕方ない。今日は勝ち馬が強かった」と素直に完敗を認めた。
今年は兵庫ダービーのディアタイザンに続く2勝目で、通算13度目の重賞制覇の杉浦騎手は「予想していた以上に、よくなっていて、びっくりしました」と笑顔を見せた。6月に兵庫ダービーを勝った際、「来年はツムタイザンで狙いたい」と話した同騎手だが、無傷3連勝での出世レース制覇で早くも来年の大舞台へ名乗りを上げた。
昨年、厩舎を開業した大山寿文調教師は18年間の騎手時代も通して、うれしい重賞初制覇となった。07年から昨年まで務めた調教師補佐では、12、14、15年の3度も優秀調教師補佐賞に選ばれ、その手腕は高く評価されていたが、それが厩舎開業2年目という早い時期の重賞制覇へ実を結んだ。「レース後、オーナーと牧場関係者の顔を見たら、涙が出た。感謝してます」と感無量だった。
ツムタイザンの次走だが、大山調教師は「全く白紙」と未定を強調した。だが、その圧勝劇から、2歳戦線の主役として、俄然注目される存在となった。
出世レースの兵庫若駒賞から、今年もまた将来性豊かなホープが現れた。
Comment
杉浦健太 騎手
前走が器用な競馬だったので、特に位置取りには、こだわらなかったが、内枠の分、自然と逃げる形になりました。ぴったり来られても、大丈夫でしたし、終始いい手応えで、安心して乗れました。折り合い面も問題なく、距離が延びても大丈夫です。まだ奥があるので、楽しみですね。
大山寿文 調教師
開業後も、この馬主さんにはお世話になってます。前走から1カ月開いたが、しっかり追い切って悔いのないように仕上げた。デビュー当初は、刺さって乗りにくかったが、成長して解消してきた。レースは、逃げると思わなかったが、馬と騎手を信じていた。最後の直線は我を忘れていました。