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連載

連載第10回 1992年 東京大賞典

馬と人との師走のドラマ

師走のドラマを制したドラールオウカン(帽子・緑)
(映像ファイルサイズ:48MB)
 つい先月のことになるが、東京大賞典が再来年より国際競走となり、念願の「GI」格付けを得られることが発表された。ダート版「有馬記念」として、その年のダートチャンピオンを決める総決算の位置づけである。
 もちろん、歴代勝ち馬には錚々たる顔ぶれが並ぶ。船橋の名伯楽出川己代造師の傑作ダイニコトブキ。地方競馬の貴公子オンスロート。戦後のサラブレッドで、76キロという最も重い負担重量で勝利した記録を持つヤシマナシヨナル。昭和50年代に入っても、中央競馬招待で中央馬を一蹴したフアインポート。テスコガビーの半弟トドロキヒリュウ。4歳三冠馬にしてその年の大賞典をも制したハツシバオー。後にトウケイニセイの父として有名になるトウケイホープ。
 昭和の終わりから、平成にかけては群雄割拠の時代。サンオーイ、テツノカチドキ、スズユウ、カウンテスアップ、イナリワン、ロジータ、ダイコウガルダン……。1頭1頭が名馬物語として語られるような、地方競馬史に残るまさに黄金時代であった。
 現行の2000mに短縮されたのが第44回(1998年)。かつては2600→3000→2800メートルと長距離で行われ、馬だけではなく騎手の腕もここで試された。馬と人のグランプリレースなのである。

 いまだバブル真っ盛りの1992年、東京大賞典。そう遠くない芝浦のディスコでは、ワンレン・ボディコンのお姉さま方が毎夜扇子を振っていた頃。第38回東京大賞典が、12月29日、大井競馬場で行われた。
 1番人気に推されていたのは、その年の東京ダービー、東京王冠賞を制した4歳二冠馬グレイドショウリ。2番人気には休み明けのかちどき賞を叩かれ(1着)臨む快速馬スルガスペイン、3番人気に当時大井の古馬No.1の実力と言われたハシルショウグン。そして成長著しいヤマサンキングが4番人気。
 師走の大井競馬場は37,000人以上の入場で沸きあがっていた。このレースを制したのは6番人気のドラールオウカンだった。管理するのは赤間清松師。赤間師といえば騎手として東京ダービー6勝、東京大賞典3勝など数々の重賞勝ちを含む通算2,885勝を挙げた名騎手で、調教師に転じてからもカウンテスアップ、ジョージモナーク等を育てた。
 この大賞典には、ハシルショウグンとドラールオウカンの2頭出し。ショウグンには高橋三郎騎手を、そしてドラールには前年のこのレースをボールドフェイスで制している堀千亜樹騎手をそれぞれ配した。
 本来なら、ドラールには愛弟子内田博幸騎手が騎乗するはずだった。1989年にデビューし、当時3年目。前年のロジータ記念をこの馬で制し、人馬ともに初重賞勝利を達成。普段から稽古も付け、前哨戦となった東京記念も、自らの手綱で制していた。
 しかし、東京大賞典の5日前に痛恨の騎乗停止。後に自身「あの頃は乗り方が荒っぽかったから」と笑いながら振り返っていたが、当時は相当悔しかったに違いない。急遽騎乗した堀千亜樹騎手。その年のアフターファイブ賞で1度騎乗し2着に追い込んでいたが、まさかの代打騎乗で決めた。

 レースをご覧になって欲しい。スタートして大外からハナを奪いに行く佐々木竹見騎手とスルガスペイン。注文通り行った後は、またの間から後ろを確認し、1000メートル63秒5にペースを落とす。そして、番手を取りに行ったダイコウガルダンと早田秀治騎手。ちゃっかりとイン3番手の絶好位に座るハシルショウグンと高橋三郎騎手。少し離して5番手にグレイドショウリと石崎隆之騎手。その後ろにドラールオウカンと堀千亜樹騎手。位置取り争いからして、既に牽制しあっている。
 向正面に入ると、的場文男騎手とヤマサンキングが一気に先頭に並びかけに行く。場内ドッと沸いた。鉄人がマイペースで逃げるのを阻止しようとしたのだろうが、このレースは2800メートル。まず今では考えられない仕掛けだ。4番人気とはいえ、2番人気と差のない人気。これが原因で8着に終わるが、駆け引き、そして自分が鈴を付けに行くといった敢闘精神。全盛期の大井競馬は実におもしろかった。
 それを「ヨシヨシ」と思ったのがハシルショウグンと高橋三郎騎手だろう。いつの間にか外に持ち出し、先頭に並びかける。しかし、途中ペースを上げられたのが応えたか、それともジャパンカップの疲れがあったか伸びない。
 踏ん張るスルガスペインに空いたインからドラールオウカン、外から正攻法でグレイドショウリが伸びてきて、残り200メートルを過ぎてからは馬体を併せて叩き合いに。結果一歩先に抜け出したドラールオウカンがクビ差凌ぎ切った。

 長距離戦を見たいというファンの要望は、多い。しかし、これほどの、ある意味いやらしい(もちろんいい意味で)駆け引きを見られるかどうかはわからない。案外、淡白なレースに終わりそうな気がする。
 凱旋するドラールオウカンに真っ先に駆け寄ったのが内田博幸騎手だったという。内田騎手は「運がなかったんです。仕方がありません。次のチャンスを……」と言って泣いていたと聞いた。結果的に内田騎手とドラールオウカンは、その後準重賞の隅田川賞の1勝に終わり、94年の関東盃を右前球節捻挫で取消し、そのまま引退したが、もしあの時、内田騎手が乗っていればどうだっただろうか? 後日、あるインタビューで「悔しかったが、後でビデオで見たら、堀さんの騎乗は素晴らしかった。自分が乗って勝てたかどうか」と言っていたのを読んだ。
 「念願の東京大賞典を勝てて、本当に嬉しい」。内田博幸騎手が東京大賞典に勝つのは、それから12年後。2004年のアジュディミツオーであった。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
競走成績
第38回 農林水産大臣賞典 東京大賞典 平成4年(1992年)12月29日
  サラ系4歳以上 1着賞金6800万円 大井2,800m 晴・良
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 6 6 ドラールオウカン 大井 牝5 54 堀 千亜樹 3.02.3 6
2 2 2 グレイドショウリ 大井 牡4 54 石崎 隆之 クビ 1
3 4 4 アーデルジーク 大井 牡6 56 森下 博 1 1/2 9
4 8 10 スルガスペイン 大井 牡6 56 佐々木竹見 アタマ 2
5 7 8 ハシルショウグン 大井 牡5 56 高橋 三郎 1/2 3
6 3 3 ダイコウガルダン 大井 牡8 55 早田 秀治 クビ 5
7 1 1 ニシノサムタイム 大井 牡7 55 脇本 一幸 5 8
8 5 5 ヤマサンキング 大井 牡5 56 的場 文男 1 1/2 4
9 7 7 トーシンイーグル 船橋 牡5 56 張田 京 9 7
10 8 9 ピナクルボーイ 大井 牡5 56 山崎 尋美 5 10
払戻金 単勝1,190円 複勝290円・150円・610円 枠連複1,560円
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