連載第7回 1993年 帝王賞
豪華キャストを横綱相撲で制した“最後の将軍”
ハシルショウグン
今思えばやはり、地方競馬黄金期、その最後を鮮やかに彩った馬といえるだろう。ハシルショウグン=最後の将軍。確かにその戦歴は波があったが、およそ5年間の競走生活、総括するなら、起伏に富みながらも充実していた。常に南関東王者、そのプライド(同時にプレッシャー)を背負って力走したこと。そして5歳春、文字通りピークで臨み、力のすべてを完全燃焼させたのが、この年(93年)の第16回帝王賞だった。
改めてファイルをめくると、その豪華キャストに驚かされる。中央、地方とも粒ぞろいで選りすぐり。どれを◎にすべきか予想者はみな迷ったとふり返る。ため息が出るような層の厚さ。傑出馬不在…というより、出走16頭中大半が脈ありで、それぞれ魅力的な個性、キャラクターを備えていた。例えばJRAからは、前年の覇者、強靭な末脚を持つナリタハヤブサ、天皇賞2着、ダートもこなすカリブソング。地方からは、東京ダービー馬グレイドショウリ、上山の快速スルガスペイン、笠松の鬼脚トミシノポルンガ…。人気が割れるのは当然だろう。他にも東京大賞典馬ドラールオウカン(内田博幸騎手騎乗)、南関東4場重賞制覇ハナセール。繰り返すが、出走16頭すべてが虎視眈々と栄冠を狙っていた。
ハシルショウグンは5番人気、結果的に単勝8.0倍の好配当だった。いずれにせよこの日のショウグンは完璧な横綱相撲で、好スタートから大井必勝パターンとされたイン3番手。直線鞍上がひと呼吸待つ余裕があり、着差(1/2馬身)以上の爆発力、パフォーマンスをみせている。「(馬の)持っているものを100%引き出せた。長く乗っていてもこういう競馬はなかなかできない。潜在能力とデキのよさ。記憶に残るレースです」(的場文男騎手)。
記者個人的には、その2着ダイカツジョンヌにも思いが深い。ショウグンより気持ち早めに動いて、あとひとハロン、一瞬勝ったかというシーンがあった。ジョンヌは浦和出身、ユングフラウ賞、桃花賞を制し(3歳春・故障休養)、そしてJRA移籍後、フェブラリーS3着など、ダート通算〔7-5-3-0〕の実績を収めている。「これは強いよ。男馬かと思うくらい根性がある」。南関東時の主戦・石崎隆之騎手からそう聞いた。
“ハシルショウグンとその時代”について話を続ける。同馬は92〜93年、ジャパンカップ(東京芝2400m)に連続出場した。結果は2度とも殿り負け。しかし彼は、当時設けられていた地方枠(ロッキータイガーの快挙、ジュサブローの善戦など)の中で、代表となるべき資格、力量が十分あった。直前の選考レースであるオールカマー(中山芝2200m)2着。ライスシャワー、ホワイトストーン、シスタートウショウらJRAの看板馬を、正攻法の先行で退けている。ダートで強い、ただそれだけではない。そもそも当時、日本馬枠自体が5頭に限られ、JCに出るということは、ある意味“日本ベスト5”を要求された。
昨今のダートグレード。予想をしてレースを見て、ときおりふっと寂しくなる。華やかな顔ぶれ、ハイレベルの戦いを、通い慣れた競馬場で味わえることはもちろん嬉しい。がしかし、JRA馬同士の“3連複”が、1.5倍などというオッズに何度も出会い、それが当然のように決まったりする事実がある。アブクマポーロ、アジュディミツオー、フリオーソ、なるほど一矢を報いる“救世主”はしばしば出るが、地方競馬、全体の“層”となるときわめて薄い。孤軍奮闘、それにおまかせ。本来地方最高峰であるべき帝王賞や東京大賞典のGI(JpnI)でさえ、南関東枠が埋まらないケース(ギブアップ)が近年多い。
ハシルショウグン=最後の将軍。冒頭そう書いたのは、生涯31戦10勝、GI格3勝の実績というより、闘志と気骨、チャレンジ精神、改めてそちらに想いが及んだからだ。日本地方競馬から“世界”をめざし、結果はどうあれ、自身100%燃やしつくした。付け加える。当時誰もそれを、不思議なこと、高望みなどとは考えていなかった。17年前のことである。古きよき時代…、そうため息をついて終わらせてしまうには、まだ少し早すぎるような気もするのだが。
文●吉川彰彦(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
中央競馬招待 第16回 帝王賞 平成5年(1993年)4月12日 | |||||||||
サラ系5歳以上 1着賞金5800万円 大井2,000m 晴・良 | |||||||||
着順
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枠番
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馬番
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馬名
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所属
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性齢
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重量
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騎手
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タイム・着差
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人気
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1 | 3 | 6 | ハシルショウグン | 大井 | 牡6 | 56 | 的場 文男 | 2.05.5 | 5 |
2 | 6 | 12 | ダイカツジョンヌ | JRA | 牝6 | 54 | 田中 勝春 | 1/2 | 7 |
3 | 8 | 16 | スルガスペイン | 大井 | 牡7 | 55 | 佐々木竹見 | ハナ | 3 |
4 | 4 | 8 | カリブソング | JRA | 牡8 | 55 | 安田 富男 | クビ | 1 |
5 | 5 | 10 | グレイドショウリ | 大井 | 牡5 | 56 | 石崎 隆之 | クビ | 4 |
6 | 7 | 13 | ハナセール | 大井 | 牡6 | 56 | 高橋 三郎 | 2 | 11 |
7 | 2 | 4 | ドラールオウカン | 大井 | 牝6 | 54 | 内田 博幸 | 1/2 | 8 |
8 | 7 | 14 | ナリタハヤブサ | JRA | 牡7 | 55 | 横山 典弘 | 1/2 | 2 |
9 | 1 | 2 | ヘイセイシルバー | JRA | 牡6 | 56 | 安藤 賢一 | 1 | 13 |
10 | 1 | 1 | トミシノポルンガ | 笠松 | 牡5 | 56 | 井上 孝彦 | 1/2 | 6 |
11 | 4 | 7 | サンアカツキ | 大井 | 牡5 | 56 | 早田 秀治 | 1 1/2 | 16 |
12 | 2 | 3 | マンジュデンカブト | JRA | 牡8 | 55 | 山田 和広 | 1 | 12 |
13 | 5 | 9 | ピナクルボーイ | 大井 | 牡6 | 56 | 堀 千亜樹 | ハナ | 15 |
14 | 3 | 5 | タケデンマンゲツ | 宇都宮 | 牡8 | 55 | 平澤 則雄 | 2 1/2 | 10 |
15 | 6 | 11 | カシワズプリンセス | 川崎 | 牝5 | 54 | 山崎 尋美 | 1/2 | 14 |
8 | 15 | トキノクンショウ | 大井 | 牡5 | 56 | 鈴木 啓之 | 中止 | 9 | |
払戻金 単勝800円 複勝290円・360円・240円 枠連複3,650円 |
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