連載第9回 1995年 上山優駿 樹氷賞
かみのやまの歴史を変えた名牝
カガリスキー
かみのやま競馬が45年の歴史に幕を下ろしてからもうすぐ丸七年。競馬場の跡地では製薬会社の巨大な工場の建設が着々と進んでいる。一周1050メートルだったトラックの面影はほとんど残っていないが、スタンドはいまも場外馬券売り場としてその姿を留めている。ちょうどゴール板があった辺りに腰を下ろし、ゆっくりと目を閉じると、熱気に溢れるファンの声援に包まれた数々のドラマ、名勝負が、次から次へと記憶の片隅からよみがえってきた。
1995年の樹氷賞もそのひとつだ。樹氷賞とは中央でいえば有馬記念の位置づけで、ファン投票で選出された馬によってその年の最強の座と当時の最高賞金を競うオーラスのクランプリ。これまでの樹氷賞といえば経験値で勝る古馬が絶対的な強さを見せてきたレースだが、この年、一頭の牝馬によって史上初にして絶後となる3歳馬によるグランプリ制覇を成し遂げられた。
その馬の名はカガリスキー。ホリスキー産駒らしい大柄な馬体は入厩当初から異彩を放っていたが、2歳時はなかなか完成し切れずオープンでも善戦はするものの、12戦2勝というごく平凡な成績に終わった。しかし、開催オフの冬季間がいい成長を促し、3歳春から頭角を現し始めると、6月に水沢競馬場で行われた東北優駿では、管理する厩舎サイドすら想像もしていなかった驚愕のパフォーマンスを見せることになる。岩手、新潟、山形の三県持ち回りで行われていた交流競走の東北優駿は、過去15回、上山代表の勝ち馬は0。カガリスキーは地元の上山でも3、4番手評価となれば10頭中ブービー人気も妥当なところだったが、蓋を開けてみれば岩手、新潟の強力な牡馬を相手に3コーナーからロングスパートで決める堂々の勝ちっぷり。15年越しの悲願達成に地元も大いに沸いた。そしてカガリスキーは1か月後の重賞、こまくさ賞に凱旋出走。そこに立ちはだかったのが、本格化著しい牡馬レフトチェスマンだった。快調に飛ばしたレフトチェスマンは「フン、東北優駿馬とはこの程度か。オレが出ていればもっと楽に勝っていたぜ」とばかりに、なんと7馬身もの差をつけた。
その後、カガリスキーは敗戦のショックから立ち直り、北日本オークスで貫録を見せつけると、ダービーグランプリでもルイボスゴールドの4着と健闘。片やレフトチェスマンはB級の古馬を相手に連勝を重ね、暮れの大一番でこまくさ賞以来の2頭の対決が実現するとこになった。
過去3歳馬の優勝がないとはいえ、ファンも「この2頭は違う」と、1、2番人気に支持。レースは二周目のゴール板過ぎから一か八かのマクリに出たサクセスロードが一時後続を10馬身近く引き離して逃げる展開。好位で仕掛けのタイミングを窺っていたレフトチェスマンがスパートをかけると、みるみるその差は詰まり、アッと言う間に先頭に立った。この形になるとまず負けないレフトチェスマン。勝負あり、誰もがそう思ったところに、外からケタ違いの脚いろで飛んできたのがカガリスキー。まさに一瞬の決着だった。こまくさ賞の雪辱を果たすと同時に、東北優駿、北日本オークスに続くビッグタイトルを手中に収めた。
上山競馬史上最強牝馬は?、と訊かれれば、私はこのカガリスキーの名前を挙げるだろう。南関東に移籍して帝王賞を勝ったコーナンルビーや「剃刀カツミメ」の異名をとった追い込み馬セキノカツヒメなどもその候補となるだろうが、上山代表として前例のなかった東北優駿優勝や3歳馬による樹氷賞制覇など、歴史を変えた点は高く評価できるもの。なにより、舞台が大きければ大きくほど、相手が強ければ強いほど力を発揮したその勝負強さは、「上山競馬生え抜き史上最強」と言っても過言ではないかもしれない。
上山はアラブの名勝負も沢山あった。個人的にはローレルブロンドが勝った紅花賞が一番に思える。絶対的なスター・ローレルブロンドにブロードラリーが、完全に勝負圏外と思われた離れたシンガリから信じられない脚で伸びて、あわやと迫ったレースである。大外を伸びるブロードラリーに対し、当時一ファンとしてラチ沿いで見ていた私は、大袈裟ではなく右側から何かがぶつかってくる感覚を覚えた。それぐらいファンと馬の距離が近い、本当にいい競馬場だった。
売上げ低迷期に入っても、自治体、主催者はなんら策を講ずることもなく、いざ尻に火が付いてから慌てても時既に遅く廃止となったわけだが、当時の市長や競馬に関わっていた職員にもう少し競馬に対する理解や、愛情があってくれたならと残念に思う。廃止が連鎖的に続いた時代の波も悪かったか。怒りと悔しさからついついキーボードを叩く指にも力が入ってしまうが、変えられない過去を嘆いても仕方ないか。
あれから七年。騎手、調教師、厩務員、調教助手、牧場の育成者として、上山競馬出身者達は各地で頑張っている。最初は慣れない環境に戸惑い、悩み、上山を懐かしんだはず。ホームシックに陥ったところであらためて気がつく、帰りたいところ(上山競馬場)がもうないことを、そしてこの道で生きる為には現状に留まり歯を食いしばって頑張っていくしかないことを。同じ辛い境遇を乗り越えてきたからこそ、彼らが乗る馬、担当する馬は無条件で応援したくなる。様々な理由で大好きな競馬の道から離れざるをえなかった人たちの為にも、我々上山競馬の「生き残り」は馬と人を語り継いでいこうと思う。
※ 文中の年齢は現在の表記を用いています。
文●大木尚文(競馬ブック(元上山競馬ニュース))
第23回 上山優駿 樹氷賞 平成7年(1995年)12月12日 | |||||||||
サラ系4歳以上 1着賞金1350万円 上山2,300m 曇・不良 | |||||||||
着順
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枠番
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馬番
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馬名
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所属
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性齢
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重量
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騎手
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タイム・着差
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人気
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1 | 5 | 6 | カガリスキー | 上山 | 牝4 | 52.5 | 小国 博行 | 2.34.3 | 2 |
2 | 8 | 11 | レフトチェスマン | 上山 | 牡4 | 53 | 山中 初 | 1/2 | 1 |
3 | 6 | 7 | サクセスロード | 上山 | 牡7 | 56.5 | 馬渕 繁治 | 3/4 | 8 |
4 | 8 | 12 | タイガーベルク | 上山 | 牡7 | 55 | 水戸 賢二 | ハナ | 5 |
5 | 7 | 10 | ナラシノブルボン | 上山 | 牡7 | 56 | 山田 延由 | 2 | 3 |
6 | 5 | 5 | ホクサイローラー | 上山 | 牝6 | 55 | 前野 幸一 | クビ | 7 |
7 | 7 | 9 | トウショウアズマ | 上山 | 牡8 | 54.5 | 千場 俊彦 | 1 1/2 | 10 |
8 | 1 | 1 | トウコウタイシ | 上山 | 牡4 | 53 | 須田 英之 | クビ | 6 |
9 | 6 | 8 | タケデンマンゲツ | 上山 | 牡10 | 59.5 | 佐藤庄一郎 | 1/2 | 9 |
10 | 4 | 4 | エアインハート | 上山 | 牡7 | 57.5 | 関本 秀幸 | 3 | 4 |
11 | 3 | 3 | ヤマショウキロク | 上山 | 牝4 | 53.5 | 板垣 吉則 | 7 | 11 |
12 | 2 | 2 | セントオスカー | 上山 | 牡6 | 55 | 田代 義久 | 7 | 12 |
払戻金 単勝470円 複勝140円・120円・400円 枠連複440円 |
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SJT総括 - 第29回 2010年10月29日
白山大賞典〜エーデルワイス賞 - 第28回 2010年9月30日
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