当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。
”短期集中連載” 【地方競馬所属騎手の韓国遠征記録】
「第1回 90年代までの交流の歴史」
2013年03月21日
取材・文●牛山基康2007年に期間限定免許による外国人騎手の受け入れを正式に開始した韓国。隣国という地理的な好条件に加えて、行われているのがダート競馬ということもあり、いまや地方競馬所属騎手の海外遠征先としてすっかり定着している。地方競馬所属騎手の韓国での活躍ぶりをお伝えするこの連載。第1回は、期間限定免許での遠征が可能になる以前、1990年代まで続いた騎手交流の歴史を探ってみた。
日本統治時代には日本人が活躍
韓国の競馬を主催する韓国馬事会は、その前身である朝鮮競馬倶楽部が1922年に初めて競馬を開催した5月20日を『競馬の日』と制定している。だが、当時は日本統治時代。京城(現在のソウル)で競馬を開催した同国初の競馬施行団体である朝鮮競馬倶楽部は、日本人が発足させたものだった。その後、各地に競馬倶楽部が発足し、1933年にはそれらを統轄する朝鮮競馬協会が、1942年には各競馬倶楽部と朝鮮競馬協会を統合した朝鮮馬事会が発足。韓国馬事会が1984年に発行した『韓国競馬六十年史』によると、京城の競馬場で活躍していた騎手、調教師の多くも日本人で、地元の騎手の一部は、活躍の場を日本の競馬場に求めていったという。1938年に鳴尾競馬場で行われた春の帝室御賞典(第2回天皇賞)を制した金者斤奉騎手兼調教師(中山競馬場)は、そのひとりだそうだ。1945年の解放後は、帰国した金者斤奉(のちにキム・スンベに改名)調教師など、韓国人によって競馬が続けられた。1949年に韓国馬事会となって以降、最初に韓国で日本人騎手が騎乗したのは、1965年の日韓国交正常化を機に行われた、1966年の韓日親善競馬とされている。
最初の騎手交流は韓日親善競馬
競走成績などの記録は残されていないが、前出の『韓国競馬六十年史』によると、この韓日親善競馬は、大井競馬場の中野要調教師のあっせんにより行われたという。騎手として参加した竹山隆元調教師に当時のエピソードをお聞きした。「ポニー(在来種)にも乗りましたが、脚元の悪い馬で、つまずいてひっくり返ってしまったんですよ。それでも背が低いですから、ケガはしなかったんですが(笑)。施設は立派だなと思いました」。競走馬が不足していた時代。小さな在来種を頻繁に使うことで対応していたが、徐々にアングロアラブやサラブレッドが輸入されるようになっていった。「中野先生が韓国に送った馬にも乗りましたよ」と竹山隆元調教師。日本からの輸入馬には中野要調教師のあっせんで大井競馬場から韓国に渡った競走馬もいた。その交流が、この韓日親善競馬に発展したようだ。日本からは5名の騎手が参加したとされているが、『競週地方競馬』昭和41(1966)年7月号で確認できた別表の大井競馬場の3名のほか、竹山隆元調教師によると「名古屋の騎手もいたと思いましたよ」という。国際親善競馬を制した中野要騎手
これを経て行われた1968年、1969年のアジア国際親善競馬は、アジアだけでなくアメリカ、オセアニアからも騎手が招待された。日本の地方競馬からは中野要調教師が騎手として参加している。1984年に亡くなられた中野要調教師に代わり、ご子息の中野栄治調教師にお話を伺った。「あまり詳しいことはわかりませんが、パク・チョンヒ大統領から賞をいただいたという話は聞いています」。競馬の発展にも注力したというパク・チョンヒ大統領。この国際親善競馬は、大統領杯をメインとして行われた。1958年の調騎分離までは騎手でもあった中野要調教師は、1969年に優勝、大統領杯を手にしている。中野栄治調教師といえば、騎手時代のフォームの美しさに定評があったが、それは「フォームに厳しかった」という父譲りのもの。1969年5月26日付の『京郷新聞』によると、現役時代と変わらない騎乗ぶりで逃げ切ったようだ。中野要調教師は、中野栄治調教師が2歳のときに中津から大井に移籍したそうだが、『韓国競馬六十年史』には日本統治時代の京城でも騎乗していたと記されている。競馬における日韓交流の架け橋的な存在だったようだ。中野要騎手が優勝した1969年の国際親善競馬の結果を 写真入りで伝える記事(1969年5月26日付『京郷新聞』より) |
1969年の国際親善競馬の表彰式。大統領杯を授与された 中野要騎手(『韓国馬事会60年史』より) |
アジア競馬会議を機に交流が復活
だが、その交流も1970年代には途絶えてしまう。復活したのは、アジア競馬会議が初めてソウルで開催された1980年だ。期間中に行われた国際騎手招待には、桑島孝春元騎手が地方競馬代表として参加した。「ゲートで5分も10分も待たされたことを覚えています」という桑島孝春元騎手は、4戦のうち3戦に騎乗して残念ながら4、4、5着という結果。ただ、アジア競馬会議においては、この国際騎手招待も記念行事のひとつにすぎない。「毎日がパーティーで楽しかった」と語る桑島孝春元騎手から、期間中のお祭りムードが伝わってきた。このアジア競馬会議の開催をきっかけに韓国と日本の地方競馬の間で騎手交流が活発化する。1981年に大井、中京競馬場で韓国人騎手が騎乗すると、1982年には大井、愛知の騎手がソウル競馬場で騎乗。また、新潟競馬場とソウル競馬場では、1982年(ソウルは1983年)から1997年まで相互騎手交流が続けられた。上山、船橋、福山競馬場でも韓国騎手招待が行われたほか、1992年には船橋の騎手がソウル競馬場に招待されている。しかし、1997年に起きたアジア通貨危機以降、韓国の国際騎手交流は再び中断されてしまった。
1980年の国際騎手招待、タイランドトロフィーの騎乗を 待つ騎手たち。左端に桑島孝春騎手 (『THE 15TH ASIAN RACING CONFERENCE』より) |
タイランドトロフィーで3番手を追走する桑島孝春騎手 (『THE 15TH ASIAN RACING CONFERENCE』より) |
1997年のニイガタジョッキーカップ。騎手交流競走としては最後になったこの年は向山牧騎手(中央)が優勝した
(韓国馬事会機関誌『クプソリ』1997年7月号より)
(韓国馬事会機関誌『クプソリ』1997年7月号より)
交流中断から一転して国際化推進
その状況が一変したのは、アジア競馬会議が再びソウルで開催された2005年だ。会議の開催を機に国際化推進の方針を打ち出した韓国馬事会は、ソウル競馬場で国際騎手招待を復活させ、同年に開場したプサンキョンナム競馬場にオーストラリアの騎手3名を試験的に受け入れた。そして、2007年からは、ソウル競馬場でも外国人騎手に対する期間限定免許の交付を開始するのである。(つづく)地方競馬の騎手が参加した韓国の騎手交流競走
年 | 騎手交流名称 | 日本からの参加騎手 |
1966 | 韓日親善競馬 | 武智一夫、竹山隆、星富男ほか |
1968 | 国際親善競馬 | 中野要※(詳細不明) |
1969 | 国際親善競馬 | 中野要※、清田十一(中央) |
1980 | ARC国際騎手招待 | 桑島孝春、清水出美(中央) |
1982 | 日本騎手招待 | 赤嶺本浩、山口勲、内沢信昭、塚田隆男 |
1983 | 韓日ジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、鈴木春雄、津野総夫、渡辺栄、渡邉正治 |
1985 | 韓日ジョッキーカップ | 赤間亨、五十嵐剛紹、大枝幹也、渡邉正治 |
1986 | 韓日ジョッキーカップ | 阿部充知、大枝幹也、鈴木春雄、千葉進、津野総夫 |
1987 | 韓日ジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、千葉進、津野総夫、森川一二三、吉川豊光 |
1988 | 韓日ジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、大澤健司、鈴木春雄、向山牧 |
1989 | 韓日ジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、大枝幹也、鈴木春雄、津野総夫、渡邉正治 |
1990 | 韓日ジョッキーカップ | 榎伸彦、大澤信夫、向山牧、森川一二三、渡邉正治 |
1991 | 韓日ジョッキーカップ | 赤間亨、榎伸彦、大枝幹也、向山牧、渡邉正治 |
1992 | フナバシカップ | 石﨑隆之、柿本政男、桑島孝春、田部和廣、張田京、森勇 |
〃 | ニイガタジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、大澤健司、根岸良昌、向山牧、森川一二三 |
1993 | ニイガタジョッキーカップ | 榎伸彦、大枝幹也、津野総夫、向山牧、渡邉正治 |
1994 | ニイガタジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、酒井忍、向山牧、森川一二三、山田信大 |
1995 | ニイガタジョッキーカップ | 榎伸彦、大澤健司、大枝幹也、酒井忍、渡邉正治 |
1996 | ニイガタジョッキーカップ | 五十嵐剛紹、榎伸彦、向山牧、森川一二三、山田信大 |
1997 | ニイガタジョッキーカップ | 阿部正義、榎伸彦、向山牧、森川一二三、渡邉正治 |
2009 | 国際女性騎手招待 | 岩永千明、別府真衣、宮下瞳 |
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