当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

石川慎将騎手 アジアヤングガンズチャレンジ2012 挑戦記

2012年08月14日
取材・文・写真:土屋真光

 8月4日、アジア、及びオセアニアの各地の見習い騎手を招待して行われた「アジアヤングガンズチャレンジ2012(Asian Young Guns Challenge 2012)」に、地方競馬から佐賀所属の石川慎将騎手(27歳・石川浩文厩舎)が参戦した。

各地から集まった若手騎手たち

日の丸とともに石川騎手(左)と西村騎手も登場

 このシリーズは開催地持ち回り形式で、第1回目がメルボルン、2回目ががシンガポール、第3回目の昨年は再びメルボルンで行われ、そして第4回目となる今年はマカオのタイパ競馬場が舞台となった。マカオは、かつて1993年より何度かの中断を経ながら見習い騎手招待競走を主催しており、これが礎となって現在のアジアヤングガンズチャレンジへと発展した。このシリーズの定期化によって、今年3月にカタールでも見習い騎手招待競走が行われるなど、若手騎手交流の活性化にも繋がっている。

 昨年メルボルンで開催された際にはオセアニアということもあって、オーストラリア、ニュージーランドの枠が増え、日本からは中央競馬からのみの招待となったが、今年は再度中央・地方それぞれから1名ずつの招待に拡大。さらに従来のオーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール、マカオ、南アフリカ、日本に、マレーシア(日本の地方枠同様に復活)、韓国も加わって、シリーズ名に相応しい多様性のある招待国のラインナップとなった。

 地方競馬からの招待は、一昨年のシンガポールでの開催に阪野学騎手(愛知・井上哲厩舎)がされて以来、マカオに限れば2008年に高橋悠里騎手(岩手・鈴木七郎厩舎)以来となる。一方で中央競馬からは西村太一騎手(22歳・和田正道厩舎)が招待され、地方・中央ともに3年目の騎手となった。日本からの招待騎手は、3年前の第1回開催でJRAの藤岡康太騎手が1勝を含む活躍で総合優勝を果たしており、それ以来の勝利や総合優勝に期待がかかった。
 ところで、石川慎将騎手といえば、すでに規定の勝利数を挙げているため減量アローワンスも既になく、見習いという枠から外れていると考えられるが、これは主催者であるマカオジョッキークラブによってデビュー3年目以内であれば見習いと広義に解釈(ただし、当のマカオも勝利数で減量が減る)されたため、今回の招待に至った。今年の全日本新人王争覇(総合2位)に出場した点もポイントとなったようだ。このあたりは海外特有のゆるさといったところか。

 他の招待騎手と同じく、レースの4日前である7月31日にマカオ入りした石川騎手は、主催者の計らいで翌朝から競馬場での調教に参加。調教で跨るのは実際にレースで騎乗する予定の馬で、ある程度馬の癖やコースの感触などを確かめることができる。
 朝5:30という普段から考えればかなりゆったりした時間でのスタート。海外招待騎手だけで10名ということもあって、アテンドする主催者側も騎手と騎乗馬の厩舎関係者を引き合わせ、調教のスケジュールを確認するのに右往左往。石川騎手が初日に最初に馬に跨れたのは日もすっかり昇った頃で、最初は「こんなにゆっくりすることってないんで楽ですね」と余裕だった石川騎手も、風の少ないマカオ特有の蒸し暑さに「まいったな」という表情を隠さなかった。
 石川騎手自身はマカオは過去に1回、騎手になる前にプライベートで訪問したことがあり、このタイパ競馬場にも訪問したことがあるという。ただ、その時には一般客として1、2レース見たのみで、まさか後に自分が乗ることになるとは思わず、特に印象に残すことはなかったそうだ。調教に騎乗した際の印象を尋ねると「馬の作り方も違うし、調教も全体的に『これでいいのかな?』と思うくらい軽めですね。ダートは砂の質からして全然違うけれど、ある程度前に行けないと難しそう」と分析していた。
 また、異なっていたのはこれだけではなかった。使用するステッキのレギュレーションが、日本で使用するものよりも先端にクッションが効いたものを必要としており、この時点で日本から持参したステッキが使用できないのだ。これについては早めに判明したため、レース当日までに手配することができたが、「これではいつものやり方では馬に何も伝わらないかも」と普段のステッキを通して馬に合図を送る感覚とのズレを気にしていた。

 全7レースが組まれた当日のタイパ競馬場の開催。そのうち、第2レース(砂1350メートル)、第5レース(芝1100メートル)、第6レース(芝1800メートル)の3つのレースがこのシリーズの競走。それぞれの着順に応じたポイントの合計で、シリーズ優勝が競われる。11人の参加騎手に対して、フルゲート12頭の競走もあり、この場合は地元マカオの見習い騎手がポイント加算対象外として騎乗した。
 また、騎乗馬は純粋な抽選ではなく、ハンデキャッパーや番組担当者によって、出場全騎手がポイントを獲得できるチャンスを均等になるように振り分けられた。マカオはその馬の成績で変動するレーティングによってクラスが編成されるシステムで、近いレートでも近況を考慮しての振り分けとなったようだ。ただこれも、同じクラスでも力の差がレーティングの数値以上にあり、ノーチャンスの馬はとことんノーチャンスという状況だった。

 石川騎手はシリーズで3鞍騎乗するうち、最初の騎乗となる第1戦のYou Be Happy(中文名:你會開心 セン5 J.ラウ厩舎)が前走同じコースと距離で楽勝しており有力、第2戦のMighty Thor(同:雷神 セン5 J.ラウ厩舎)は力はあるもののやや距離不足、最終戦のFields Avenue(同:異國風情 セン4 G.アレンドルフ厩舎)が未勝利でノーチャンスという、レースが進むごとにチャンスが少なくなるラインナップ。前半のレースできっちりポイントを稼ぎたいところだったが、初日の午後に行われた枠順抽選では10番枠→6番枠→4番枠と逆に有力馬ほど不利な枠順となってしまった。
 この3頭に加えて、エクストラ騎乗にリージェントブラフなどを所有していた大原詔宏さんが現地に預託している日本産馬King Pegasus(鬼魂傳說 セン4 A.ンガイ厩舎 道営と岩手で13戦1勝した後に移籍)をスタンバイ。計4戦を迎えることとなった。

枠順抽選にスーツで参加した騎手たち

騎手自らくじを引く

 最もチャンスがあると思われた第1戦は、厩舎スタッフからも「スタートも問題ないし、道中はハミを掛け続けていければチャンス」と太鼓判。締め切り時には単勝オッズも4倍の2番人気に支持されていた。しかし、問題ないと言われていたスタートで伸び上がってしまい痛恨の立ち遅れ。2コーナーから斜めに引き込んだシュートからの発走のため、石川騎手は距離ロスの多い外を無理に回って追い上げるよりも、内からじっくりと前との差を詰める作戦を選択。4コーナーで巧く内から外に出し、直線でじわじわと伸びを見せたものの、先に抜け出した各馬の脚色がほとんど衰えず、ゴールまで5着に押し上げるのが精一杯だった。
「スタートがまともだったら勝てたと思うんですが、これは悔しいですね」と奥歯を噛み締める石川騎手。「でも、直線に向いたところで、もっと上まで行けるかと思ったんですが、日本よりは手応えほど実際の脚は使ってくれないみたいです。日本で乗るイメージよりもやっぱり前にいないと」と早くも傾向を掴めたようであった。
第1戦直前

第1戦は2番人気ながら5着

 続く第2戦は出走11頭中最低人気。6月に同じクラスを勝っているものの、当時は芝1400mでハンデも5kg近く軽かった点から、評価を落としていたようだった。いわゆる薄暮開催のため、このあたりの時間(18時15分)から日も陰りはじめ、涼しさを伴った風が少しずつ馬場に吹くようになった。
 五分のスタートから先行集団に取り付こうと石川騎手は懸命に手綱を押すが、やはり距離適性の差から後方集団を走る形に。3~4コーナーで前に接近するも、再び直線入口で離されて万事休す。最後の最後でエンジンが掛かって勝ち馬から4馬身差まで詰めたが、結果は8着だった。

第2戦(8着)

最終戦を前に関係者と入念に打ち合わせる

 第3戦を迎える時点で石川騎手の得点は合計6ポイント。暫定1位の香港のアルヴィン・ン騎手が35ポイントを獲得しているため、石川騎手がここで25ポイントの1着を獲得しても総合優勝の可能性は潰えてしまっていた。騎乗馬はここまでマカオに移籍前も含めて11戦0勝ながら単勝7番人気の評価。道中は4番枠からの発走を活かして、中団やや後ろの内めを追走。3コーナー過ぎから徐々に進出を開始し、4コーナーでは前を射程圏内に。前も開いて、さぁここから!と思わせたが「行ける!と思っても馬が全然進まないんですよ。バテてるわけではなくて、反応がイマイチというか」と石川騎手も首を傾げる走りで、最終戦は7着でフィニッシュ。残念ながら合計で8ポイントと奮わず、総合順位では11人中9位でシリーズを終えた。
 尚、エクストラ騎乗した第7レースは11着(12頭)だった。

最終戦(7着)

 残念ながら結果を残せなかった今回の挑戦だったが、「レースも日本の感覚と違って『えっ!?こんな狭いインから上がってくるの!?』という経験もあったりして、思っていた以上に面白かったし、とにかく滞在を通じて楽しく過ごすことができました」と充実した表情で振り返っていた石川騎手。滞在前半は西村騎手やJRA、地全協の職員とばかり固まってしまっていたが、時間を経るに連れて言語の壁に物怖じせず他国の騎手との談笑も増えていったことが、それを如実に表していた。多少のズッコケもありながら、様々なアクティビティで歓待してくれた主催者の狙いもここにあったはずと思われる。
「もうちょっといたら、絶対に結果を残せると思うんで、ここで帰るのがなんだか残念ですね」(石川騎手)
 前向きな手応えは必ず糧となる。これがどのような形で実を結ぶかは今は判らないが、石川騎手の今後の躍進に繋がることを期待したい。
総合優勝は香港のング・カ=チュン騎手