ダービーウイーク総括 タイトル

地方競馬らしい血のドラマ
若手の台頭と実績厩舎の活躍

■印象的だった東京ダービー

 7年目を迎えたダービーウイークで、もっとも印象に残ったのは、やはり東京ダービーだ。レースハイライトの記事でも触れられているが、調教師、馬主、生産牧場、種牡馬がすべて同じというワンツーの決着。さらには東京ダービー初挑戦の森下淳平調教師は32歳、東京ダービー3度目の騎乗という本橋孝太騎手は23歳と、若いコンビでのダービー制覇。とにかく記録満載の東京ダービーだった。

 ちなみに馬主の伊達泰明さん、サンシャイン牧場、種牡馬フィガロでは、2007年にもアンパサンドが東京ダービーを制している。
 フィガロは外国産馬だが、先代の伊達秀和さんの名義で中央で走った。新馬戦から京都(旧)3歳ステークスを連勝。2番人気で臨んだ朝日杯(旧)3歳ステークスは3着だったが、
勝ったのはグラスワンダーで、2着マイネルラヴ、4着アグネスワールドと、のちのGⅠ馬に囲まれてのゴールだった。フィガロはその3戦のみで引退して種牡馬入り。多くの産駒はサンシャイン牧場の生産で、伊達さんファミリーの持ち馬としてデビューしている。そうした中から2頭の東京ダービー馬を出したというのはすばらしい。

 ちなみにアンパサンドは曾祖母が伊達秀和さんの所有で1981年に中央の桜花賞を制したブロケード。その孫でアンパサンドの母となるアンビエントからサンシャイン牧場での自家生産。そして今年東京ダービー馬となったプレティオラスは、曾祖母のアローローゼットからサンシャイン牧場&伊達さんの自家生産馬となっている。

 話は逸れるが、同じように規模がそれほど大きくないオーナーブリーダーの活躍馬には、2010年に牝馬ながら北海道の三冠馬となったクラキンコがいる。父母仔による北海優駿制覇でも話題になったが、倉見牧場の倉見利弘さんが先代の時代から自家生産馬として大事に育ててきた血統だ。
 こうした血のドラマは競馬をいっそう盛り上げることは間違いない。5月31日の星雲賞(門別)でクラキンコが1年ぶりの勝利を挙げたとき、場内のファンからは拍手が起こったということでも、その人気のほどがわかる。
 ちなみにクラキンコの全弟クラグオー(牡2)が、デビュー2戦目となった6月13日のアタックチャレンジで初勝利を挙げ、こちらも注目を集めそうだ。
 こうした血統や生産に関するドラマ性は、地方競馬の大きな魅力のひとつといえるだろう。


■活躍馬の血筋がダービー馬に

 今年のダービーウイークは、ほかにも血統のドラマが目立った。
九州ダービー栄城賞(エスワンプリンス)

 九州ダービー栄城賞を制したエスワンプリンスは、母のエスワンスペクターも同じく手島勝利調教師が管理し、門別に遠征してエーデルワイス賞GⅢを制していた。
岩手ダービーダイヤモンドカップ(アスペクト)

 岩手ダービーダイヤモンドカップを制したアスペクトは、母のアプローズフラワーが南部駒賞と東北サラブレッド(旧)3歳チャンピオンを制し、東北地区の2歳チャンピオンとなった。管理していたのは、ともに櫻田浩三調教師だ。
北海優駿(ニシノファイター)

 北海優駿を制したニシノファイターは、半兄に09年の高知三冠馬となったグランシングがいる。
東海ダービー(マイネルセグメント・写真左)

 東海ダービーを制したマイネルセグメントは、父のアネスデジタルが00年に名古屋優駿GⅢを勝利。名古屋優駿は、当時は中央との交流重賞で、現在の東海ダービーに引き継がれている。それゆえ父仔での東海ダービー制覇と言っていいだろう。
 ダービーウイークの勝ち馬の種牡馬を順に並べると、アジュディケーティング、ティンバーカントリー、フォーティナイナーズサン、フィガロ、ジェニュイン、アグネスデジタル。近年、JRAのクラシック出走馬の多くをサンデーサイレンス系が占めているのとは対照的に、この中でサンデー系種牡馬はジェニュインのみ。昨年のダービーウイーク勝ち馬も種牡馬がサンデー系だったのは2頭のみだったので、これは例年どおりの傾向。単に中央と地方に入厩する馬の価格差ということもあるが、一方では地方の活躍馬らしい血統ともいえる。
 ジャパンダートダービーJpnⅠに向けて、それぞれレース直後の話では、佐賀のエスワンプリンスがかなり前向きで、東京ダービー1、2着のプレティオラスとプーラヴィーダも状態次第で出走を予定。それ以外は半々の可能性か、遠征には消極的という雰囲気だった。


■実績のある厩舎がダービーを制す

 記録面では、プレティオラスの森下調教師が東京ダービー初挑戦だったのとは対照的に、実績のある厩舎の活躍が目立った。

 ニシノファイターの堂山芳則調教師は、先のクラキンコも含め北海優駿4連覇の快挙で、これが6勝目。












 エスワンプリンスの手島勝利調教師は、ダービーウイーク初年度の06年にはユウワンで勝利。このときも同じ鮫島克也騎手とのコンビだった。ちなみに手島調教師は騎手時代にも、83年にチトセボーイで、94年にトミシュガーで栄城賞を制している。

 アスペクトの櫻田浩三調教師も、やはり06年にオウシュウクラウンで岩手ダービーを制し、同馬はジャパンダートダービーGⅠでも3着と好走した。











 マイネルセグメントの川西毅調教師は、08年のヒシウォーシイ、昨年のアムロに続いてダービーウイークとなってからの東海ダービー3勝目。ちなみにマイネルセグメントは前走の駿蹄賞で7着に敗れていたこともあって4番人気での勝利。アムロも2走前の駿蹄賞でやはり7着に敗れ、7番人気での勝利だった。重賞初挑戦だったヒシウォーシイも4番人気と、大一番に向けて最高の状態に仕上げる手腕はすばらしい。

 騎手では、鮫島克也騎手が92年にニシキトウカイでの勝利があって栄城賞3勝目。












 小国博行騎手は北海優駿は初勝利だが、上山時代に、こまくさ賞・上山ダービーと、東北3場持ち回りの東北優駿をそれぞれ1勝ずつ。


 木村健騎手は昨年のオオエライジンに続いての連覇となった。










 ちなみに東海ダービーでマイネルセグメントを勝利に導いた今井貴大騎手は平成生まれの第1号ジョッキーで、同馬でのライデンリーダー記念が重賞初勝利だった。


■売上げでは苦戦した7年目

 売上面ではやや厳しい結果となった。前年比でダービーウイーク全レースが100%割れとなったのは初めてのこと。
 とはいえ佐賀は2010年まで日曜開催だったのを、初めて平日(月曜)開催にした昨年は前年比227.4%と大幅アップ。そして今年は金曜日の開催で同94.4%と微減。それでも昨年に続いて2番目の売上げだけに、まずまずの数字といえるのではないだろうか。
 逆に唯一前年比90%を割ったのは大井で、83.9%。4億8800万円余りは、ダービーウイークとなってから初の5億円割れとなった。
 しかしながらダービー当日1日の売得金では、佐賀、盛岡、名古屋が前年比100%超えとなった。佐賀と名古屋は1日全レース発売の場外発売所が増えたこと、盛岡は昨年が震災明けで大きく落ち込んでいたことが原因と思われる。なお大井は当日1日の売得金でも唯一90%割れとなった。
 売上げ面ではやや厳しい結果となったが、今年秋からはダート交流重賞のほか、いくつかの地方主要重賞もJRAのPATでの馬券発売が開始される予定となっている。JRAのファンが地方競馬にも興味を持ってもらえるかどうか、売り上げ回復のひとつのきっかけとなるよう願いたい。
ダービーウイーク各レースの売上げ推移(単位:円)
佐賀 岩手 北海道 大井 兵庫 名古屋
06 42,761,900 68,942,300 69,463,800 576,502,900 95,993,900 59,740,700
07 45,939,000 58,080,400 72,235,300 678,252,500 105,352,600 71,532,000
08 48,518,500 55,420,900 72,296,500 677,048,000 97,264,200 72,165,500
09 42,694,900 61,762,000 62,921,600 678,074,000 83,941,200 59,020,700
10 24,037,700 63,882,000 69,162,800 646,274,900 84,641,900 75,932,200
11 54,665,200 52,363,000 65,796,000 581,423,300 89,943,800 67,056,400
12 51,584,300 51,858,600 61,273,500 488,065,200 84,923,100 64,089,500


文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR