当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。
手綱に東北への想いを込めて――震災復興祈念ジョッキーズチームマッチ
2012年07月20日
文:井上オークス写真:森澤志津雄(いちかんぽ)、斎藤修
7月16日、盛岡競馬場。パドックの控え室。ジョッキーズチームマッチに出場する12名が、騎手紹介セレモニーが始まるのを待っている。
「雨なのに、すごくお客さん入ってるね」
「あの女の子たちは、楽天のチアガール? 華やかだな~。この雰囲気の中に出て行くなんて、緊張する(笑)!」
筆者もわけあって、控え室に紛れ込んでいる。「チームJRA」の内田博幸騎手が、「俺はチームJAPANにも入れるんじゃない?」なんて笑いながら、体をほぐしている。まだレースまで時間があるのに、やけに入念なストレッチだなと思っていると――。
パドックのド真ん中で、内田騎手の体がふわりと宙に舞った。大入りの観客の前で、得意のバク宙を炸裂させたのである。大歓声が上がって、盛岡競馬場に笑顔が咲き乱れた。
昨年8月、復興を祈念して行われた「JRA」VS「岩手」のチーム対抗戦。今年はJRA選抜の「チームJRA」、岩手競馬選抜の「チームIWATE」に地方競馬選抜の「チームJAPAN」の3チームが覇を争うこととなり、よりパワーアップして帰ってきた。豪華メンバーを紹介しよう。
チームJRAのメンバーは、蛯名正義騎手、内田博幸騎手、岩田康誠騎手、川須栄彦騎手。JRAリーディングの上位に名を連ねるベテラン勢と、昨年大ブレイクした若手のホープ川須騎手がタッグを組む。
チームIWATEのメンバーは、村上忍騎手、斎藤雄一騎手、山本政聡騎手、山本聡哉騎手。リーディングの村上騎手は35歳で、斎藤騎手と山本兄弟は20代。フレッシュな顔ぶれが揃った。
チームJAPANのメンバーは、赤岡修次騎手(高知)、戸部尚実騎手(愛知)、五十嵐冬樹騎手(北海道)、坂井英光騎手(大井)。坂井騎手は金曜に落馬負傷した戸崎圭太騎手のピンチヒッターを務める。
チームJRAの蛯名キャプテンは、「復興を願って、岩手に来ました」と言った。すべての競馬関係者は、同じ使命感を抱いている。
「競馬を通じて、東北に元気を届けたい」
手綱に真摯な想いを込めて、震災復興祈念「ジョッキーズチームマッチ」の幕が開いた。
第1戦「絆」。1番人気に支持されたチームJRA岩田康誠&マイネルサウダージがハナを切って、チームJAPAN赤岡修次&リスペクトキャットが2番手を追走。この2人がレースを引っ張って、淡々とした流れで直線に入る。この日の馬場状態は「不良」で、朝から前残りのレースが続いている。このまま行った行ったで決まるのか? と、思いきや。
第1戦『絆』
直線半ば、チームIWATE村上忍&マルヨサイレンスが、外から2頭を交わしにかかった。その瞬間、内からチームJAPAN戸部尚実&アドマイヤサムライが抜け出すと、一気に突き放して、先頭でゴールを駆け抜けた。「直線はもう引っ張り切れないくらいに手応えがよくて、外に出そうとした。だけど前が壁になって出せなくて、ちょっとみっともなかったですね(苦笑)。苦しまぎれに内を突いたら、すごくいい脚を使ってくれました」
アドマイヤサムライは気難しい馬で、勝ち切れないレースが続いていた。青森出身の戸部騎手。48歳の苦労人が、「粘り強い東北魂」をほとばしらせてつかんだ勝利である。
「去年の『東北ジョッキーズカップ』に参加したときは人気馬に乗って着外だったから、今回は結果を出せてホッとしています。これでチーム優勝に、一歩近づいたんじゃないですか!?」
1戦目を終えた時点でのチームポイントは……。
1位 チームJAPAN 36P
2位 チームIWATE 34P
3位 チームJRA 21P
JAPANとIWATEの差は、わずか2点だ。
第2戦「輝」。チームJAPAN赤岡修次&グラスシューターが、大外枠からすんなりハナを奪った。グラスシューターは逃げ馬で、赤岡自身も「逃げ」を得意としている。しかも1番人気。もし赤岡が逃げ切れば、チームJAPANが優勝を果たすかもしれない。
ところが2番手につけたチームJAPAN坂井英光&アドマイヤホームが、赤岡にじわじわとプレッシャーをかけてきた。それでも赤岡の手応えには、まだ余裕があるように見えるが……。
直線。赤岡VS坂井というチームJAPAN同士の叩き合いが勃発した。その外から、チームIWATE村上忍&ライジングヤマトが懸命に追い上げる。鬼気迫る攻防に、大声援が沸き起こる。と、そのとき。
チームIWATE斎藤雄一&ヤマニンエグザルトが、内からスルスルと伸びてきた。そして3頭まとめて、鮮やかに差し切ったのである。2着に村上が食い込んで、チームIWATEのワンツー決着となった。
12頭立て12番人気12歳のヤマニンエグザルトに騎乗して大仕事をやってのけた斎藤は、ド派手なガッツポーズで喜びを爆発させた。
「最高の気分です。ガッツポーズをしたときは、自分が誰だかわからなくなった(笑)。俺、1戦目はブービーで1点しか取れなくて、チームの足を引っ張ってしまったんです。勝ててよかった……」
優勝 チームIWATE 81P
2位 チームJAPAN 65P
3位 チームJRA 36P
チームIWATEのキャプテンを務めた村上騎手が、2着・2着でチームを優勝に導き、個人優勝を果たした。
「勝てればもっとよかったんですけどね。2戦目は内から誰が来たのかと思ったら、斎藤でした(笑)。去年はまったく駄目でJRAチームに負けてしまったから、今年は貢献できてよかった。うちのチームは若い子ばかりだから、いい経験になったと思います」
昨年は人気馬で惨敗して真っ青になっていた山本政聡騎手と、トップジョッキーの腕比べを初めて体験した山本聡哉騎手の「山本兄弟」もしっかりポイントをゲットし、チームIWATE一丸となって優勝をつかんだ。
村上キャプテンは表彰セレモニーで、「雨の中、たくさんのファンのみなさんの声援が、私たちの力になって、とても白熱したいいレースができたと思います」と言った。本当に、2戦とも素晴らしいレースだった。
チームJAPANの赤岡キャプテンは、4着・3着で惜しくも優勝を逃したことを悔しがりながらも、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「地方代表として恥ずかしくないレースはできました。東北のみなさんを少しでも元気づけられたなら、嬉しく思います。中央と地方が一体になった、素晴らしいイベントですね」
内田博幸騎手はバク宙から始まって、表彰セレモニー後のチャリティーオークションでもファンサービスに徹していた。内田騎手の言葉で、名手の祭典を締めくくろう。
「僕はいい結果を残せなかったんですけど……さすが岩手の騎手ですね。素晴らしかったです。また来年も、こうしてJRAと地方競馬のトップジョッキーが集まって、震災の復興として岩手を盛り上げていければ、このレースを続けていければと思っています。これからも、競馬全体の応援をよろしくお願いします!」
チームJAPANの応援団長を務めた筆者 |
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