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連載第2回 1999年 MRO金賞

旅の土産は鮮やかな直線一気
トラベラー


 
この“名勝負”を境に飛躍的な成長を遂げたトラベラー

(映像ファイルサイズ:19MB)

 北陸・金沢の地から全国の強豪に挑み続けた、文字通り“旅人”トラベラー。その足掛かりとなったのが、1999年8月のMRO金賞だろう。中央交流の古馬重賞だったMRO金賞が、現在の形である北陸・東海・近畿地区交流の3歳・距離1700mにリニューアルされたのがこの年。笠松から1頭、名古屋から1頭、計2頭の遠征馬を加えた10頭で行われた。
 この世代で実力ナンバー1だったのはゴルデンコーク。地元金沢では重賞2勝を含む7戦7勝。2度の敗戦は中山のスプリングS16着と名古屋優駿4着(地方馬最先着)。当然、このレースでも1番人気に推されたのだが……。
 この年は全国的な猛暑に見舞われていた。前走・名古屋優駿から2カ月ほど間隔をあけたゴルデンコークだったが、本来の実力を発揮できる状態にはなかった。「極度の夏負けで絶不調だった。地元の顔でもあるこの馬が出走しなければいけないという義務感から、無理に出走させてしまったのです。使わなければ……と今でも後悔しています」と当時厩務員だった服部克雄調教師が振り返る。
 対するトラベラーは、北日本新聞杯、日本海ダービー共に4着。6番人気でこのレースを迎えた。1月のヤングチャンピオンではゴルデンコークの2着、名古屋の東海クイーンカップで重賞初制覇を果たしたが、阪神のチューリップ賞に挑戦(13着)した後、金沢競馬開幕後は7戦して未勝利。前走・4才(当時)A1も手薄な相手にクビ差2着に敗れていたが、「中央遠征後に食いが落ちて、当時は馬体も(420キロ台に)減っていたが、ちょうど調子が上がってきていた時でした。馬体重が戻るのはもう少し後になるのですが、これならいいレースになると踏んでいました」と小原典夫調教師は自信を持って送り出していたのだ。
 レースは快速ゴルデンコークの逃げを2番人気の名古屋ケイオーミステリー、古馬B2を2着→1着後の転入3戦目だった4番人気ノーザングレーが追う展開。前半3ハロンが推定37秒6という“超”ハイペースでレースは進んだ。「当時はついて行けず後方からの競馬だった」(小原調教師)というトラベラーは最後方から。3コーナー辺りからエンジンが掛かり始めたものの、4角ではまだ先団からは離れた中団辺り。本調子を欠く上に厳しいマークにあったゴルデンコークが直線で失速する中、1頭だけケタ違いの伸びを見せたのがトラベラーだった。踏ん張るノーザングレーを捕らえて最後は2馬身の差。流れも向いたとは言え、それにしても鮮やかな直線一気。ちなみに単勝配当は4280円。
 「展開がハマっただけでは…」とフロック視する声もあったが、3走後の盛岡ダービーグランプリで最低人気を覆す3着と大健闘し、打ち消されることとなる。そして翌年は地元金沢では百万石賞、北國王冠、中日杯の主要な長距離重賞を同一年に3つすべて制覇する偉業を達成。更にダートグレードレースでも、船橋の日本テレビ盃3着、名古屋の東海菊花賞3着(ファストフレンドに0秒3差まで迫った)と好走。全国区での活躍に地元ファンは歓喜。旅するごとに力を付けてきた。
 当時開業して間もなかった小原調教師が管理していた若駒5頭の中の1頭だったトラベラー。2歳夏のデビュー時には416キロ。決して目立つ馬ではなかったが、大活躍した4歳時には450キロ前後まで馬が大きくなり、レースでも中団辺りを追走できるようになっていた。名牝に育った秘訣は、「負荷をかけて馬を強くする」という信念で鍛え上げたこと、そして馬がそれに耐えてみせたことであろう。
 「負荷をかけて馬を強くするということは故障などのリスクも伴うわけです。3歳の春に調子を落とした時はこれでいいのだろうかと悩んだりもしました。それに遠征先で他地区の方とお話させていただく機会が多かったのも自分にとっては大きかった。ひと言で言うと、勉強させてもらった馬ですね」と小原調教師は語る。
 2000年12月の中日杯を制した後、休養に出たトラベラーだが、トモに屈腱炎を発症。翌年の秋に復帰を果たしたが、勝ち星を挙げられぬまま笠松に移籍、そして2002年オグリキャップ記念10着(最下位)を最後に志半ばで引退し繁殖入り。果たせなかったダートグレードレース制覇という夢はトラベラーの仔や小原調教師の管理馬に引き継がれることとなった。

文●大井明洋(競馬カナザワ)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック
(協力:金沢競馬)

第43回 MRO金賞 平成11年(1999年)8月15日
  サラ系4歳オープン 1着賞金500万円 金沢1,700m 曇・不良 
着順
枠番
馬番
馬名
所属
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 7 8 トラベラー 金沢 54 中川 雅之 1.50.4 6
2 5 5 ノーザングレー 金沢 54 蔵重 浩一郎 2 4
3 8 10 ワカオリーナ 金沢 54 山中 利夫 1/2 3
4 6 6 ユキノショウ 金沢 56 古性 秀之 3/4 5
5 8 9 ケイオーミステリー 愛知 56 竹下 太 3/4 2
6 2 2 ゴルデンコーク 金沢 56 渡辺 壮 1
7 3 3 マルカチーノ 笠松 56 濱口 楠彦 8 10
8 7 7 ノホホン 金沢 54 長嶋 和彦 2 1/2 7
9 4 4 パールタイヨウ 金沢 56 平瀬 城久 8
10 1 1 イワノタイガー 金沢 56 米倉 知 2 9
払戻金 単勝4,280円 複勝370円・280円・230円 枠連複3,450円 馬連複5,080円 枠連単9,640円
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