10月10日(月・祝) 『岩手競馬を支援する日』
2011年10月21日
『競馬で心がひとつになった日』
2011年10月10日(月・祝)は、岩手競馬の歴史に残る日となった。岩手競馬最大のレースである『マイルチャンピオンシップ 南部杯JpnT』を東京競馬場で行うことが発表されたのが、6月29日のこと。以来、中央・地方の垣根を越えて、この日に向けての準備が進められてきた。
この日最大の注目は、Road To JBCに指定され、東京で行なわれた南部杯であったことは言うまでもないが、南部杯の地元、盛岡競馬場でもまた、特別な日を演出する様々な楽しみが用意されていた。
●全国の東北魂が盛岡で激突
東北地方出身の騎手で争われた『東北ジョッキーズカップ』は、8月15日(月)に行なわれて盛り上がりを見せた『騎手対抗戦 JRA vs 岩手競馬』に次ぐ、ともにダート1400mで行なわれる2レースの合計ポイントで争われる騎手交流競走の第2弾。岩手所属の4騎手に加え、他地区からも8名の東北出身騎手が集まり、この日にふさわしい特別なレースが行われた。
第1戦はユウサンチップ(11番)が制した
第1戦では、逃げたワタリハヤタケ(村上忍騎手:岩手)をヤマニンワーシップ(高野毅騎手:大井)がかわして先頭に。しかしゴール直前で拜原靖之騎手(川崎)騎乗のユウサンチップがクビ差前に出て9番人気からの1着。3連単149万円余の配当がつく波乱のレースとなった。
第2戦は、最後の直線でも馬群が広がらない大接戦。ゴール直前で抜け出した服部大地騎手(金沢)騎乗のゲンパチドリームが制し、2着には大外から追い込んだ高野騎手騎乗のオリオンザクロノスが入り、同騎手は2戦連続の2着。総合優勝の栄誉を勝ち取った。
第2戦を制したゲンパチドリーム
高野騎手は福島県相馬市の出身で地元の伝統行事、相馬野馬追にも参加したことがあるとのこと。東北出身騎手限定戦とはいえ、全国から集まった騎手と迎え撃った名手揃いの岩手勢4人(菅原勲、村上忍、阿部英俊、山本政聡)は28歳とまだまだ若手といえる同騎手にとって、簡単に勝てる相手ではなかったはず。2レースとも2着とはいえ、直線での激しい追い込みには強い気持ちとパワーが感じられた。総合優勝を果たした高野騎手であるが、レースに勝つことはできなかった。本人はそのことに納得がいかない様子で、レース後の検量室前や表彰式でのインタビューで悔しさを口にしていたのが印象的だった。デビュー8年目、この日終了時点で通算38勝。この優勝を機に、東北出身騎手の一人として、南関東でのさらなる活躍を見せてくれることを期待したい。
見事優勝した高野騎手 |
左から服部騎手(2位)、高野騎手、拜原騎手(3位) |
●府中に響いた南部杯ファンファーレ
『東北ジョッキーズカップ』2レースの合間の発走となった『マイルチャンピオンシップ南部杯JpnT』。締切直前、盛岡競馬場内のJRAの発売施設では、新聞とにらめっこをする人、マークシートに想いを込める人、発売機に並ぶ人で大混雑に。そしてレース直前、大型ビジョンから例年南部杯で使用されているファンファーレが流れると、スタンドは今から目の前のコースでレースが始まるのではないかと思うほどの盛り上がりを見せ、このレースへの期待が伝わってきた。
返し馬でのロックハンドスター
その興奮がスタンドを支配したまま、レースがスタート。しかし発走直後、それは悲鳴とため息に変わってしまう。ロックハンドスター競走中止。その時放映されていた映像に、後方を走っていた同馬は映っておらず、実況音声でしかその事実を確認することができなかった。画面外で起こった予想外のアクシデントに場内は静まり返る。昨年の岩手ダービーダイヤモンドカップの勝ち馬で、4歳ながら重賞7勝を挙げていた同馬は、岩手競馬の新たなシンボルになることを期待された、まさに“岩手の星”。その最悪の結果は、最後の直線で差し返したトランセンドの強烈な末脚よりも衝撃的な出来事だった。
●絆カップは元岩手所属馬の里帰り勝利
盛岡競馬場で、南部杯の代わりに行なわれたのが、『第1回 絆カップ』。ダート1400mの新設重賞には、地元の9頭に加え、船橋から2頭、北海道と笠松から1頭ずつの13頭が出走。レースは道中中団で追走していたリュウノボーイ(船橋 齋藤敏厩舎・村上忍騎手)が3コーナーからペースを上げて先頭を追い始めると直線半ばで前を捕らえて最後は4馬身差の圧勝。
3歳途中まで岩手に所属していた同馬は、つい3日前に死亡した名種牡馬サッカーボーイの産駒。しかも、2年前にロックハンドスターがデビューした盛岡での新馬戦(同馬は3着)を制したのがリュウノボーイだった。『絆』という名で行なわれた記念すべきレースでのこの縁は、単なる偶然ではないような気がしてならない。
●各地で岩手の元気を伝えたイベント
当日は各地の競馬場や場外発売施設で、岩手の特産物のPRが行われた。震災そのものの被害に加え、風評被害にも苦しめられている東北地方の産業を支援しようと、震災以来、全国のいたる所で支援活動が行われていることは、様々なメディアが伝えている。特に多くの人が集まる競馬場での活動は、東北産品の魅力を伝えるのに最も適した場所の一つだろう。
盛岡競馬場では、被災地などで活動している『復興食堂』の活気あふれる移動屋台が登場し、東北産品の特色を生かしたメニューに人々の笑顔があふれていた。 当日の大井競馬場に登場したのは、盛岡競馬場グルメの代名詞で、単に大きいだけでなく、味にも定評があるジャンボ焼き鳥。水沢ホルモンとともに登場し、大井でも大人気に。好評を受けて、11月2日と3日にも登場するとのこと。JBCデーでも大人気となるだろう。
一方東京競馬場では、岩手の伝統芸能、チャグチャグ馬コとさんさ踊りが披露され、JRAのファンにも岩手の魅力と元気を伝えていた。
●大切なのはこれで終わりにしないこと
この日に限らず、以前より中央・地方を問わず、全国の競馬場で様々な形で行なわれている支援活動。岩手競馬だけでなく、チャグチャグ馬コや相馬野馬追などの伝統的な馬事文化を後世に伝えていくために支援していくことも、競馬サークルに課せられた責務の一つであると言える。中央と地方の垣根を越えて、まさに“心を一つに”力を合わせ、日本の競馬そして馬事文化全体の継続、発展に向けて、この日で終わりではなく、ひとつの区切りとして、続けて行くべきと強く思う。
かつて、『もはや戦後ではない』という言葉が、日本の高度成長期を象徴した。
この日、盛岡競馬場でのレース、関係者、そしてファンの様子を見ていると、『もはや被災地ではない』という言葉が頭に浮かんだ。例えば東北から離れた他の競馬場とも何ら変わりなく、騎手と馬が全力でレースをし、ファンの笑顔が見える。以前と同じように競馬が行われている。
もちろんそれは、大きな勘違いである。内陸に位置する盛岡競馬場で見聞きしただけではわかるはずがない。沿岸では閉鎖となった岩手競馬の場外施設や元の生活に戻れない人々が大勢いることを忘れてはならない。
盛岡競馬場では、5月から競馬が再開され、12月10日(土)からは水沢競馬場での開催が予定されており、競馬は元の姿を取り戻そうとしている。
だからと言って、支援を終わりにしてはいけない。私たちは、これからも競馬を通して微力ながら岩手と東北の力になれるはずである。
日本の競馬界が、岩手競馬のためにひとつになったこの日を区切りとして、これからも岩手競馬が、岩手県そして東北の復興をリードし、その力になることを願っている。
取材・文・写真:NAR
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