人気馬の強い勝ち方が印象的
JDDに向けても高まる期待


■震災後に迎えたダービー

 6年目を迎えたダービーウイークで、まず心からよかったと思えたのが、従来どおり全国6戦の“ダービー”が無事に行われたこと。
 3月11日の大震災以降、岩手競馬は再開できるのかどうかという不安を抱えたまま2カ月近くを過ごさなければならなかった。不幸中の幸いという言い方をしていいのかどうか、岩手競馬は水沢競馬場のスタンドと沿岸地域のテレトラックに被害があったものの、水沢、盛岡ともに人馬やコースにはほとんど影響がなかった。震災のあとも開幕に向け調教は続けられていたという。
岩手競馬開幕セレモニー(5月14日)

 とはいえ、しばらくは競馬開催のメドが立たず、その間かなりの頭数が他地区に移籍することになってしまった。競馬を再開しても頭数が足りるのかどうか。そうしたことも心配されるようになっていた。
 そうした状況の中、3月の特別開催も含めれば約2カ月遅れとなったものの、5月14日の盛岡で岩手競馬は無事に開幕を迎えることができた。ただスタンドに被害のあった水沢競馬場での開催はメドが立っておらず、盛岡競馬場のみで12月5日までと、日数を減らしての開催。それでも大震災による被害の大きさを考えれば、無事に競馬が行われることだけでもよしとすべきだろう。
ベストマイヒーロー

 ダービーウイークとして足並みを揃えて開催することができた岩手ダービーダイヤモンドカップは、単勝元返しのベストマイヒーローが次元の違う力を見せて圧勝。昨年三冠馬となったロックハンドスターに続く、岩手のスター候補の誕生となった。
 岩手では、かつてメイセイオペラやトーホウエンペラーが全国区で活躍して競馬を盛り上げたが、ベストマイヒーローもそうしたレベルでの活躍を見せられるようになれば、競馬ファンのみならず、岩手全体が盛り上がることだろう。過度の期待は陣営にとって負担となるかもしれないが、こういう時期だけに、東北地区から全国区の活躍馬が出ることを期待したい。


■伏兵の好走と人気馬の圧勝

 2011年のダービーウイークは、伏兵が好走し波乱になったレースと、人気馬が強い勝ち方をしたレースとにはっきり別れた。
九州ダービー栄城賞(コスモノーズアート)

 九州ダービー栄城賞を勝ったのは5番人気のコスモノーズアート。飛燕賞5着、前走のトライアル鯱の門特選でも前2頭からやや離れた3着だっただけにこの人気も当然。直線では、先に抜けだしていたリネンハイブリットを見事に差し切った。荒尾ダービーを圧勝して断然人気となったリリーは、終始カノヤハヤブサにつつかれる厳しい展開となり、向正面からずるずると後退して最下位12着。このあたりがダービーというレースの厳しさでもあり、牝馬ゆえのもろさもあったのかもしれない。
北海優駿(ピエールタイガー・写真左)
 北海優駿は、今季2連勝で1番人気となったサントメジャーが3コーナーあたりで掛かって抑えきれずに先頭に立ってしまい、結果は8着。5番人気ピエールタイガーと2番人気スタープロフィットが門別の長い直線一杯を使っての叩き合いとなり、長い写真判定の末、ピエールタイガーの勝利となった。ここまでの勝ち星は1200メートルで2勝。

しかもその1200メートルで争われた一冠目の北斗盃を1番人気に支持されながら3着に敗れていたのだから、ここで人気を落としたのも仕方ない。とはいえ2歳時には1800メートルのブリーダーズゴールドジュニアカップでの4着があるなど、堂山芳則調教師はもともと距離はこなせると考えていたようだ。それにしてもホッカイドウ競馬は4月終盤に開幕してから1カ月とちょっとで“ダービー”となるだけに予想は難しい。

 東京ダービーは、単勝1.2倍の圧倒的人気となったクラーベセクレタが順当勝ちをおさめ、牝馬による20年ぶりの東京ダービー制覇となった。しかし京浜盃、羽田盃がまったくの楽勝だったのとは異なり、相手関係的にはそれほど変わらないにもかかわらず、3コーナーあたりから次々と入れ替わって何頭かに競りかけられた。それこそがダービーというレースの厳しさなのだろう。しかしそれをも跳ね返して勝つのだから、やはり今年の南関東の3歳戦では相当力が抜けていると見てよさそうだ。

 兵庫ダービーは、単勝1.9倍のオオエライジンと、同1.7倍のホクセツサンデーが1周目の1コーナーあたりから早くも一騎打ちの様相。しかしオオエライジンが余裕十分の手ごたえで直線突き放し7馬身差をつけての圧勝となった。一冠目の菊水賞と二冠目の兵庫チャンピオンシップJpnUは骨膜炎のため回避したが、これでデビューから7連勝とした。締切り少し前まで断然人気だったオオエライジンは、最終的に単勝1番人気をホクセツサンデーに譲ったのだが、連勝の馬券ではやはりオオエライジンのほうから売れていた。おそらく締切直前にホクセツサンデーの単勝が大量に売れたのではないだろうか。それにしてもオオエライジンは、兵庫チャンピオンシップで中央馬を相手に6馬身差の2着だったホクセツサンデーに、それ以上の7馬身差を勝ってしまうのだから、相当な器と見てよさそうだ。

東海ダービー(アムロ・写真左)
 東海ダービーを勝ったのは、7番人気のアムロ。重賞初挑戦となった前々走の駿蹄賞で7着に敗れていたが、巻き返してのタイトルが“ダービー”となった。それにしても惜しかったのは1番人気のミサキティンバーだ。もともと直線一気の末脚を発揮する馬で、今回もそういうレースを見せたものの、残念ながらハナ差届かず。そうした脚質ゆえに、重賞を2勝しているものの、2着もこれで3度目となった。山本茜騎手はNARグランプリの表彰式の際に、ミサキティンバーで東海ダービーを勝つことを今年の目標として挙げていただけに、さぞや悔しいダービーとなったことだろう。

 岩手ダービーダイヤモンドカップは、最初にも触れたとおり期待のベストマイヒーローが余裕の勝利。2番人気のヤマトスバルがピタリと2番手でマークしたが、中団から押し上げてきた6番人気のスパルタンに半馬身交わされた。抜けて強い馬が1頭いるときの2着馬の予想というのも難しい。


■ジャパンダートダービーへ向けて

 7月13日に行われるジャパンダートダービーJpnTへ向けては、当然のことながら、人気にこたえて強い勝ち方を見せた3頭に期待がかかる。
東京ダービー(クラーべセクレタ)

 クラーベセクレタには、ロジータ以来22年ぶりの牝馬による南関東三冠制覇の期待がかかる。東京ダービーで経験している舞台だけに、中央勢や他地区勢と比べてもアドバンテージは大きい。ジャパンダートダービーの勝ちタイムは、不良馬場で極端に速かったフリオーソ(2分2秒9)の年を除けば、近年ではだいたい2分4〜5秒台。東京ダービーの勝ちタイムは2分6秒5だったが、流れ次第でもう少し詰めることは可能だろう。

 期待したのは、デビュー以来7戦全勝とまだ底を見せていないオオエライジン。
兵庫ダービー(オオエライジン)

兵庫ダービーでの1870メートル、良馬場1分58秒6というタイムはきわめて優秀だ。同じコースで争われた兵庫チャンピオンシップJpnUを勝ったエーシンブランの2分0秒9よりも、なんと2秒3も速い。過去12回の兵庫チャンピオンシップの勝ちタイムを見ても、オオエライジンのタイムより速いのは02年インタータイヨウの1分57秒5と、04年メイショウムネノリの1分57秒3のみ。
しかしこの2回ともにタイムの出やすい不良馬場だったことを考えれば、単純なタイム比較ではあるものの、オオエライジンは兵庫チャンピオンシップの歴代勝ち馬より能力は上と見ることもできる。その後のスポーツ紙などの報道を見るとジャパンダートダービー出走へは前向きのようで、頂点のJpnTを盛り上げるためにも出走を願いたい。

岩手ダービーダイヤモンドC(ベストマイヒーロー)
 ベストマイヒーローの岩手ダービーダイヤモンドカップは、すでにジャパンダートダービーを見据えての一戦だったという。それゆえの逃げの作戦。結果、楽勝だったが、内容的には陣営に不満が残ったようだ。返し馬でテンションが上がったこと、道中物見をしてペースを上げられなかったことなどだ。まだ地元岩手だけでしかレースをしたことがなく、初の長距離輸送、初のナイターなど不安も少なくないが、逆に今回のダイヤモンドカップで課題がはっきりと見えただけに、克服できればさらに力を発揮できる可能性はある。すでに調教ではロックハンドスターを子供扱いしているほどで、馬主、調教師、騎手がまったく同じ陣営にとっては、昨年のロックハンドスター(9着)以上の結果をと期待は大きい。

■月曜開催の佐賀は大幅アップ

 最後に開催成績についても触れておきたい。
 これまで初日の日曜日に行われてきた九州ダービー栄城賞が初めて月曜日の開催となり、すべてのレースが平日開催となった。
 その栄城賞だが、入場人員が前年比で14.9%と激減。これは、昨年はJRAの日本ダービー当日で、同じ敷地内にあるJRAの場外発売所に多くのファンが訪れたため。しかし栄城賞1レースの売上では前年から倍増の227.4%で、過去最高の5千万円超えとなった。昨年は南関東が非開催日で場外発売が行われなかったのに対し、今年は月曜開催にしたことで大井のナイター開催で場外発売されたことが大きい。
 そのほか“ダービー”1レースでの前年比プラスは兵庫のみ。全体的にはやはり減少傾向が目立つが、近年の公営競技全体の状況を考えれば仕方ないのかもしれない。前年比でもっとも下がったのは岩手の82.0%だが、これは震災後の影響ゆえだろう。ベストマイヒーローに人気が集中しすぎて馬券が買いにくいという面もあったかもしれない。

ダービーウイーク各レースの売上げ推移(単位:円)
佐賀 北海道 大井 兵庫 名古屋 岩手
06 42,761,900 69,463,800 576,502,900 95,993,900 59,740,700 68,942,300
07 45,939,000 72,235,300 678,252,500 105,352,600 71,532,000 58,080,400
08 48,518,500 72,296,500 677,048,000 97,264,200 72,165,500 55,420,900
09 42,694,900 62,921,600 678,074,000 83,941,200 59,020,700 61,762,000
10 24,037,700 69,162,800 646,274,900 84,641,900 75,932,200 63,882,000
11 54,665,200 65,796,000 581,423,300 89,943,800 67,056,400 52,363,000
文●斎藤修
写真●いちかんぽ、NAR