騎手交流競走『JRAvs岩手競馬』

2011年08月22日
●日本初の試み

 日本初のチーム対抗による騎手交流競走『東日本大震災復興祈念JRA vs岩手競馬』が、8月15日(月)盛岡競馬場で行なわれた。
 交流重賞クラスターカップJpnVと同日の開催。ダブルメインと言っても過言ではない贅沢なレースメニューに加え、月曜日ながらお盆休み真っただ中であったことや、様々なイベントを開催したことで、盛岡競馬場は親子連れなど多くのファンで賑わった。

 騎手交流競走は、当日の8レースと最終の11レース。クラスターカップJpnVは、10レースに組まれており、その合間と全レース終了後にはイベント。ファンはレースを観戦したり、イベントで盛り上がったりと、忙しく、そして幸せな時を過ごしたに違いない。


●この日のためだけの勝負服

TEAM JRAはオリジナル騎手服で登場
 まずは、騎手交流競走の騎手紹介。普段、盛岡では目にする機会がほとんどないJRA騎手の登場にウィナーズサークル周辺は身動きがとれないほどの人だかりに。JRA騎手はこの日のために河野テーラーの協力で制作されたオリジナル騎手服で登場。福島市にあり、勝負服制作の老舗として有名な河野テーラーもまた、震災で大きな影響を受けたという。しかもこのレースの実施が決まり、岩手県競馬組合から騎手服制作の依頼があったのは7月中旬を過ぎたころだったそうだ。それでも、1着ずつ職人の手作業で仕上げられた特別な勝負服は、この日のお祭り感をさらに高める役割を十分に果たし、JRA騎手が登場した時には「かっこいい」と思わず漏らすファンもいたほど。

TEAM 岩手のキャプテン菅原勲騎手
 しかし、この騎手紹介で一番の歓声を浴びたのは、地元の菅原勲騎手。TEAM岩手をキャプテンとして率いただけでなく、この日、マイクを向けられる度にファンやJRA騎手への感謝の言葉を述べていた姿を見て、彼が“ミスター岩手”と呼ばれている理由を改めて思い知らされた。



●レースは期待以上の激しい戦いに

第1戦はTEAM JRAの吉田豊騎手の勝利
 レースは、2戦共にダートの1600m。1戦目は、大外枠のフェニックスクイン(岩手・菅原勲騎手)がスタート直後から先行争いを演じ、3コーナー手前でハナに立つと、スタンドからは歓声が。しかし、差なく追走していたサイレントステージ(JRA・福永祐一騎手)に最後の直線でかわされると、それはため息に変わった。結果は、ゴール直前でサイレントステージをかわしたセイントネイティブ(JRA・吉田豊騎手)の勝利。

 第1戦終了時点での各チームのポイントは50対44で、TEAM JRAがリード。しかしながら、1着に20ポイントが与えられるため、その差6ポイントはTEAM 岩手にとっても十分逆転可能な差。

第2戦はTEAM 岩手の菅原俊吏騎手が見事な差し切り勝ち
 そしてTEAM 岩手の巻き返しが期待された第2戦。道中は馬群が小さくまとまった展開。最後の直線でモエレアンドロメダ(JRA・中舘英二騎手)が抜け出し、それを外からケイジーウィザード(JRA・福永祐一騎手)が差す。またもTEAM JRAのワンツーかと思われたが、まさにゴール直前、アポロパトリオット(岩手・菅原俊吏騎手)が内から伸びてクビ差で勝利。9番人気からの勝利に、菅原俊吏騎手は大きなガッツポーズ。スタンドも岩手勢の勝利に沸いた。


 2戦合計の結果は、100対88でTEAM JRAの勝利。個人では、第1戦に続き第2戦でも2着に入った福永祐一騎手(JRA)が1位となり、優秀騎手賞を受賞した。福永騎手は前日まで札幌で騎乗しており、翌日には佐賀でも騎乗を予定していた。それは、他のJRA騎手も同じ。表彰式では岩手の騎手たちが、前日まで開催されていた札幌、新潟、小倉から集結した7騎手に心からの感謝を述べ、大勢のファンに向かって今後も岩手競馬を盛り上げていくことを誓っていた。
全レース終了後にステージに登場した両チームの騎手


●お楽しみはレース以外にも

東京ブラススタイルと大槌ブラススタイルによるライブ
 前述したように、この日はレースだけでなく、様々なイベントが目白押し。クラスターカップJpnVのファンファーレと全レース終了後のミニライブでは、津波で大きな被害を受けた大槌町の中高生によって結成された大槌ブラススタイルが、女性11人によるビッグバンド、東京ブラススタイルとともに練習の成果を披露。力強く、楽しげな演奏で、厳しい状況でも負けない強さと音楽の楽しさを感じさせてくれた。

 TEAM JRAvsTEAM岩手の表彰式後に行なわれた、チャリティーオークションでは、TEAM JRAの騎手が着用したオリジナル勝負服のほか、実際にレースで使用されたゴーグルなどの貴重な品が次々と出品され、大盛り上がり。中には、『福永騎手が書いた、武豊騎手のサイン入りゴーグル』といった珍品(?) も。相次ぐ高額落札と騎手らの楽しいトークに、全レース終了後にも関わらず、大勢のファンが楽しんでいた。

 今回のオークションの売り上げは総額で41万9000円に上り、津波震災孤児の支援のため、「いわての学び希望基金」に送られる。
チャリティオークションでは会場がどよめく高額落札も


●たくさんの笑顔を見られた1日だった

 この日印象に残ったのは、笑顔だ。参加した騎手たちが口々に「楽しかった」と言っていたように、第2戦のレース後の検量室付近では、JRA、岩手の騎手双方が笑顔で握手をしたり、言葉を交わしたりする姿を多く見ることができた。もちろん騎手たちだけでなく、イベントやレースの度にファンの笑顔や歓声を多く目にすることができた。

 競馬ができなかった時期があったからこそ、競馬ができる喜び、楽しめる喜びを一層感じることができるのだろう。競馬に限ったことではないが、それぞれ立場の違うたくさんの人々が、同じ思いのもとで、ひとつの場所に集まることが、とても素晴らしく、幸せなことだと感じさせてくれた1日となった。
矢部美穂さん、岡部玲子さんによる東日本大震災募金活動

応援団長を務めた井上オークスさんとふじポンさん

文:NAR
写真:NAR、国分智(いちかんぽ)