異才発掘の超短距離決戦
レコード決着が6戦中4戦

 今年新たに始まったスーパースプリントシリーズは、地区によってはこれまでほとんど行われていなかった古馬(3歳以上)のトップクラスによる超短距離戦という新たな試み。ファンにとっても、厩舎関係者にとっても、かなり興味を持って受け入れられたように思う。
 その新たな試みとして目に見える結果として表れたのが、ファイナルも含めた全6戦のうち、4戦がコースレコードでの決着となったことだろう。レコードにならなかったのは門別と船橋だが、門別はダートグレードの北海道スプリントカップJpnVが以前は1000メートルで行われていたこと、また船橋では重賞の船橋記念が06年から1000メートルで行われているのをはじめ、この距離で古馬オープンのレースがすでに行われていたためだ。
 本シリーズの実施概要には、「超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘」と謳われていたが、その目的はかなり達成されたように思う。

川崎スパーキングスプリント コアレスピューマ(右)
 川崎スパーキングスプリントは、人気の2頭、コアレスピューマ、バトルファイターの一騎打ちとなったが、ともに短距離のみを使われてきた馬。勝ったコアレスピューマは、前走、東京スプリントJpnVで12番人気ながら3着と好走したことがフロックではないことを示した。そしてファイナルの習志野きらっとスプリントには2頭ともが出走して、それぞれ3、5着。この距離が舞台なら全国レベルでも安定して結果を残せるところを示した。
 南関東のトライアルである川崎スパーキングスプリントで残念だったのは、さきたま杯JpnUと日程がやや近かったこと。このため、さきたま杯でワンツーを決めたナイキマドリード、ジーエスライカーという実績馬がトライアルに顔を見せることはなかった。ファイナルではジーエスライカーが1番人気に支持され、ラブミーチャンとの一騎打ちには敗れたものの、3番手以下を離しての2着。トライアル組より実力が上であることを明確に示した。

 九州むしゃんよかスプリントは、荒尾勢のワンツー決着となった。
九州むしゃんよかスプリント ペプチドジャスパー
近年行われている九州交流の重賞では、たとえ荒尾競馬場が舞台でも、常に佐賀勢が圧倒しているが、この結果はまさに「異才の発掘」といえよう。特に、勝ったペプチドジャスパーの平山良一調教師は、このトライアルで負けていたとしても、ファイナルの習志野きらっとスプリントには申し込むつもりだったと話していた。超短距離の舞台に期待をし、自信も持っていたということだろう。


園田FCスプリント ミナミノヒリュウ
 園田FCスプリントは、ダートグレードで入着実績のある高知の2頭が人気になったが、結果は地元兵庫勢のワンツー。勝ったミナミノヒリュウは前走まで5戦連続で2着と惜敗続きだったが、820メートルという距離で見違えるようなスピード能力を発揮。山元博徳調教師は「この距離には自信がありました」と、相当な期待を持って臨んでいたようだ。レース後にはファイナルへの期待も語っていただけに、ファイナルへの出走がなく、その後地元での出走もないのは、体調が整わなかったものと思われる。

名古屋でら馬スプリント ラブミーチャン
 名古屋でら馬スプリントは、ラブミーチャンが楽な手ごたえのまま圧勝。前年の門別・エトワール賞以来、13カ月ぶりの勝利となった。そしてファイナルではスタート後に鐙が外れながらもすぐに立て直し、やはり4コーナーを抜群の手ごたえで回り、ジーエスライカーを振りきって完勝。初年度のスーパースプリントシリーズは、ラブミーチャンのスピード能力をあらためて確認する舞台ともなった。

グランシャリオ門別スプリント パフォーマンス
 グランシャリオ門別スプリントは、出走メンバー中唯一の3歳馬パフォーマンスが制した。パフォーマンスは、2歳時のデビュー戦を制し、それ以来1年ぶりの出走となった1200メートルの北斗盃を勝利。北海優駿では7着に敗れたものの、グランシャリオ門別スプリントを勝ったことで、あらためてスプリント能力の高さを示した。また、ホッカイドウ競馬では2歳シーズンが終わるとトップクラスの馬たちの多くが中央や南関東に移籍してしまうのが常だが、今年の3歳世代は北海道に残った馬たちも一定以上のレベルであることも示した。これはスプリント路線に限ったことではなく、北海優駿で長い写真判定の末、ハナ差で2着に敗れたスタープロフィットが、その後、盛岡・オパールカップを圧勝したことでも、それを証明している。

 全体的には、超短距離戦のわりには、着差が開いての決着が目立った。1、2着馬が1馬身以内の差だったのは、川崎スパーキングスプリントのみ。古馬オープンクラスではあまり行われていない距離設定だけに、全体的に層が薄かったのが原因かもしれない。今後、各地区ごとにこのシリーズを目標に超短距離の路線も充実させていけば、適性を生かして活躍する馬は増えてくるだろう。
 また、持ち前のダッシュ力とスピードに任せて一気に押し切ってしまうレースが多かったのも特徴。全6戦のうち、逃げるか差のない2番手からそのまま流れ込んでの勝利が4戦。好位〜中団からの差し切りは、九州むしゃんよかスプリントと、グランシャリオ門別スプリントの2戦だった。これは、展開など関係なく、息を入れる間もなくスピードのみで押し切ってしまう短距離戦ゆえの展開でもあろう。中距離以上なら、スタートで多少出遅れても能力次第では挽回できるようなケースもめずらしくないが、さすがに1000メートル以下の短距離戦では出遅れは致命的。そうしたことでも、差し、追込みでの決着は難しい。
 全体を通してもっとも印象に残ったのは、繰り返しになるが、ラブミーチャンのスピード能力の高さだ。名古屋でら馬スプリントで楽勝だったのは、相手関係的にもむしろ当然といえるが、近年短距離路線の層が厚くなっている南関東のトップクラスを相手に戦った習志野きらっとスプリントで、4コーナーを回って濱口楠彦騎手の手ごたえが余裕十分だったことには驚かされた。
 ラブミーチャンの次走は、8月の盛岡・クラスターカップJpnV。そこでも好勝負ができれば、おそらく東京盃JpnU、JBCクラシックJpnTというダート短距離の王道ともいえる路線を狙うのであろう。そうしたダート短距離の頂点を目指すステップとしても、スーパースプリントシリーズはいい時期に設定されたものと思う。
 最後に残念に思ったことをひとつ。全6戦うち、川崎スパーキングスプリント、グランシャリオ門別スプリントでは表彰式が行われなかった。後者はスタリオンシリーズ(フレンチデピュティ賞)の一戦となっていたため、馬主に対して種付権の授与セレモニーは行われたものの、レースとしての表彰ではなかった。この2戦は、重賞ではなく特別戦だったため、主催者としては慣例(?)として表彰式を行わなかったのだろう。しかし地方競馬全体で盛り上げていくべきシリーズである上に、勝ち馬にはさらに上のステージでも活躍できるかどうかという期待がかかるだけに、そのお披露目という意味でも表彰式はやってほしかった。来年以降、もし可能であれば、シリーズ全体にスポンサーをつけて、そのスポンサーが表彰のメインプレゼンターになるような形でシリーズ全体に統一感を持たせるというのもひとつの方法だと思う。
習志野きらっとスプリント ラブミーチャン
文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR