岩手競馬の4カ月
2011年07月08日
3月11日に発生した東日本大震災から、100日以上が経過した。多くの犠牲者や行方不明者が発生、また今もなお多くの地域で不自由な生活を強いられている方が数多くいる。岩手競馬は5月14日からレースを再開、多くのファンの暖かい声援に送られてようやく日常の姿を取り戻しつつあるが、関係者それぞれが複雑な想いを胸に抱きながら走り続けているに違いない。筆者もさすがに記憶が混乱している部分もあるが、この期間の岩手競馬の状況について少しだけ報告をさせていただきたい。当初の計画では3月19日から、平成22年度最後の特別開催が予定されていた。それへ向けた出走申込馬の馬体検査や能力検査はすでに完了しており、いよいよ数日後には出走馬の編成表発表、レースへ向けての追い切りラッシュとなるところであった。マグニチュード9.0という地震が三陸沖で発生したのは3月11日の14時46分、水沢、盛岡両競馬場や場外発売施設では大井競馬の場外発売中。水沢、盛岡競馬場など内陸部の施設では建物の被害程度ですんだが、大きな被害が出たのは沿岸地域。各施設では来場者や職員こそ全員避難したが、テレトラック釜石付近で関連会社の社員3名が逃げ遅れ死亡、1名が行方不明。競馬新聞の売り子さんも犠牲者となった。これらも地震直後は全く連絡がつかず、安否確認には一週間近くを要したと聞く。最終的にテレトラック釜石は津波の被害が大きく、復旧を断念することになってしまった。
3月7日の馬体検査 |
水沢競馬場南広場の倒壊した屋外テレビラック |
一方で競馬場の人馬は、水沢、盛岡競馬場の馬場、厩舎エリアでは大きな被害が出なかった。電力事情を考慮して馬場の開場時間は照明を必要としない時間帯に変更されたが、調教などはすぐに再開。ただ、その後には燃料事情が悪化、各地のガソリンスタンドに行列ができる状況となり、馬場を整備する車両の燃料が枯渇した。当時はまだときおり積雪の朝もあり、このときは馬場整備が不可能になった。
競馬開催はひとまず3月の開催中止が決定。続いて4月2日からの平成23年度岩手競馬も被害状況を考慮して開幕を延期、5月14日からの盛岡開催を一つの目処として検討されることとなった。しかし、対応を検討している最中の4月7日にマグニチュード7.4の最大余震が再び東北地方を襲った。今回は特に岩手県南地域の被害が大きく、水沢競馬場のスタンドやテレトラック部分にさらなる被害を与えた。被害額は3月の本震と合わせて概算で10億円を超え、これが競馬再開へ大きな障害になってしまった。
被災した水沢競馬場スタンド(4階のガラスに破損あり) |
震災後立ち入り禁止となった水沢競馬場記者室、 周辺に上から落ちてきたガラスの破片 |
5月のコスモバルク記念へ向けたロックハンドスターの併せ馬
(内はベストマイヒーロー)
厩舎エリアはいつもの明るさがすっかり消えた。競馬が開催できないだけでなく、厩舎を回れば何人かに一人は津波で大きな被害を受けた沿岸地域に親類や縁者、あるいは実家が…という人がいる。個々に支援へ出向いたという人たちもいた。ただならぬ事態が発生しており、右も左も大変な状況。そういった中で競馬が開催できるのか…、再開の発表はなかなか出ない。それでも「5月14日の盛岡開催を目処に」という言葉を信じ、馬場では毎日黙々と管理馬の調教は続けられていた。
(内はベストマイヒーロー)
ようやく具体的な動きがあったのは4月29日。「国、地方競馬全国協会、JRA及び全国の地方競馬関係者からの御支援や、厩舎関係者及び関係企業等の御協力により、平成23年度の収支見通しが立ち、5月14日からの盛岡競馬は、予定通り開催いたします」と岩手県知事、達増管理者からのコメントが発表になった。3日後の5月2日には慌ただしく出走申込馬の入厩締め切りと続き、444頭が申込、厩舎は一気に活気を取り戻した。ようやく発表になった5月14日の盛岡競馬は10レース、計98頭が名前を連ねた。
開幕セレモニーで挨拶する菅原勲騎手
5月14日の盛岡競馬開幕初日のセレモニーで岩手県調騎会騎手部会会長の菅原勲騎手は「馬と騎手が心をひとつにしてゴールを目指す姿を、県民やファンの皆様へお届けし、岩手の復興へ向かって、元気や希望につながるよう、がんばって参ります。今後とも、皆様の暖かいご声援をお願いいたします」とあいさつ。「心をひとつに、岩手競馬」を合い言葉に、いよいよ本年度のレースがスタート。
開幕当日の盛岡競馬場には多数のファンが来場
「被災地における競馬開催であることに鑑み、収支均衡を前提として、一定の金額を義援金として拠出することを目標に運営に努める」という開催の前提事項があり、開催初日からどのくらいの成績となるのか不安の声もあったが、盛岡競馬場には3,402人の入場があり、翌日曜日はJRAGTの効果も重なり6,542人という大賑わいとなった。ファンたちは岩手競馬の再開を待っていてくれた。数ヶ月振りに盛岡競馬場の記者席で仕事をする筆者は、馬の走る姿もそうだが、詰めかけたファンの多さにも感動を覚えた。
6月10日より朝の調教時間帯1時間に限り、間引きで照明が再開
水沢競馬場での場外発売も開幕に合わせ5月14日より再開、テレトラック宮古は6月4日より、テレトラック三本木も6月25日より営業を再開した。6月13日までの発売額は前年同時期比83.4%ながらも、目標の108.1%、広域受託発売額も目標の104.6%を達成している。開催している盛岡競馬場への入場者は前年度比103.0%と、継続的にファンの支持が続いている。
5月2日に実施予定で一時は中止とされた、グランダム・ジャパン3歳シーズンの留守杯日高賞は5月30日に復活。6月13日には岩手ダービー・ダイヤモンドカップ、6月19日にはみちのく大賞典、7月4日には岩鷲賞と重賞競走を実施。岩手トップクラスの登場にスタンドは盛り上がりを見せ、岩手競馬の復興が確かなものであることを感じさせた。この間、各方面から岩手競馬に対して励ましをいただき、勇気づけられた。この場を借りてお礼を申し上げ、本稿の締めとさせていただきたい。
岩手ダービーダイヤモンドC(ベストマイヒーロー) |
みちのく大賞典のパドック(コアレスレーサー) |
文●深田桂一(ケイシュウNEWS)
写真●深田桂一、NAR
写真●深田桂一、NAR
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