コーナーを6回まわる中距離戦は、地方競馬の代名詞。器用さとパワー、そしてスピードという、さまざまな要素を備えていなければ勝ち切ることのできない舞台である。
帝王賞JpnⅠでは2着に敗れたチュウワウィザードだったが、名古屋グランプリJpnⅡで小回りを経験。先団で立ち回れる器用さも評価され、単勝1.6倍の1番人気に支持された。これに対し、帝王賞JpnⅠを制したオメガパフュームは差し脚質ということもあり、小回りが不安視されて3.0倍の2番人気にとどまった。ただ、続く3番人気のロードゴラッソが7.4倍で、ほぼ一騎打ちの戦前予想。適性か、底力か――。初開催となった浦和JBCのクライマックスは、この一点に集約された。
大井のワークアンドラブと浦和のシュテルングランツの2頭が激しい先行争いを演じ、3番手にストライクイーグル(大井)。浦和のコースを熟知する地元勢、というより南関東のジョッキーが積極的な競馬を展開する。その後ろにチュウワウィザードがつけ、オメガパフュームは後方3番手を進んだ。
2周目の向正面でオメガパフュームが仕掛け、チュウワウィザードの直後まで位置取りを上げる。それを感じ取ったか、チュウワウィザードがスパートをかけ、3コーナーで先頭へ。他馬を振り切り、1馬身ほど抜け出した状態で直線に向いた。
そこへオメガパフュームが、ワークアンドラブとセンチュリオンの間を割って強襲。一歩ずつ差を詰め、並んだ体勢でゴールを駆け抜けた。
写真判定の結果、軍配はハナ差でチュウワウィザード。川田将雅騎手も「全然分からなくて、ゴールに入ったあともデムーロ騎手のほうが勝った雰囲気でいたので『負けたのかな』と思って帰ってきたんです」と話すほどの大接戦だった。
これでデビューから【8・3・2・0】とし、初のGⅠ/JpnⅠタイトルを手にしたチュウワウィザード。コース、距離に関係なく安定して力を発揮できるのが強みで、「1戦ごとに強くなってきましたし、総合力の高い馬だなと感じています」と川田騎手。コーナー6回のチャンピオンディスタンスで、トータルバランスに優れたダート王者が誕生した。
オメガパフュームは際どい勝負に持ち込んだものの、及ばず2着。「初めてでこのコースをこなすのは難しいし、あまり手前を替えなかった」とミルコ・デムーロ騎手。これまで経験したコースは、全て1周距離が1500メートル以上。その脚質からも、小回りへの対応に苦戦した格好となった。それでもハナ差の2着。GⅠ/JpnⅠ・2勝の実力は、十分に示すことができたといえる。
さらに4馬身差の3着はセンチュリオン(浦和)。2周目の向正面で仕掛けた際に勝ち馬に抵抗され、終始外を回らされたのが響いた。森泰斗騎手は「もう少し内枠がほしかったかな。外を回されたが、食らいついて走っていた」と一定の評価。今回の結果からも“相手なり”の印象は拭いきれないが、JpnⅠ・3着という結果は実力の証明。仕掛けのタイミングがはまったときには、ダートグレードの舞台でも勝ち切る可能性がある。
今回の上位2頭はともに4歳。帝王賞JpnⅠ以来の実戦で、10キロ程度の馬体増だった。それでこのパフォーマンスなら、チャンピオンズカップGⅠ、東京大賞典GⅠへ向けて好スタートを切ったといえる。トータルバランスのチュウワウィザードと、パワーのオメガパフューム。今後もさまざまな舞台で好勝負を演じてくれるに違いない。
Comment
川田将雅 騎手
結果を聞くまでは勝ったかどうか分からなかったですね。勝ててホッとしています。スムーズにスタートを切ることができましたし、行く馬を見ながら競馬を組み立てて、終始いいリズムで競馬ができました。課題をクリアするごとに強くなってきた印象ですし、全体的に総合力の高い馬だなと思います。
大久保龍志 調教師
小回りなので、ある程度は前の位置で、と思っていました。最後はモニターを見て「負けたか」と思ってモヤモヤしましたが、こんな格好いいシーンは、なかなかないですね。前走で体重が減っていたので夏休みをとりましたが、それが好走につながったのでしょう。次走はチャンピオンズカップの予定です。