10月に入り、朝晩の冷え込みがきつくなってきた。日中の気温は高かったとしても、ナイター終わりの帰路となる日高自動車道の電光掲示板に目をやると、1桁の数字を示す日もあったほど。気温が上がりづらい時期になり、雨が降った後は馬場の回復が望みづらくなる。道営スプリントの前日に能力検査が組まれていたが、門別競馬場はその日から雨に見舞われ、不良馬場となっていた。
水の浮く馬場で、本来なら先行勢有利の時計勝負になると予想する。しかし、前半のレースは内を通った先行勢が案外苦しみ、内から3馬幅開けた場所を通った馬や、思い切って馬場の真ん中を通る馬の伸びが目立っていた。この日、初めて逃げ切り勝ちを収めたのが第7レース。その後、第10レースでも逃げ切った馬がいた。
「前半のレースを見ていると、逃げ馬が苦しんでいたのに、急に逃げ切りが増えてきて、作戦を考える時にわからなくなるね」と、ある調教師は苦笑いしていた。この日は、馬場を読み切るのが最大のポイントであることを、示唆する言葉でもあった。
逃げた馬が勝った2つのレースで、ともに2着に敗れたのは阿部龍騎手。「アップトゥユーの最近の結果に関しては、僕の消極的なレースが影響しているので、今回はとにかく強気のレースをしようと思っていました。そう思っていた上に、2つも逃げ切りを許したことも悔しかったので、スタートを決めて、早めに先頭に立ち、もう心配のない内を通るように決め打ちしていました」と、馬場傾向をつかんだ戦略を立てていた。
そのスタート。最も速かったのがアップトゥユーだった。内からフジノパンサーの出方を窺い、2番手の外を進んだ。スタートを決めたことで、阿部騎手のプラン通りに事が進む。3コーナーまでは団子状態で進んでいたが、不良馬場もあって前半3ハロンのペースは、12.3-10.4-11.8=34.5と速かった。コーナー地点のラップは12.0と少し緩むが、ここで早め先頭に立ったアップトゥユーの戦略は、まさにハマった。メイショウアイアンとソルサリエンテの追撃を振り切り、2016年ローレル賞以来、2年11カ月ぶりの重賞制覇となった。最後の1ハロンは13.0を要したように、最後の力を振り絞った勝利には、角川秀樹調教師も格別な思いを持った。
「昨シーズンが終わった時点で、繁殖に上げたいというオーナーからの話もあったんですが、重賞を勝てなかったことに悔いがありました。ですから、来年は重賞を勝たせるので、もう1年やらせて欲しいとお願いしたんですよ。勝てそうで勝てないレースが続いていただけに、この勝利は本当に嬉しいですね」
道営スプリントは、JBCスプリントJpnⅠ指定競走になっている。しかし、「JBCスプリントは、牡馬の強豪もいますから、さすがに選択肢に入れづらいですね。指定競走ではありませんが、JBCスプリントと同じ距離に設定されているJBCレディスクラシックは、視野に入れても良いかなと思います。オーナーとの相談になりますが、選出されれば前向きに検討したいと考えています」と、角川調教師。ユングフラウ賞2着、しらさぎ賞5着と、浦和1400メートルのコース経験はある。牝馬の短距離馬にとって、今年は願ってもない舞台設定だ。牝馬のダート最高峰へ、アップトゥユーの戦いは続く。
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阿部龍 騎手
スタートに細心の注意を払い、積極的なレースをしようとプランを立てていました。そのスタートを決め、2番手で進めることができました。惜敗が続き、悔しい思いをしていたので、アップトゥユーに重賞を勝たせられたことが何よりです。
角川秀樹 調教師
門別での重賞は初めてだったので、やっと勝たせられたという思いです。道営スプリントで指定されている競走とは違いますが、今年はJBCレディスクラシックが1400メートルなので、オーナーと相談の上、牝馬との戦いを前向きに検討したいと思っています。