キタサンミカヅキにとって、大井1200メートルは自分の庭のようなもの。このアフター5スター賞と東京盃JpnⅡは連覇中で、今年の東京スプリントJpnⅢも勝利。7戦して唯一連対をはずしたのは2017年のJBCスプリントJpnⅠ(5着)のみで、そのレースにしても勝ち馬から0秒1差と互角の走りを見せていた。
それだけに、さぞや陣営も自信に満ちあふれているかと思われたが、レース1週間前の時点で、森泰斗騎手の口は重かった。「前走(プラチナカップ2着)は思った以上に反応が良くなかったんです。それが一過性のものであればいいのですが……」。本来はかかるくらいの気性の持ち主で、かつて後方からレースを進めていたのも、前半に仕掛けると行きすぎてしまうからだった。そんな前向きに走るキタサンミカヅキを知るだけに、森騎手はレースに向けて一抹の不安を抱いている様子だった。
果たして、この日も道中の手ごたえは良くなかった。向正面で押っつけ気味に6番手を追走。確かにアピアが引っ張る流れは速く、別定59キロの影響も少なからずあったことだろう。ただ、それらを割り引いてもエンジンのかかりは今ひとつ。4コーナーを回って外に持ち出すと、じわじわと伸び始めたが、届くかどうかは微妙なタイミングだった。
しかし、これがグレードウイナーの底力なのだろう。外から追い込んできたサブノジュニアの気配を感じ取ったか、残り100メートルでギアを上げて加速すると、先に抜け出していたキャンドルグラスをゴール寸前でクビだけ捉え切った。薄氷の同一重賞3連覇ではあったが、見方を変えれば、それでも勝ち切るキタサンミカヅキの強さが示された一戦だった。
表彰式インタビューで森騎手は再度、本音を吐露する。「前走のこともあってレース前は年齢的なものとか、反応の悪さを心配していたのですが、終わってみれば馬に謝りたいような気持ちです」。南関東のエースジョッキーも脱帽する底力。“王者ミカヅキ”は、まだまだ健在だ。
佐藤賢二調教師も安堵の表情で「この中間は攻め切れていなかったけど、それでもしまいはよく伸びてくれた」と話す。道中の手ごたえも、仕上がり途上だったということでひとまず納得か。次走は馬の様子次第としたが、候補としては東京盃JpnⅡで3連覇を目指すプランが有力。当然、その先のJBCスプリントJpnⅠへの出走にも期待が高まるが、トレーナーはあくまで馬の状態を最優先する姿勢を崩さなかった。
一方、悲願の初タイトルがするりと抜け落ちてしまったのが、2着のキャンドルグラス。キタサンミカヅキの一歩前でレースを進め、ゴール前でいったん先頭に立つという見せ場十分の走りだった。「手前を替えないところはあるけど、今回は替えなくても大丈夫なくらいの素軽さがあった。でも、勝った馬が強かったね」と赤岡修次騎手。振り返ってみれば、重賞ではキタサンミカヅキやキャプテンキングなど、南関東屈指の強豪とぶつかり続けている不運もある。休み明けでこれだけ走れたことからも、力をつけているのは確か。肩掛けを手にする日も、そう遠くないはずだ。
Comment
森泰斗 騎手
前走もそうでしたが、前半の反応が良くなくて手ごたえも今ひとつだったので、道中は少し心配していました。同一重賞3連覇というのは、なかなかできないこと。9歳馬ではありますが、この馬と一緒に頑張って、全国の高齢馬や“オジさま”たちに勇気を与えられるような存在になってほしいと思っています。
佐藤賢二 調教師
中間は今ひとつ攻め切れてなくて、万全とはいえない状態でした。でも、しまいはしっかり伸びてくれましたし、最後は何とか頑張ってくれと思って応援していました。次走は東京盃に向かいたいと思っていますが、馬の状態を見て決める予定です。出走するとなれば、ビシッと仕上げて臨みたいと思います。