夜さ恋ナイターはそのネーミングと同じくらい、美しいスタートを切った。日本で唯一の通年ナイター競馬に託される想いを、ナイター初陣を制した馬の名が代弁してくれたのである。
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時刻は14時前にさかのぼる。入場門には、いまかいまかと開門を待つ人々の姿があった。
ベテランのガードマンさんいわく、「最近では珍しい光景ですよ。普段の金曜開催のお客さんは、600人ぐらい。今日は1000人には届くろう」。お客さんもガードマンさんも、夜さ恋ナイターに心を踊らせている。
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かくいう私も、鼻息荒げて入場門をくぐる。無料茶を啜りながら蝉の声を聴いていると、高知競馬名物の展望番組が始まった。おおっ。昼下がりの「モーニング展望。」だ!
説明しよう。「モーニング展望。」とは、第1レース発走時刻の約1時間前に放映される生番組だ。モー展は凄い。なにが凄いって、レースを控えたジョッキーが出演するのだ。司会の橋口アナウンサーが鋭いツッコミでジョッキーの本音を引き出し、素顔を暴いていく。こんな展望番組は、高知競馬だけにしかなかろうて。
とにかく。番組を通じて、ジョッキーの胸の内を垣間見ることができる。モー展は高知競馬場内だけでなく、地方競馬インターネット中継(http://keiba-lv-st.jp/)やCSスカパー!255ch、携帯サイト「うまステ」などでも放映されている。
本日の出演ジョッキー西川騎手は、"お客さんが虫に刺されること"を気にしながらこう言った。「普段は19時には寝ています。夜は案外、苦手かも(笑)」
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名物のアイスクリンで涼をとったり、「夜さ恋畜産夏祭り」の会場で美味しい地鶏をむさぼったり、夜さ恋ナイター開幕に合わせて6年4ヶ月ぶりに復活した「複勝」を買いまくったりしているうちに、夜のとばりがおりてきた。さあ、「夜さ恋ナイターオープニングセレモニー」が始まるぞ。
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まずは「点灯式」。ウイナーズサークルに集った来賓のみなさんが、おごそかにスイッチを押す。走路を照らすハロゲンライトが最大の明るさに到達するには、約20分の時間を要するという。少しずつ明るくなってゆく高知競馬場。雨のなか集った観客に見守られてセレモニーが進行する。
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「どうぞみなさん、夜さ恋ナイターを、高知競馬を愛してください!」(尾崎正直高知県知事)
「高知競馬はこれからも、こじゃんと頑張ります!」(片岡万知雄管理者)
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オリジナルソング・夜さ恋ナイターの唄がお披露された。
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土佐の高知の♪ 高知競馬の♪ 夜さ恋ナイター♪
土佐の高知の♪ 高知競馬の♪ ようこそナイター♪
インターネットで♪ いつでもどこでも♪ 夜さ恋ナイター♪
インターネットで♪ 昼でも夜でも♪ 夜さ恋ナイター♪
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by夜さ恋ナイターズ
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さらに「餅投げ」が行われ、3700個もの餅が夜空を舞った。ちゃっかり餅をゲットして一息つくと、ハロゲンライトの柔らかな光が、高知競馬を優しく照らしていた。
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オオキナキタイが制した夜さ恋ナイター特別は、外ラチ沿いで観戦した。普段よりずっと、外ラチ沿いで観戦する人が多かった。豊かな緑に包まれた高知競馬場。ぽっかりとライトアップされた走路が、どこかロマンチックな雰囲気を醸し出している。恋人と一緒に観戦できたら最高だろうな。だけど今はとりあえず、馬券の的中を目指す。
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第9レースの重賞「トレノ賞」を制したのは、2007年の2冠馬スパイナルコードと西川敏弘騎手だった。
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「ずっと『オープンを勝ちたい』と思っていた馬。それが重賞で、本当に嬉しいです。今日は別の馬のように走ってくれましたね。スパイナルコードは、ナイターが得意なのかも」
西川騎手自身がナイターハンターなのでは?
「いつもなら、もう寝ている時間です。たまに起きとったら、こういうことがあるんですね」
そう言って、西川騎手はにこにこ笑った。さらに勝利ジョッキーインタビューでは、産声を上げたばかりの夜さ恋ナイターを、騎手会長として力強くアピールした。
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「夜さ恋ナイターは夏でも涼しく楽しめると思うんで、ぜひ、生の競馬を見に来てもらいたいと思います!」
さて。最終レースの3連単は、6万馬券となった。高知の最終はただの最終レースではない。「一発逆転ファイナルレース」といって、勝ち星から遠ざかっている馬ばかりを集めたレースなのだ。だから波乱が起こりやすく、人気薄がじゃんじゃん馬券にからむ。万馬券はザラで、ウン十万馬券もボコボコ飛び出す。穴党にはたまらないレースだ。
一発逆転ファイナルレースの発走時刻は20時55分。日本のナイター競馬で最も遅いレースである。近々必ず一発逆転をぶちかましてやるのだ。と、リベンジを誓いつつ、検量室へ向かった。
ナイター初日を無事に終えて、ジョッキーをはじめ関係者のみなさんは安堵の表情を浮かべていた。ただ、高知の砂は水を含むとゴーグルや板メガネに張り付きやすいそうで、「売り上げが上がったら、砂を入れ替えてほしい」という声が上がっていた。
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夜さ恋ナイター初日の売り上げは、約6800万円。入場者数は約1400人。いずれも、いつもの金曜開催の2倍以上だった。まずまずの滑り出しと言えるだろう。しかし、売り上げはもっともっと、増える余地があるはずだ。
地元で腕を磨き、大舞台で活躍するジョッキーたち。このごろようやく浸透しつつある、オープン馬のレベルの高さ。一発逆転ファイナルレース。売店の平田さん。などなど。高知競馬の魅力はたくさんある。そして、もともと魅力的だった高知競馬に、「夜さ恋ナイター」という強力な武器が加わったのだから。
最も廃止に近かった競馬場が、立ち直ることができるなら――。夜さ恋ナイターにかけられた大きな期待が実を結べば、その希望の光は海を越え、全国各地の競馬場に届くはずだ。この夏、四国唯一の小さな競馬場が、輝きを放ちはじめた。
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P.S.
来たる8月10日(月)、JRAの武豊騎手、福永祐一騎手、石橋守騎手、川田将雅騎手が高知競馬場に来場。トークショーやサイン会が開催されるほか、モーニング展望などに出演し、夜さ恋ナイターを盛り上げる(予定)。高知の夜は熱い!
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取材・文:井上オークス 写真:NAR
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