当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。
日韓交流競走 インタラクションカップ
2013年12月6日
取材・文●牛山基康写真●NAR、牛山基康
ホーム&アウェーで行われた史上初の競走馬による日韓戦は、互いにアウェーで勝利する1勝1敗でスタートした。日本馬3頭が韓国に遠征した9月1日の『SBS ESPN杯』に続き、韓国馬3頭を日本に迎えて争われた『インタラクションカップ』が11月26日、大井競馬場で行われ、逃げた韓国のワッツヴィレッジが、迫る日本のミヤサンキューティをクビ差で退けて優勝した。ホームのソウル競馬場で2着に惜敗してから約2ヵ月。後発の利を最大限に生かしてアウェーの不利を克服してみせた。韓国から参戦した残る2頭は、フライトップクインが11着、フルムーンパーティが13着。大きく敗れはしたが、それぞれが十分に存在感を示していた。
フライトップクイン |
フルムーンパーティ |
戦後の日本に初めて韓国の騎手が遠征したのが1981年。東京都馬主会の招待により来日したカン・ジョンムン騎手、ペク・ウォンギ騎手、ホン・ソンボム騎手が2月9日から14日まで大井競馬場で騎乗した。日本における競馬の日韓交流において先駆けとなったこのイベントから32年。競走馬も遠征する人馬による韓国との交流競走の実施という新たな日韓交流の歴史は、またも大井競馬場で作られた。実施までのいきさつはソウル競馬場で行われた前回の記事で紹介したが、韓国側の熱意に負けじと、日本側も同等の準備で韓国の関係者を迎え入れた。
韓国からの遠征馬3頭は、希望馬を募ったうえで遠征馬選抜委員会を開催して決められた。早くから遠征を希望していたワッツヴィレッジを筆頭に補欠を含む6頭を選抜。2位のフライトップクイン、3位のフルムーンパーティまでが最終的に遠征馬となった。ソウル競馬場で行われた『SBS ESPN杯』に出走した韓国馬は全馬が外国産馬だったが、フルムーンパーティは韓国産馬。同馬の馬主と調教師が、韓国産馬が遠征することに意味があるという意見で一致し、遠征に至ったという。
大井競馬場での実施にあたって、韓国側の最大の懸念は右回りだった。ダート競馬しか行われていない韓国では、1989年にソウル競馬場が現在の場所に移転するのを機に、それまでの右回りから、ダート競馬の本場であるアメリカに範をとって左回りに変更。現在、サラブレッドでは右回りの競馬は行われていない(ポニーのチェジュ競馬場は右回り)。前もって実戦で右回りを経験することはできないが、ソウル競馬場では10月30日から時間を区切って遠征馬が右回りで調教を行えるようにすることで対応した。
成田空港に到着したフライトップクイン号 |
フルムーンパーティ号(手前)とワッツヴィレッジ号 |
11月14日に韓国を出国した韓国馬3頭は、同日に成田空港に到着し、那須の地方競馬教養センターにある国際検疫厩舎に入厩。ここでも継続して右回りでの調教が行われたが、フライトップクインにはハン・サンウ厩務員だけでなくチェ・ボンジュ調教師も同行した。「この馬がアメリカから来たときからずっと自分が調教しているので、那須から来て乗っています。ほかの馬主さんには申し訳ないのですが」という同師。ここまで4戦4勝の同馬に対する期待の大きさがうかがえた。
大井競馬場での調教の様子
地方競馬教養センターでの検疫を終えた3頭は、11月20日に大井競馬場に移動した。3頭とも23日に追い切られ、24日も馬場入りを予定していたが、フルムーンパーティだけは「食欲が落ちたので(馬場入りは)休みましたが、調子はとてもいいですよ」とチョン・ジェヨン厩務員。環境の変化については「移動した直後は気にしていましたが、すぐに慣れました」というワッツヴィレッジのイム・テギョル調教助手だけでなく、モノレールの音などは3頭とも大きくは影響しなかったという。同日の午後4時から行われた記者会見には騎手、調教師が出席。フライトップクインのチェ・ボンジュ調教師が「もともと牝馬にしてはよく食べるのですが、遠征ということでいろいろと負担になることが多く、かなり体重を落としてしまいました。それでも那須にいたときよりはこちらに来て状態がよくなったので、だいぶ食べるようになりました」と輸送の難しさを語る一方、フルムーンパーティのイ・シンヨン調教師は「ほかの馬は(アメリカ産なので)飛行機に乗った経験がありますが、韓国で生まれて飛行機に乗った経験もありません。輸送のストレスをすごく心配しましたが、飛行時間が短く、韓国と環境が似ているからでしょうか、韓国での状態を維持できていると思います」と心配したほどではなかったという。ワッツヴィレッジは「(馬運車に乗ろうとしないなど)輸送で少し問題があったようですが、状態はいいですね」とウ・チャング調教師。環境の変化を気にしたが、それが状態には影響しなかったようだ。
記者会見で笑顔を見せる(左から) チョ・インゴン騎手、イ・シンヨン調教師、バク・テジョン騎手、
チェ・ボンジュ調教師、ソ・スンウン騎手、ウ・チャング調教師
チェ・ボンジュ調教師、ソ・スンウン騎手、ウ・チャング調教師
レセプションで写真におさまる、出走馬とKRAの関係者ら
いよいよ当日の11月26日。両主催者および韓国馬3頭の関係者が出席したレセプションを終えた各騎手は、この日の4Rに組まれた『TCK&KRAフレンドリージョッキーカップ』に騎乗した。ソ・スンウン騎手が「馬場が軽く、流れも速い印象だった」と語れば、チョ・インゴン騎手も「レベルはそれほど高く感じなかったが、スピードは速いと感じました」。調教に騎乗した関係者によるとソウル競馬場よりも大井競馬場は時計が出そうだという意見だったが、実戦でもそれを感じたようだった。そして午後8時15分。韓国調教馬の日本初出走、初勝利という歴史的な瞬間が訪れた。ダッシュよく飛び出したワッツヴィレッジは、フライトップクインとフルムーンパーティを引き連れるような逃げ。いずれも逃げがベストの韓国馬3頭が3番手までを独占するという展開でスタートすると、ワッツヴィレッジは最後まで先頭を譲らなかった。
韓国産馬のフルムーンパーティも自分の競馬ができずに失速した。チョ・インゴン騎手は「逃げたかったが、ワッツヴィレッジのスタートが速いのは分かっていたので控えました。4コーナーまでよくついていってくれました」。イ・シンヨン調教師は「流れは速いと思っていたので無理しませんでした。典型的な逃げ馬なので心配していましたが、1頭でも先着できればという目標は達成できたので満足です。憂慮していたことなので失望はしていません」。韓国産馬のレベルを上げることにこそ国際化の意味があると考える同師は、すでに先を見据えているようだった。
最後に「今回の大井競馬場との交流競走を開催するために尽力していただいたすべての関係者の方々に感謝します。今後もこの交流競走が続いていくことを望んでいます」と答えたウ・チャング調教師。韓国の関係者からは「来年はソウル競馬場だけでなくプサンキョンナム競馬場の所属馬も出走できるようにして、さらに強力なメンバーで戦いたい」と次回の計画も聞かれたが、日本の関係者もこのままでは終われないだろう。この競走馬による日韓戦が発展的に持続していくことを期待したい。
当日、場内では韓国伝統楽器のステージや 韓国料理の屋台が人気を集めた |
※文中の騎手、調教師名のカタカナ表記は、今回の遠征者については今回の登録による表記、その他については筆者による表記としました。以前の来日時や過去の筆者の表記とは異なるものがあることをご了承ください。
騎手プロフィール
調教師プロフィール
◆チェ・ボンジュ(崔峰嗾=チェ・ボンジュ)1962年11月19日生まれ。騎手として86年デビューで韓国通算5759戦685勝。91年に新潟競馬場の日韓チャレンジカップ、92年に船橋競馬場の騎手招待に参戦。07年に騎手を引退して同年に開業。08年の初重賞制覇を含む韓国通算1152戦101勝。今年は215戦29勝でソウル競馬場のリーディング12位。
◆ウ・チャング(禹彰九=ウ・チャング)1963年4月28日生まれ。騎手として84年デビューで韓国通算6845戦770勝。89、95、97年に新潟競馬場の日韓チャレンジカップに参戦。08年に騎手を引退して同年に開業。ここまで準重賞4勝、重賞1勝を含む韓国通算1274戦135勝。今年は230戦17勝でソウル競馬場のリーディング30位。
◆イ・シンヨン(李信鍈=イ・シニョン)1980年4月12日生まれ。騎手として01年デビュー。韓国通算895戦90勝を挙げた韓国の女性騎手の第一人者だが、09年にプサンキョンナム競馬場で行われた国際女性騎手招待も欠場するなど騎手時代はケガに泣いた。11年に騎手を引退して同年に開業。準重賞1勝を含む韓国通算486戦83勝は現役最高勝率。今年は263戦で49勝でソウル競馬場のリーディング2位。
(年齢順、成績は12月1日終了現在)
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