スーパースプリントシリーズ総括 タイトル

圧倒的なスピードでファイナルも3連覇
ラブミーチャンに象徴されたシリーズ

 今年もシリーズの初戦として行われた川崎スパーキングスプリントは、毎年のことだがメンバーを集めるのに日程的なことが課題となる。さきたま杯JpnⅡが2週前にあり、また北海道スプリントカップJpnⅢが同じ週に行われる。南関東のスプリント戦線でのエース級の1頭、ナキマドリードは3年連続でさきたま杯JpnⅡの方に出走。とはいえ、その3回で1、2、3着と、中央の一線級を相手に毎年馬券にからんでいるだけに、あえてここに出走してくることはない。そして今年は地元川崎のキョウエイロブストが北海道スプリントカップJpnⅢに遠征(14着)した。
大接戦となった川崎スパーキングスプリント

 重賞勝ち馬はヴァイタルシーズ、スパロービートと2頭いたが、いずれもそのタイトルは4年以上前。それでも短距離戦を中心に使われているメンバーが半数以上という争いは、6着馬までがコンマ2秒差という大接戦となった。好位から早め先頭のスターボード、スタートで後手を踏みながらも直線馬群の中を抜けてきたアイディンパワー、そして中団からゴール前伸びたタマモスクワート。3頭がほとんど並んでのゴールは、スターボードとアイディンパワーが同着優勝で、タマモスクワートはハナだけ遅れて惜しくも3着だった。
 短距離戦では一般的に「出遅れは致命的」と言われる。しかしこのレースでは、一昨年こそ前に行った2頭の一騎打ちとなったが、昨年はスタートで1頭だけ完全に置かれたトーセンクロスが直線一気を決め、今年もタイミングが合わずほとんど最後方からとなったアイディンパワーが同着優勝に持ち込んだ。息の入らないスピード勝負だけに、前がオーバーペースになってしまうがゆえの結果なのかもしれない。
 ここまで3年の結果で目立つのは、元中央馬の活躍だ。一昨年は勝ったコアレスピューマ、昨年は1着のトーセンクロスと2着のバロズハート、そして今年は1~3着を元中央馬が占めた。近年では中央の準オープンやオープンで頭打ちになった馬が南関東に移籍してくるケースが増え、こうした傾向は今後も続くかもしれない。
 そしてひとつ付け加えておきたいのは、今年4月のデビューからわずか2カ月ほどしかたっていない大井の笹川翼騎手(ダンシングロイヤル)の思い切った騎乗ぶりだ。好スタートから単独で先頭に立つと、3コーナー過ぎではスターボードに半馬身ほど前に出られながらも、内枠ゆえ4コーナーでハナを奪い返した。結果、着順は5着だったものの、勝ち馬からはタイム差にしてわずか0秒1。今年4月にデビューした新人騎手は、全国的にレベルの高さに驚かされる。

 水の浮く不良馬場で行われた園田FCスプリントは、1番人気に支持された高知からの遠征馬、エプソムアーロンが力の違いを見せつけた。有力馬を3年連続でこのレースに挑戦させてきた雑賀正光調教師にとっては、ようやくといった思いだろう。
園田FCスプリント

 2番人気も高知のファイアーフロート。こちらは1番枠で出遅れた。馬群をさばいて外に持ちだしてというロスがあって、それでも直線追い込んで勝ち馬から1+3/4馬身差で3着。外目の枠からスムーズにレースを運ぶことができたエプソムアーロンとは対照的で、高知の1、2番人気馬の明暗はこのあたりで分かれたようだ。短距離戦は、単に「出遅れが致命的」というだけでなく、ちょっとずつの展開のアヤが、結果を大きく左右するといったほうがいいのかもしれない。
 これで南関東から高知に移籍後6連勝となったエプソムアーロンは、当初は佐賀・サマーチャンピオンJpnⅢに向かうプランがあったが、高知では斤量を背負わされてしまうことなどから、雑賀正光調教師のご子息であり、昨年10月に兵庫で厩舎を開業した雑賀伸一郎厩舎に移籍している。

 名古屋でら馬スプリントも水の浮く不良馬場。飛び上がるようなスタートで後手を踏んだラブミーチャンだったが、3コーナー過ぎで先頭に立つと、後続との手ごたえの差はあきらかで、力の違いを見せつけるだけの結果となった。7頭立てという少頭数は、ラブミーチャンという絶対的な存在ゆえかもしれない。金沢から2頭の遠征があり、それでもラブミーチャン以外の6頭のうち前走で勝利を挙げている馬が4頭、それ以外の2頭も2走前か3走前に勝ち星があり、出走してきたのはいずれもが好調馬だった。
名古屋でら馬スプリント

 このレースに関しては、ここまでの3年間はあまりにもラブミーチャンの存在が大きすぎ、それゆえラブミーチャンが抜ける来年からは拮抗したメンバーによって争われることになるのかもしれない。
 名古屋には、ここに向けてA級、B級、C級それぞれ同じ800メートルの舞台でトライアルレースが設定されており、今年もそのトライアルからはA級、C級の勝ち馬が出走してきた。路線としてうまく機能しているだけに来年以降が楽しみだ。

グランシャリオ門別スプリント
 グランシャリオ門別スプリントも7頭立てという少頭数。このレースは北海道スプリントカップJpnⅢから中1週となるだけに、やはりローテーションが難しい。それでもその北海道スプリントカップJpnⅢを使ってきた人気2頭が3着以下に差をつけてワンツーを決めた。
 勝ったアウヤンテプイは、濃霧のため予定より1週遅れて行われたエトワール賞では直線抜け出しかけたところをファイアーアップに交わされたが、北海道スプリントカップJpnⅢでは勝ったセレスハントからコンマ5秒差の4着と健闘と言える走りを見せていた。
 笠松デビューで2~3歳時には重賞も制したが、ホッカイドウ競馬に移籍して短距離路線で素質開花というめずらしいパターンの活躍馬。今後もスプリント路線での活躍が期待できそうだ。
 グランシャリオ門別スプリントからは、3年連続でファイナルへの出走がなかった。長距離輸送ということもあるだろうし、何よりこの時期でもまだ涼しい北海道に対して、ファイナルが行われる時期の関東地方は梅雨明けしていれば猛暑だ。7月に北海道から南関東への遠征はリスクは大きい。

 ファイナルの習志野きらっとスプリントは、第1回の一昨年こそフルゲート14頭のうち南関東以外からの遠征が8頭とにぎやかだったが、昨年に続いて今年も遠征馬は2頭。このレース3連覇を狙うラブミーチャンに、同じ笠松から全国の競馬場を駆け巡るトウホクビジンだ。それでも地元南関東勢からは、川崎スパーキングスプリントでタイム差なしの大接戦となった上位3頭が出走し、ラブミーチャンを迎え撃つという形にはなった。
ファイナルの習志野きらっとスプリントは
ラブミーチャンが圧勝で3連覇を達成

 しかしここでもラブミーチャンのスピードは圧倒的だった。ときに出遅れることもあるラブミーチャンだが、このときは絶好のスタートからハナに立つと、内から快速馬スパロービートに競りかけられたものの、手ごたえ十分のまま3~4コーナーで再び単独先頭に。直線を向いて追い出されると、あっという間に後続を突き放した。1000メートルで2着に5馬身は決定的な差といえよう。一昨年、昨年はダートグレードでも好走実績が合ったジーエスライカーとの一騎打ちとなったが、今年はそうしたレベルの馬がいなかったということだろう。
圧倒的人気に応え、見事勝利に導いた森騎手

 「3回のうちで一番安心して見ていられました」とレース後に語ったのは、ラブミーチャンを管理する柳江仁調教師。昨年秋には東京盃JpnⅡを制してNARグランプリ2012の年度代表馬となり、さらに今年になっても東京スプリントJpnⅢでセイクリムズン以下を寄せつけず勝利するなど、年齢を重ねてレースぶりが安定してきたのは、陣営が輸送に慣れてきたということもあるのではないか。かつてであれば輸送した時に飼葉をまったく食べず、馬体を大幅に減らして出走するようなこともあったが、最近ではそうしたこともほとんどなくなった。習志野きらっとスプリントのレースハイライトでも触れられているが、今回は暑さ対策のため扇風機やクーラーを持参するという、万全の態勢で臨んだ結果が、5馬身差圧勝だったのだろう。
 今回手綱をとったのは、目下の船橋リーディングで、南関東でも2位3位を争っている森泰斗騎手。濱口楠彦騎手が怪我のため、乗って乗れないことはなかったものの、負けられないレースだけに大事をとっての乗替りとなったとのこと。任された森騎手は、レース後「とにかくホッとした」という言葉を繰り返していた。今後のためにも大きな経験となったことだろう。
 今年で3年目となったスーパースプリントシリーズは、ラブミーチャンのためにできたというわけではないだろうが、タイミングとして結果的にラブミーチャンの活躍を際立たせ、この路線を盛り上げることになった。
 すでに報じられているとおり、ラブミーチャンは来春の繁殖入りが予定されている。来年以降、スーパースプリントシリーズからラブミーチャンに続くような活躍馬が現れることを期待したい。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR