ダービーウイーク総括 タイトル

初勝利の歓喜に沸いた各地のダービー
兵庫・東海は牝馬がダービーの栄冠


■目立った念願のダービー初制覇

 ダービーウイークも8年目となり、地方競馬の一大イベントとしてかなり浸透したように思う。それゆえか、地区ごとの“ダービー”とはいえ、関係者の「ダービーを勝ちたい」という気持ちや、勝った時の喜びが以前よりも強く感じられるようになってきた。特に今年はダービー初勝利という騎手・調教師が多かったからかもしれない。全6戦の勝ち馬すべての調教師がダービー初勝利で、騎手も6人中4人が初勝利。過去にダービー勝ちがあったのは、九州ダービー栄城賞の山口勲騎手と北海優駿の服部茂史騎手だけという、フレッシュな関係者の顔ぶれだった。
 もうひとつ印象的だったのは、実力をある程度認められた馬でも、目標としたレースに無事に出走することがいかに難しいかということを、あらためて思わされた。
 佐賀ではこの世代断然と思われた牝馬のロマンチックが、脚元の不安が解消せず戦線離脱。
 岩手では、牡・牝の双璧2頭、ロックハンドパワーとブリリアントロビンが、ともに今シーズン初戦を断然人気にこたえて勝利し好発進したものの、いずれもダービーの舞台にはたどり着けなかった。
 北海道では、全姉クラキンコとの姉弟制覇に加え、そのクラキンコに続いて父母仔制覇が期待されたクラグオーが、一冠目の北斗盃出走取消しに続き、北海優駿は登録のみで回避となった。
 兵庫では、2歳チャンピオンのエーシンクリアーが一冠目の菊水賞を前にして剥離骨折というアクシデント。目標としていた兵庫ダービーにはなんとか間に合ったものの、見せ場をつくれず着外に敗れた。


■ダービーゆえの波乱の結果も

 人気面では、ダービー馬となった6頭のうち3頭が単勝1番人気だが、4番人気も3頭という興味深い結果となった。
 期待された馬が強いレースを見せるシーンは盛り上がるが、思わぬ伏兵が新たな一面を見せて盛り上がるのも、ダービーの楽しみであるように思う。
 伏兵が激走する理由としては、ほとんどの馬がデビューしてからまだ1年かそれ以下で、急激に成長する馬もいれば、逆にこの時期ですでに成長が止まってしまう馬もいるということが、考えられる要因としてまずひとつ。また、多くの馬にとってダービーの舞台は初めて経験する距離ということも、波乱をもたらす要因のひとつだろう。
 各ダービーを簡単に振り返ってみよう。  九州ダービー栄城賞は、ロマンチックの離脱によって、高知から遠征したコパノエクスプレスを含めて4頭が拮抗した人気。勝ったのは4番人気のダイリングローバルで、近走の対戦成績を見れば、地元のビックナゲット、ゴールドペンダントに1、2番人気を譲ったのはある意味当然ともいえた。ダイリングローバルはスタートダッシュで置かれてしまう脚質ゆえ、これまでは佐賀の短い直線で追い込んで届かずというレースが目立っていた。しかし距離が2000メートルに伸び、さらには前が飛ばしてペースが速くなったこともあり、向正面からのロングスパートで得意の末脚を十二分に発揮しての、いわば逆転勝利となった。  岩手ダービーダイヤモンドカップは、兵庫から転入初戦のリュウノタケシツウが単騎で飛ばし、やはり縦長の展開。3番手を追走していた4番人気ヴイゼロワンと、中団から押し上げた1番人気ハカタドンタクが直線で一騎打ち。ハカタドンタクが一瞬前に出る場面もあったが、ヴイゼロワンが差し返しての勝利となった。差し返したというより、ハカタドンタクがバテて止ったと言ったほうが正確かもしれない。掲示板を確保した5頭いずれもが上がり3ハロン42秒台と、最後はバタバタのスタミナ比べとなった。  北海優駿は、1番人気のミータローが4コーナーで前をとらえ、直線突き放すという圧巻のレースぶり。一冠目の北斗盃は2着だったが、トライアルの1700メートル戦を逃げ切って臨んだ一戦。折り合いにも問題がなく、むしろ距離延長でこそ力を発揮すると陣営は自信を持っていたようだ。
 東京ダービーは、前哨戦の京浜盃、一冠目の羽田盃でそれぞれ強い勝ち方を見せたジェネラルグラント、アウトジェネラルが人気を集めたが、勝ったのは両レースで差のある3着に敗れていたインサイドザパーク。距離延長と大井の長い直線で本領を発揮した。2歳時からスタートダッシュで置かれてしまうのが課題だったが、しかし直線での末脚には定評があった。「ダービーで一番いいパフォーマンスを発揮するんじゃないかと思っていた」という林正人調教師には、まさに会心のダービー制覇となったことだろう。
 兵庫ダービーは、ユメノアトサキが1番人気となったが、復帰した2歳チャンピオン・エーシンクリアー、3連勝中の上り馬モズオーロラと三つ巴の人気。今回も逃げたユメノアトサキに、3コーナーでモズオーロラがぴたりと馬体を併せたが、ユメノアトサキが振り切った。兵庫ダービーは、兵庫にサラブレッドが導入された翌年に第1回が行われ、今年で14回目。第1回のアヤノミドリ、昨年のメイレディに続き、牝馬のダービー馬はこれで3頭目。ユメノアトサキは、一冠目の菊水賞、牝馬同士ののじぎく賞と併せ、3連勝で兵庫変則三冠制覇ともなった。
 東海ダービーは、牡・牝それぞれの前哨戦ともいえる、駿蹄賞、東海クイーンカップの上位馬が人気を分け合い、実力拮抗の混戦。3コーナーからは、東海クイーンカップを制したウォータープライドと、駿蹄賞3着のホウライジェントルとの一騎打ちとなり、最後は3/4馬身差で牝馬のウォータープライドが1番人気にこたえて見せた。

 それぞれのレース直後の関係者の話としてジャパンダートダービーJpnIへの出走に前向きなのは、北海道のミータロー、船橋のインサイドザパーク、兵庫のユメノアトサキの3頭。中央の一線級相手にどんなレースを見せてくれるか期待したいところ。


■グランダム・ジャパンで強くなる牝馬

 血統面での特徴は、相変わらず地方競馬には非サンデーサイレンスの活躍馬が少なくないということ。九州ダービーのダイリングローバル、岩手ダービーのヴイゼロワンには、それぞれ母の父、父の父にフジキセキが入っているが、それ以外の4頭にはサンデーサイレンスの血がまったく入っていない。東京ダービーのインサイドザパークは、昨年の地方2歳馬のリーディングサイアーとなったタイムパラドックスの産駒。ユメノアトサキの父サウスヴィグラスは、昨年に続いて今年も地方競馬のサイアーランキングのトップ(5月28日現在)で、この距離でも活躍馬を出してきた。
 今年もさまざまに印象的なシーンがあったダービーウイークだが、ひとつだけ挙げるとすれば、グランダム・ジャパン3歳シーズンの第7戦・のじぎく賞で3着以下を引き離し半馬身差で1、2着を争ったユメノアトサキ、ウォータープライドが、兵庫ダービー、東海ダービーの勝ち馬となったこと。
 グランダム・ジャパンでは、地理的に遠征が容易なレースが多い東海および兵庫所属馬の積極的な参戦が目立っているが、特に3歳シーズンでは、過去3年に3位以内に入賞した馬9頭の内訳が、東海、兵庫、南関東がそれぞれ3頭ずつとなっている。そして今年も3位以内は東海勢と兵庫勢によって占められた。
 昨年も兵庫ダービーを制したメイレディがグランダム・ジャパン3歳シーズンの女王となり、10年の東海ダービー馬エレーヌも同じく3歳シーズンの女王となったように、グランダム・ジャパン3歳シーズンでは、東海・兵庫で牝馬ながらダービーを制した馬の活躍が目立っている。
 グランダム・ジャパンでは遠征を繰り返しながら、さまざまな条件で、さまざまな相手と対戦するため、そうした経験がダービー制覇へとつながっているのではないかと思われる。
 最後に例年同様売上面について触れておきたい。今年は地方競馬IPATが導入されて初めてのダービーウイークとなったわけだが、地方競馬IPATでの発売があったレースとなかったレースが3レースずつ。
 以下は、いずれもダービー1レースの売得額の前年比。地方競馬IPATでの発売があったレースでは、北海優駿が105.3%、東京ダービーが111.1%、兵庫ダービーが108.1%と、いずれもアップ。対して地方競馬IPATの発売がなかったレースでは、九州ダービーが83.2%、岩手ダービーが92.8%、東海ダービーが93.7%で、いずれもダウン。見事に地方競馬IPATの効果が現れた。
 ダービーウイークは2011年から週末を避け、平日のみの開催となっているが、佐賀や岩手は通常が週末開催中心ゆえ、来年は地方競馬IPATでの発売が可能となる週末の開催を検討すべきではないだろうか。JRAの開催日に地方競馬IPATで地方の“ダービー”を発売するとなれば、中央競馬ファンに対してのアピールにもなるに違いない。

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR