ダービーウイーク特別寄稿 岩手競馬最強馬列伝 スイフトセイダイ編
2010年05月27日
文●松尾康司(テシオ編集部) 写真●いちかんぽ
第4回(1989年11月26日)ダービーグランプリ優勝
第21回(1989年10月29日)不来方賞優勝
【スイフトセイダイ】
岩手競馬の最強馬列伝はスイフトセイダイを抜きには語れない。岩手競馬の一大ターニングポイントとなったのは、間違いなくスイフトセイダイの出現によって。彼が時代を大きく動かした。
その頃、日本はノーザンテーストを頂点にノーザンダンサー系の最盛期。スイフトセイダイの父スイフトスワローは未出走ながら、父ノーザンダンサー、母がイギリス・オークス、ヨークシャー・オークスを制したホームワードバウンドという良血を買われて日本へ輸入された。
スイフトセイダイはスイフトスワロー産駒の4世代目。2歳時から500キロを雄に超し、最盛期は550キロ以上。体も大きければ顔も大きく、最大サイズの頭絡(とうらく)ベルトで何とかギリギリ間に合ったほど。まさに重戦車の表現がピタリときたし、後に“東北の怪物”と呼ばれるにふさわしい容姿をしていた。
ただ、でかいばかりではなかった。確かに俊敏性では劣ったかもしれないが、一完歩ごとのストライドが非常に大きく、デビュー戦から連戦連勝。2歳を終了する時点で南部駒賞、東北3歳チャンピオンなどを含め9戦9勝。スポーツ紙に“東北に怪物”出現の文字が賑わすようになった。
明けて4歳(現表記では3歳)。冬休み明け初戦、スイフトセイダイは3歳路線の幕が気って落とされるスプリングカップに出走したが、牝馬アンダースワローの逃げ切りにしてやられて2着。続く4歳A1戦でもハイデルスパークの大外強襲に遭って2着。
連続で敗戦を喫し、前途に暗雲が立ち込めたが、今振り返ると大型馬ゆえ仕上がりに手間取ったのかも。3戦目・やまびこ賞で首位を奪回するとダイヤモンドカップ、不来方賞など5連勝をマーク。
1989年 ダービーグランプリ
1着 スイフトセイダイ(写真左)
写真右(桃帽)がギオンアトラス
11月26日、第4回ダービーグランプリへ岩手の期待を一身に集めて出走したスイフトセイダイは、佐賀からはるばる遠征ギオンアトラスの大外強襲を退けて優勝。岩手悲願のダービーグランプリ優勝を成し遂げた。1着 スイフトセイダイ(写真左)
写真右(桃帽)がギオンアトラス
このとき、小生は関係者エリアでの観戦だったが、スタンドの大歓声もさることながら、主催者も大興奮。ゴールに入った瞬間、「ウォー!やったー!」と大声を張り上げた。スイフトセイダイの優勝はファンのみならず、岩手競馬に関わるすべての人々の喜びだった。
1986年、ダービーグランプリの創設と前後して厩舎エリアには、こんなステッカーが貼られていた。「強い馬を作ろう、岩手の名にかけて」。これを合言葉に強い馬作りに励んできたのだが、第1回から第3回まで南関東代表が3年連続で優勝。当の岩手勢は電光掲示板に載る5着が最高で、軒並み着外。ダービーグランプリ優勝は夢のまた夢。そんな日など永遠に訪れないだろう―とまで諦めのムードが充満していた。それゆえスイフトセイダイの悲願達成は、関係者に勇気と自信を与えてくれる快挙となった。
1989年 東京大賞典
1着 ロジータ 2着 スイフトセイダイ(写真右)
(月刊地方競馬 1990年2月号より)
スイフトセイダイの野望はそれでとどまらず、次のターゲットに東京大賞典を選び、大井へ殴り込みをかけた。ところが当時、岩手所属では出走権がなかったため一旦、大井の福永二三雄厩舎へ転厩。ダート日本一を目指して同レースへ出走したのだが、ロジータに4コーナーでアッサリ交わされて完敗の2着。1着 ロジータ 2着 スイフトセイダイ(写真右)
(月刊地方競馬 1990年2月号より)
今でも鮮烈な記憶として残っているのだが、スイフトセイダイが必死に粘ろうとする外をロジータが馬なりで楽々と交わしていったのには、ただただ唖然とするばかり。スイフトセイダイと同じく、完膚なまでに叩きのめされた。
翌年、みちのく大賞典、新潟で行われた東北サラブレッド大賞典を制したスイフトセイダイは再び大井へ転厩してグランドチャンピオン2000、東京大賞典へ連続チャレンジ。しかし、ダイコウガルダンに2度とも敗戦を喫し、特に東京大賞典はクビ差の惜しい2着に敗れ、またもや屈辱を味わうことになった。
それでもスイフトセイダイの全国行脚をあきらめなかった。地元に戻って4連勝を飾り、今度はJRAオールカマーへ挑戦。初の芝に戸惑い、適性もなかったのだろうジョージモナークの5着。東京(千葉)がダメなら北海道があるさ、とブリーダーズゴールドカップ(札幌競馬場)へ遠征したが、カミノクレッセがはるか先、2.1秒も前を走り抜け、スイフトセイダイの旅はそこで終止符を打った。
一方、スイフトセイダイが遠征の間、グレートホープが岩手の屋台骨が背負った。桐花賞3度優勝、南部杯優勝など不在を埋めるのに十分の活躍。そして92年6月21日、みちのく大賞典でついに打倒スイフトセイダイの夢を実現した。
はるか高い山にそびえ立つスイフトセイダイ、打倒スイフトに燃えるグレートホープのSG対決に岩手のファンは興奮し、酔いしれた。スイフトセイダイ派、グレートホープ派が真っ二つに別れ、応援を送り勝ち負けを喜び落胆。あの一連のSG対決によって岩手競馬は馬券を超え、スポーツへと昇華した。
グレートホープ(写真中央)が優勝した1992年 みちのく大賞典
スイフトセイダイは3着に敗退(写真には写っていません)
スイフトセイダイは3着に敗退(写真には写っていません)
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