ダービーウイーク特別寄稿 岩手競馬最強馬列伝 カウンテスアップ編
2010年05月26日
いよいよダービーウイークが近づいてきた。“ダービー”の響きに心ときめかせてしまうのは、競馬ファンの性(サガ)。岩手の場合ではダービーウイークの真っ只中に行われる「岩手ダービー ダイヤモンドカップ」、伝統の「不来方(こずかた)賞」、そして今年復活した「ダービーグランプリ」。岩手の最強馬列伝を語るとき、これらのレースを抜きには語れない。
中でも不来方賞は、昨年で41回の歴史を積み重ね、岩手競馬で最も古い重賞としてファンに親しまれてきた“元祖”岩手版ダービー。
今回、岩手競馬最強馬列伝のキーワードを“ダービー”として記してみたい。
文●松尾康司(テシオ編集部) 写真●いちかんぽ
第16回(1984年11月4日)不来方賞優勝
【カウンテスアップ】
父フェートメーカー 母カウンテスドレスアップ(ドレスアップ)。カウンテスアップはカーレッド(Kahled)の3×3の強力なインブリードを持ち、500キロを超す雄大な馬格と黒光りする馬体で、デビュー前から期待された逸材だった。
フェートメーカー産駒が注目を集めたのには伏線があった。前年の不来方賞を優勝したのも同産駒のホワイトスワップスで、カウンテスアップは一回りも二回りもスケールアップ。周囲は当然のようにカウンテスアップに熱い視線を送った。
デビューは1983年8月14日、真夏の盛岡(旧・緑ヶ丘)競馬場850m。大型馬ゆえ、仕上がり途上だったことと850m戦では致命傷の出遅れを喫し、よもやの2着。その後の連勝街道を考えれば残念な限りだったが、2戦目を順当勝ちし、翌年の7月23日、B1戦(当時3歳だったが、すでに古馬編入)まで破竹の11連勝をマークした。
ところが、続く8月19日、B1戦2戦目で思わぬ伏兵に足元をすくわれ、連勝をストップさせられてしまった。名古屋から転入してきた牝馬フレールデイベールがマイペースの逃げに持ち込み、カウンテスアップが接近すると再び突き放し、接近、突き放すの連続でカウンテスアップの戦意が喪失?
油断もあったかもしれないが、当時、“小笠原(義巳騎手:現調教師)マジック”と言われた絶妙の逃げにマンマとしてやられてしまった。
その頃、カウンテスアップの主戦ジョッキーは、今は亡き千葉次男騎手(後に調教師)。最初、中央で騎手デビューを果たしたのだが、訳あって故郷の岩手へ戻ってきた。今なら時効だろうから記すが、「タバコの不始末でボヤを起こしてしまって、(免許を)返上したんだよ」と生前本人は語っていた。
時代は前後するが、トウケイニセイの父トウケイホープが岩手転入後、数々の名勝負を築き上げてきたコンビが“岩手の天才”千葉次男騎手だった。
1982年 東北サラブレッド大賞典
1着 トウケイホープ(写真手前)
(月刊地方競馬 1982年11月号より)
個人的な思い出になるが1982年の東北サラブレッド大賞典には心震えたものだった。新潟、上山、岩手の三県持ち回りで毎年行われ、その年の舞台は水沢2000m。各県代表するトウケイホープ、タイガームサシ(上山)、カツボーイ(新潟)が真っ向から激突。ファンを熱狂の渦に巻き込んだ。1着 トウケイホープ(写真手前)
(月刊地方競馬 1982年11月号より)
トウケイホープが逃げて直後外でタイガームサシが徹底マーク。その隊列が変わらず4コーナーを回ったところでトウケイホープ=千葉次男は意識的に外に持ち出し、タイガームサシを大外に振ってしまう。それを見てカツボーイが最内から突っ込んできたのだが、今度は千葉次男騎手、徐々に内を閉めにかかり、カツボーイの追撃を封じて優勝。その瞬間、スタンドから大歓声が上がった。
記録を振り返れば千葉次男騎手と同時代、10年連続でリーディングジョッキー首位の座についていたのは村上昌幸現調教師。彼を“天才”と称するファンの方が多いが、実は天才はポカも多い。村上昌幸騎手は最も“ミス”が少ないジョッキーだった。
村上昌幸調教師にインタビューしたとき、はっきりこう言った。「努力もしたし、研究もした。先輩ジョッキーの技を何とか盗もうとした」と。それゆえ最大の信頼を置けるジョッキーとしてファンからも厩舎関係者からも支持された。こう言うと怒られてしまうだろうが、ポカも含めて天才型ジョッキーは千葉次男さんだった。
1984年 不来方賞
1着 カウンテスアップ(写真右)
(月刊地方競馬 1985年1月号より)
話を本題に戻そう。今度は二のテツを踏まないとばかり、駒形賞(B1)を完勝したカウンテスアップは上山で行われた東北優駿へ遠征。新潟で絶大な強さを誇っていたグレートローマンを退け、その名を全国にとどろかせるに至った。1着 カウンテスアップ(写真右)
(月刊地方競馬 1985年1月号より)
帰郷直後の不来方賞でもキタノトップラン、ホーナインラッキーらを貫禄でねじ伏せ、古馬A1戦を経て4連勝で岩手版グランプリレース・桐花賞へ挑戦。そこでもトーホウプリンスなどの古馬一線級を退け、18戦16勝2着2回の成績を残して南関東へトレードされた。
以後の活躍はご存知の方も多いかもしれない。川崎記念3連覇、東京大賞典、名古屋大賞典などを制し、南関東、東海で一時代を築いた。
カウンテスアップが岩手へ居続けてほしい、と願わなかった訳ではなかった。しかし、あの頃の状況を考えればカウンテスアップの可能性を摘み取ってしまう酷な話。当時、交流レースの数は極端に少なく、出走すること自体が針の穴を通すほどの狭き門だった。
交流時代前に生まれたカウンテスアップは南関東へ行き、東海へも行って栄光と名誉を手にすることができた。むしろ、名声を獲得する前のカウンテスアップに出会えたことを幸せに思う。そして千葉次男騎手の天才プレーを見られたことにも。
61.5kgの負担重量を背負いながらも川崎記念3連覇を達成した
(1987年 川崎記念)
(1987年 川崎記念)
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