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開幕迫る、ホッカイドウ競馬2歳戦(後編)

2010年04月21日
ホッカイドウ競馬デビュー馬が上位を独占した
2010年の留守杯日高賞(水沢)
 4月19日、水沢競馬場で行われたGRANDAM‐JAPAN3歳シーズンの2戦目「第10回留守杯日高賞」。前編でその活躍に触れた笠松所属のエレーヌ&コロニアルペガサス(いずれも山中輝久厩舎)を、岩手転入後負けなし4連勝中のダイメイジュエリー(村上昌幸厩舎)が迎え撃つ構図だったが、ひと足先に抜け出したコロニアルペガサスを直線半ばでエレーヌが豪快に差し切って完勝。2着コロニアルペガサスから4馬身差の3着にも道営出身の笠松所属馬プティフルリール(山中輝久厩舎)が食い込み、道営デビュー馬が上位を独占する結果となった。
 牡馬戦線では、南関東1冠目の「第55回羽田盃」が今夜(21日)発走。前哨戦ラストの重賞「第13回クラウンカップ」も道営から転入初戦のポシビリテ(河津裕昭厩舎)が強気の4角先頭から長く良い脚を使って快勝、昨年11月のJRA交流JpnV「第36回北海道2歳優駿」でビッグバンの2着に追い込んだ能力の高さを、重賞の大舞台で如何なく発揮して見せた。
 その後、4月5日の大井・チューリップ特別に出走したJRA2勝の転入初戦馬マカニビスティー(松浦備厩舎)が、早め先頭から2着以下を8馬身ちぎる大楽勝。それまでの道営デビュー組“優勢ムード”から、一気に風向きが変わってきた印象もあるが、ハイレベルの1冠目「羽田盃」を制すのはどの優駿なのか。目の離せない一戦となりそうだ。

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 今年の各地クラシック戦線での活躍が示す通り“ダイヤの原石”が毎年、数多く交じっているホッカイドウ競馬の2歳馬たち。そうした認識が全国のファンに着実に広がり、年々注目も高まってきた訳だが、28日(水)の今シーズン開幕を1週間後に控え、さらに全国の視線を集めること必至なビッグニュースが、笠松競馬から飛び込んできた!
ホッカイドウ競馬への参戦が予定されるラブミーチャン
(写真は2009年全日本2歳優駿)
 史上初めて2歳馬で「年度代表馬」に輝いたラブミーチャン(柳江仁厩舎)が、春〜夏シーズンの主戦場を冷涼な北海道に移すことをオーナーの小林祥晃氏(Dr.コパさん)が発表したのだ。とはいっても“移籍”ではなく、笠松に在籍したままホッカイドウ競馬の門別トレセンで調整して交流重賞出走をめざす“長期出張”の形。近年JRAでも、GT等に出走する関東馬が数週間にわたり栗東トレセンで調整するケースが増えてきているが、それと同じようなスタイルで道営の重賞に参戦しようというわけだ。 笠松に籍を置いたまま、オーナーとして初勝利を挙げた“縁の深い”ホッカイドウ競馬も盛り上げたい。そして愛馬ラブミーチャンにも、涼しい北海道で体調を維持しながら思う存分、能力を発揮してもらいたい。
 中央・地方わけ隔てなく「競馬」をこよなく愛し、その発展を常々願っているDr.コパさんならではの選択と言えよう。今後については、4月下旬に門別トレセンへ移動。柳江師と親交の深い角川秀樹師(09年NAR殊勲調教師賞)の管理馬房に入り、まずは5月20日(木)の地方交流重賞「エトワール賞」=H3・サクラバクシンオー賞、門別1200m=に向けて調整が進められる。ここをステップに、6月17日(木)のJRA交流JpnV北海道スプリントカップ=クロフネ賞、門別1200m=に挑戦するプランが描かれており、実現すれば地方競馬・春シーズン最大級の話題になることは必至。ぜひ注目して頂きたい。

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 少し横道に逸れたが、ここから本題。今年も注目される2歳馬たちだが、19日時点ですでに計471頭の2歳馬が入厩して調教されており、3月18日から先週15日までに計7日間行われた「競走能力・発走調教検査=いわゆる能検」ですでに計272頭が基準タイム等をクリアして合格。競走馬としてデビューする資格を得ている。
ファンにも公開されたホッカイドウ競馬の能力検査
 そして毎年、各方面から注目が集まる“新種牡馬”の産駒たちだが、今年は例年以上に色とりどりの印象。世界中が注目しているといっても過言ではないディープインパクトや、国内で唯一、彼を負かした国際GT馬ハーツクライの産駒こそ現時点では入厩していない(ハーツクライ産駒はいったん入厩したものの、その後退厩)が、そのライバルだったリンカーンやアドマイヤジャパン、長くダートグレードで大活躍したタイムパラドックスに天皇賞(春)優勝馬スズカマンボ、NHKマイルカップ優勝馬テレグノシス、菊花賞馬ソングオブウインド。そして「ディープインパクトの全弟」という血統背景で大いに注目されているオンファイアの産駒たちが、開幕を今や遅しと待っている状況だ。
 また、外国産の輸入種牡馬の産駒たちも、本邦輸入後の初年度となるファンタスティックライトのほか、同じダーレー勢のルールオブロー、豪州産の快足血統スニッツェルや、3歳時に欧州中距離チャンピオンに輝いたデビッドジュニアらの産駒がデビュー予定となっている。
 これら新種牡馬の産駒の中から、能検で好時計を記録し、注目が高まっている馬たちを以下に紹介していきたい。もちろん、能検での走破タイムが実際の競走能力をストレートに表わす訳ではなく、新馬戦に向けての調教過程で大きく変わってくる馬も多い。よって、能検時の時計だけで力関係を把握するのは不可能だが、それでも各馬のスピード能力の一端を示しているのは確かで、覚えておいて損はない!?はず。
 15日までに最多の6頭が合格しているソングオブウインド産駒では、モルフェミシエロ(牝、千葉津代士厩舎)が52秒0で2位入線。能検時468キロと馬格も十分だ。
 同じく6頭が合格済みのリンカーン産駒では、リュウノスマッシュ(牡、国信満厩舎)が52秒7をマーク。5頭中の最下位入線ではあったが、直線で右に左にフラつく若さも見せながら他の4頭に大きく離されたわけでもなく、今後の変わり身が期待できそう。
小柄ながら能検で優れた瞬発力を見せたネジューデシュバル
(外の2番)

 5頭が合格したスズカマンボ産駒では、ネジューデシュバル(牝、田中淳司厩舎)が50秒7をマークして堂々の1位入線。能検時398キロと小柄だが、道中最後方から直線だけで前の5頭を交わし切った瞬発力は見どころ十分。昨年、同厩舎デビューでエーデルワイス賞3着に食い込んだプリマビスティー(その後、大井ST東京2歳優駿牝馬V)に続く活躍を期待したい1頭だ。
ラブミーチャンの半弟で期待されるホクト(6番)
 また、ラブミーチャンの半弟という血統背景で話題のホクト(牡、若松平厩舎)も51秒3で1位入線。シッカリ伸びる末脚が印象的な素質馬で、開幕週デビューも視野に入れながら調整されている。
 4頭合格のタイムパラドックス産駒は、受検馬が好時計を連発。特に、50秒0で1位入線を果たしたユーユーユー(牝、田中正二厩舎)は好発から道中、鞍上が抑えたままで抜群の手応え。直線も馬なり、ゴール前で鞍上が軽く気合をつけるとスムーズに加速する軽快さを見せた。田中正師も「文句なしの良い走りだった」とご満悦で、デビューが待ち遠しい存在。
ディープインパクトの全弟オンファイアの初年度産駒コパノオンタイム(中の4番)
 同じく4頭合格のオンファイア産駒では、モルフェオンライト(牝、千葉津代士厩舎)が50秒5をマーク。時計的には53秒0であまり目立たないコパノオンタイム(牡、田中淳司厩舎)は、田中淳師がなかなかの手応えを感じた様子で「開幕シリーズでデビューさせることになるかも」とコメントしている。
 その他では、アドマイヤジャパン産駒のケンタッキウーマン(牝、角川秀樹厩舎)が50秒6。テレグノシス産駒のコードナンバーが51秒6、スニッツェル産駒のカムインターコイズ(牡、原孝明厩舎)が51秒5、デビッドジュニア産駒のフェザージュニア(牝、林和弘厩舎)が51秒3でそれぞれ合格。早い時期のデビューも期待できそうだ。

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 ここで、道営2歳戦線の「競走番組」について少し詳しく、お伝えしておきたい。
 地方競馬の2歳戦では、ご存知の通り、勝ち馬に「JRA特別指定交流競走」への出走権利が与えられる「JRA認定競走」が行われているが、ホッカイドウ競馬には全国最多の計180競走が配分されており、これが数多くの良血馬、高素質馬を含む“将来性ある2歳馬確保”の根源的な要因となっている。
 その「180競走」の内訳は、新馬戦の「フレッシュチャレンジ」が65競走、原則としてデビュー2戦目の馬が出走できる少し賞金の高い未勝利戦「ルーキーチャレンジ」が21競走。そして、認定レース未勝利馬が出走できる「アタックチャレンジ」が94競走だ。
 なお、アタックチャレンジにはJRA認定以外の通常の「未勝利戦」を勝ち上がった馬も出走できるため、例年「アタック勝ちが2勝目」という馬も複数、出てくる。こうした馬たちは、通常の未勝利戦をスピードの違いで圧勝するケースも多いので、馬券作戦を組み立てる上で“かなり有用”だと言えるだろう。
 さて、春〜夏シーズンにかけて、JRA認定レースを勝ち上がった2歳馬たちは次戦以降、オープン特別や重賞レースに挑戦することになる。例年、6月初旬前後には最初のオープン特別が編成され、7月初旬(今年は6日)に組まれる“日本一早い2歳重賞”の「栄冠賞」につながっていく。
 そこからは7月下旬の函館競馬「ラベンダー賞」から10月初旬の「札幌2歳S」まで続く「JRA北海道シリーズ」の主に芝レース挑戦組と、夏の暫定王者決定戦「ブリーダーズゴールドジュニアカップ」を頂点とする地元ダート組とに分かれるが、秋には再び合流して、10月下旬の「エーデルワイス賞」=JRA交流JpnV・牝馬限定、門別1200m=と、11月上旬の「北海道2歳優駿」=JRA交流JpnV、門別1800m=で覇を競うことになる。
 そのほか近年は、南関東や岩手などで行われる地方交流重賞(鎌倉記念や平和賞、テシオ杯ジュニアグランプリ、南部駒賞など)に挑戦する馬が増えてきた。昨年はナンテカが鎌倉記念&平和賞を、ボヘミアンがテシオ杯ジュニアグランプリを制して「ホッカイドウ勢の強さ」を全国に印象づけている。
 以上が、シーズンを通じた2歳戦線の大まかな流れだが、こうしたハイレベルの戦いの過程から毎年、各地の3歳クラシックを沸かせる優駿が現れてくるわけだ。

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 新種牡馬の産駒たちの動向に加え、今シーズンもう一つの大きな注目点として「クラブ法人」の本格参入が挙げられる。
 JRAでは20法人ほどが参入。多くの競馬ファンを会員として取り込み、今では中央競馬の一翼を担うほど大きな存在となっているわけだが、地方競馬では昨年ようやく「シルク」と「ターフスポート」が参入し、両社で計6頭の2歳馬について会員募集をスタート。そして、いずれも初年度から勝ち馬が出て、まずは順調なスタートを切った。
 そして今年からは、社台レースホース、サンデーレーシング、キャロットファームの3法人が新たに参入。この5法人が会員募集した今年の地方デビュー予定馬は20頭を超えており、その大半はホッカイドウ競馬でのデビューが予定されている。トップ級の活躍馬が出る可能性も十分で、クラブ元年だった昨年とは比較にならないほどの注目を集めることになるかも知れない。
 ホッカイドウ競馬では「馬主服」が導入されており、クラブ所属馬は基本的にJRAと同じデザインで出走できる(※JRA認定以外の未勝利競走は騎手服での出走)ため「これまではJRAしか競馬を見なかった」というファン層にも今後、アピールできる機会が大きく広がることは必至。競馬を見て楽しむだけでなく、馬主気分で「参加できる」機会が拡大することで、地方競馬に関心を持つ層が再び広がりを見せ始める可能性もありそうだ。

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開幕に向け着々と調教が続けられる門別競馬場。
(3月25日能検終了後撮影)
 03年のデビュー以来、数々の名勝負や苦難の連続で常に競馬ファンの関心を惹きつけてきた、道営の雄にして「地方馬初の国際GT馬」コスモバルクが、昨年の有馬記念出走を最後についに現役引退。21世紀初頭のホッカイドウ競馬を牽引し続けた名馬が去った今年は、これまでにも増して「新たなスターホース」の誕生が待たれるシーズンになる。
 その開幕は、一週間後の4月28日(水)。今年は11月18日まで80日間の全日程が門別競馬場「グランシャリオナイター」で行われることになっている。いま、全国の3歳クラシック戦線を沸かせている素質馬が多数、巣立っていった昨年以上の盛り上がりを期待せずにはいられない。
開幕が迫るグランシャリオナイター。(写真は昨年の開幕風景)
 初日にはさっそく“日本一早い2歳新馬戦”が「開幕記念・スーパーフレッシュチャレンジ競走」として行われるほか、28・29・5月4・5日の“開幕シリーズ4日間”は、地元・日高管内の農業団体やサッポロビールほかの協力による「地元グルメ&プレゼント満載」のファンサービスも用意されているとのこと。ぜひ現地で、今年の2歳新馬戦スタートを目撃しちゃって下さい!
取材・文●神谷健介
写真●ホッカイドウ競馬、いちかんぽ、NAR
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