2007年に笠松のマルヨフェニックスが、11年に兵庫のオオエライジンが勝利しているように、他地区勢の活躍が印象深いこのレースだが、今年の遠征馬はホッカイドウのリンノレジェンドただ1頭。そのリンノレジェンドにしても、冬季に大井所属として2戦を消化しており、目新しさに欠けるメンバーとなったのは否めなかった。しかし、結果的にそのリンノレジェンドと、期間限定騎乗中だった愛知の岡部誠騎手による“他地区連合”が、南関東勢を一蹴して重賞初制覇。地方全国交流戦の奥深さをかいま見ることができる一戦となった。
道中は、クラウンカップを制したホールドユアハンドが先導。平均ペースの流れを、リンノレジェンドは3、4番手で追走する。向正面では若干力み気味だったが、4コーナーで先頭に並びかけると最後までしっかり脚を伸ばし、2着のグリードパルフェに2馬身半差をつけてゴールを駆け抜けた。
地元門別の北斗盃では5着に敗れたものの、北海優駿で2着、王冠賞で3着と、ホッカイドウ競馬の三冠ロードで安定した成績を残してきたリンノレジェンド。かつて過ごした大井コースということもあり2番人気に推されていたが、中1週で暑い時期の長距離輸送だけに、本来のパフォーマンスを発揮できるかとの不安もあったはずだ。しかし、それをものともせずに勝ち切ったあたり、精神面の強さは相当なもの。軽い馬場ではあったが、半年の間に大井1800メートルの時計を4秒2も詰めた成長ぶりも見逃せない。
一方で、悔しさをにじませたのは1番人気に支持されたグリードパルフェの笹川翼騎手。6、7番手から馬なりのまま位置取りを上げ、4コーナーを抜群の手ごたえで回ると、あとはリンノレジェンドを捉えるだけという完璧なエスコートを見せたが、勝ち馬の粘りは予想以上だった。「手ごたえはずっと良かったし、正直なところ『これで負けるのか』と思いましたね」と笹川騎手。そう話す表情からも悔しさは十分に推察できたが、それでも笑顔でリンノレジェンドの林和弘調教師に握手を求めに行った姿が印象的だった。
今回の黒潮盃は、3歳秋のチャンピオンシップにおける唯一のカテゴリーA。リンノレジェンドはダービーグランプリも勝利すれば、1000万円のボーナス賞金を手にすることができる。しかし、今後について林調教師は「大井へ再移籍するプランもあるし、ダービーグランプリへの出走も含めて未定。まずは北海道に連れて帰ってから話し合いたい」とし、林調教師の父で、元調教師でもある正夫オーナーとの相談次第とした。
もちろん馬の状態が最優先ではあるが、地方全国交流戦のおもしろさを再確認させてくれたリンノレジェンドには、その象徴であるダービーグランプリにぜひとも出走してもらいたいもの。持ち前の息の長い末脚とタフな精神力は、盛岡2000メートルに打ってつけだろう。“オータムチャンピオン”の称号も、けっして夢ではない。
Comment
岡部誠 騎手
初騎乗でしたが、レース前に過去の映像を見てイメージをふくらませていました。少し促していったぶん、道中でハミをかんでイライラしていましたが、それがむしろいい方向に向いた感じもあります。最後まで止まらない馬というイメージもあったので、なんとか踏ん張ってくれと思いました。
林和弘 調教師
いい流れになってくれたし、追ってからもうひと伸びしてくれたので、ゴール手前100メートルくらいでは大丈夫かなと思いました。切れ味勝負は得意ではありませんが、長く脚を使うことができるのがセールスポイントなので、南関東の競馬が合うのではないかなと思っていました。