連載第17回 1999年 金盃
記憶に残るダートの末脚 ミナミノジャック
人気馬3頭をまとめて差し切ったミナミノジャック(写真中央)
トニービン産駒と言えば『ダートは走らない』が競馬ファンの『常識』である。1992年から2009年の中央競馬の数字を調べてみると、芝にのべ7,317頭に出走し831勝、11.3%の勝率。ダートはのべ2,414頭が出走し、210勝、8.6%の勝率である。実のところ、言われているほどの大きな差はない。しかし、重賞実績となると、ジャングルポケット、ウイニングチケットの両ダービー馬を筆頭に、GT9勝、GU6勝、GV9勝を挙げている。一方、ダートは2001年のGVマーチステークスに勝ったアイランドオオジャのみ。これが『ダートは走らない』の根拠である。
※ 写真はレース映像からのキャプチャー画像です
Movie(映像ファイルサイズ:26MB)
地方競馬にまで広げても、2002年の関東オークスGVに勝ったサクラヴィクトリアを筆頭に、青藍賞のサンアドマイヤ、東国賞のダイワトニービン、新潟グランプリのミスズトニーオー、荒尾・サラブレッド大賞典のマドロス等がいる程度。笠松から中央に移籍したベッスルキングは、芝の駿蹄賞を制している。
そしてもう1頭、大井の金盃を制したミナミノジャックもまたトニービン産駒である。
3歳の秋にJRA新潟の未勝利戦でデビューし2着。脚元が弱く2戦目に芝を使ったが骨折し5ヵ月の放牧。復帰後も主にダートを使われて、地方交流を2戦2着した後、デビュー以来5戦目となる中山の「5歳以上500万下」で初勝利を挙げた。以降も1、2、2、2、1、1、1、4着と安定した成績で「1500万」まで昇級、5月の府中・薫風ステークスでデビュー以来2戦目となる芝のレースに出走。しかし、トニービン産駒にとってこれ以上ない条件だったにも関わらず、13頭立て13着と大敗を喫する。
再び休養の後は以前の姿に程遠く9戦して5着2回が最高と低迷。ついに登録を抹消され、小林の太田進厩舎へ転厩した。転入4戦目に準重賞のかちどき賞に勝ち、続く東京大賞典は6着。後方から追い込んであともう一歩届かずのレース振りだったが、この馬本来の力を取り戻しつつあったミナミノジャック。7歳の春、金盃に駒を進めた。
1番人気はキャニオンロマン、骨折明け3戦目の前走A1下でようやく復活の狼煙を上げていた。そして2番人気は重賞3勝を含む4連勝中のアローセプテンバー、休み明けの前走キャニオンロマンの2着と好走した前年の羽田盃馬ゴールドヘッドが3番人気。ミナミノジャックは5番人気の評価だった。
スタートから波乱の幕開け。なんと1番人気のキャニオンロマンがスタート直後に落馬するアクシデント。ざわめく場内、しかし、レースはゴールドヘッドとアローセプテンバーの2頭がハイペースで引っ張る予想通りの流れに。3番手には4番人気のリンドダルタニアンが付け、その直後を走るグランプリクンは次第に先行3頭から離されていく。ミナミノジャックは9番手、7番手、6番手とジリジリと位置取りを上げて迫るが、先行3頭の勢いは衰えない。
直線に入っても、逃げ込みを図るゴールドヘッドを巡り、アローセプテンバーとリンドダルタニアンが追い駆ける。200の標識を過ぎて外からようやくミナミノジャックが迫るが、まだ前3頭との差は開いている。しかし残り100mを過ぎてもグングン末脚を伸ばし、競り合う人気3頭を並ぶ間もなく交わしてゴール。デビュー以来29戦目で待望の初重賞勝利となった。「流れが向いた」と石崎隆之騎手。普段よりも前目を追走、流れが速かったにも関わらず、あの末脚を引き出した殊勲の騎乗だったと言える。
その後大井記念でゴールドヘッドとアローセプテンバーの返り討ちに遭い、再び脚部不安もあり放牧へ。復帰後も東京記念5着、放牧と順調には使えず、金盃の翌々年、船橋記念12着を最後に引退となった。脚元さえパンとしていればもっと活躍できたであろう。あるいはそれゆえに『ダートで走るトニービン産駒』として記憶に名を留めたのかもしれない。振り返ってみれば、満足に使えない中、たった1度のチャンスを見事モノにしたレースではあったが、あの推定37秒4の末脚を覚えていた人は、意外に多かった。
文●小山内完友(日刊競馬)
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
第43回 金盃(G2) 平成11年(1999年)3月1日 | |||||||||
サラ系5歳以上 1着賞金3700万円 大井2,000m 晴・良 | |||||||||
着順 |
枠番 |
馬番 |
馬名 |
所属 |
性齢 |
重量 |
騎手 |
タイム・着差 |
人気 |
1 | 3 | 4 | ミナミノジャック | 大井 | 牡8 | 55 | 石崎 隆之 | 2.04.7 | 5 |
2 | 3 | 5 | ゴールドヘッド | 大井 | 牡5 | 56 | 的場 文男 | 1 1/2 | 3 |
3 | 4 | 7 | リンドダルタニアン | 大井 | 牡7 | 53.5 | 内田 博幸 | クビ | 4 |
4 | 7 | 12 | アローセプテンバー | 船橋 | 牡5 | 56 | 左海 誠二 | アタマ | 2 |
5 | 2 | 2 | ホクトオーロラ | 船橋 | 牝5 | 54.5 | 桑島 孝春 | 7 | 6 |
6 | 1 | 1 | セントリック | 大井 | 牡7 | 56 | 宮浦 正行 | クビ | 7 |
7 | 5 | 8 | テツノセンゴクオー | 大井 | 牡8 | 55.5 | 鷹見 浩 | 2 1/2 | 11 |
8 | 2 | 3 | グランプリクン | 浦和 | 牡6 | 56 | 見澤 譲治 | 1 1/2 | 8 |
9 | 8 | 15 | ベニノコバン | 大井 | 牡9 | 55 | 澤 佳宏 | クビ | 14 |
10 | 8 | 14 | ダイアモンドコア | 川崎 | 牝5 | 53.5 | 森下 博 | 4 | 10 |
11 | 4 | 6 | マイネルガーベ | 川崎 | 牡8 | 52 | 河津 裕昭 | クビ | 13 |
12 | 7 | 13 | カワノスパート | 大井 | 牡7 | 55 | 張田 京 | 3 | 12 |
13 | 6 | 11 | ドラゴンボブ | 浦和 | 牡7 | 53 | 金原 学 | 2 1/2 | 15 |
14 | 6 | 10 | キタサンシーズン | 川崎 | 牡7 | 54 | 佐藤 隆 | 1/2 | 9 |
5 | 9 | キャニオンロマン | 大井 | 牡6 | 55.5 | 佐々木 竹見 | (中止) | 1 | |
払戻金 単勝2,090円 複勝330円・180円・190円 枠連複2,440円 枠連単2,260円 馬連複2,230円 馬連単6,420円 |