連載第16回 1995年 オグリキャップ記念
畏れることなく、交流時代の道を拓いた勝利
一番人気に応え、交流重賞を完勝したマルブツセカイオー
オグリキャップ記念は今は笠松のゴールデンウィーク開催で行われているが、第1〜4回までは2月に行われている。今回、紹介する第5回、1995年のレースは11月。1988年から地方競馬交流競走として行われていた全日本サラブレッドカップ(2500m)が名称を替え、これまでの東海公営限定のレースから交流競走としてグレードアップした形になった。さらにこの1995年は中央競馬との交流元年で、地方競馬全国交流に中央勢が加わっての戦いになった。
Movie(映像ファイルサイズ:43MB)
全日本サラブレッドカップの7回で東海公営勢が6勝。また7頭の勝ち馬はすべて2400m以上の距離で3着以内の実績があった。
この年の東海公営勢で文句なしにナンバーワンという立場だったのが名古屋のマルブツセカイオー。前年の全日本サラブレッドカップではトミシノポルンガを下して1着。さらに同距離、2500mの名古屋の東海菊花賞を2年連続でレコード勝ちしていた。
しかし、前述のようにこの年は中央交流元年。オグリキャップ記念をむかえる前に全国で7レースが施行されていて、中央勢が6勝もしていた。
ここに参戦してきたアドマイヤボサツも6勝のうちのひとつをカウント。佐賀の開設記念(2000m)を勝っていた。
この開設記念にはマツブツセカイオーも挑戦していて2秒6差の4着という完敗を喫していた。ただ、この1戦に関しては戸部騎手はまったく意に介してはいなかった。
「全然、行き脚がつかなくてね。競馬にならなかった。力を出しきってというわけではなかったから」と。
当時、マルブツセカイオーは長距離輸送の競馬がどうか?と危惧されていて、他場のレースに挑戦する際には1ケ月ほど前から現地に移動して調整されていた。結果として、これがよかったのか?悪かったのか?といった面はあったと思われる。環境の変化で食いが悪くなったのか、滞在競馬にも関わらずマイナス7キロの467キロでの出走だった。ちなみに全日本サラブレッドカップ、東海菊花賞(2勝)を勝ったときの馬体重は478〜480キロだった。
さて、オグリキャップ記念。マルブツセカイオーは480キロでの出走。小回りの長距離戦は何度も何度もコーナーを回って、そこで息を入れやすく逃げ馬有利の傾向が顕著だ。早い段階でハナに立つ形になったアドマイヤボサツは不足のないレースに持ち込めたと思う。マルブツセカイオーは3番手からに。ことさらマークというわけではなくて、「長い距離でもまれずに先行するのがこの馬のベストの形(戸部騎手)」で、馬の力を信じて正攻法の競馬をしたといったところだろう。4コーナーでアドマイヤボサツに並びかけると苦もなく突き放して2馬身差の完勝だった。
当時のことを戸部騎手に振り返ってもらった。
「もうずいぶん昔のことで、いろいろなレースの記憶がごっちゃになっているのだけど、レースが終わったあとにアドマイヤボサツの芹沢騎手から『地方にもこんな強い馬がいるんだ』って言われたのだけははっきり覚えていますね」と笑顔で語った。
交流元年。中央勢にいいようにやられていた感があっただけに、地方競馬の関係者やファンにとっては打倒中央を威風堂々とはたした爽快感があったと思うのだが、戸部騎手からは意外な言葉。
「大きなレースという意味では気合が入っていたけど、対中央という意識は特になかったよ」と。佐賀で一敗地にまみれているにも関わらずだ。それは当時の時代背景が関与してくる。
「中央自体が今のようにダートのレース体系が整備されていなかったからね。だからどういったレベルの馬が参戦してくるとは言い切れなかったし」と続けた。
それでも、マルブツセカイオーの熱闘、残した軌跡が厩舎人たちのモチベーションや自信をアップさせたのは間違いないだろう。翌年からグレード化された交流競走で名古屋からゴールデンチェリー(2000年クラスターカップ:GV)、ブランシャトレー(2000年サラブレッドチャレンジカップ:GV)、ゴールドプルーフ(2001年全日本サラブレッドカップ:GV、2003年東海ステークス:GU)、マルカセンリョウ(2003年名古屋大賞典:GV、2004年かきつばた記念:GV)、タカラアジュディ(2004年名古屋優駿:GU)、ヨシノイチバンボシ(2005年かきつばた記念:GV)にキングスゾーン(2007年サマーチャンピオン:GV)と7頭の勝ち馬が出ている。
文●森徹也
写真●いちかんぽ
音声●弘報舘
映像●セントラルビデオ
(協力:岐阜県地方競馬組合)
写真●いちかんぽ
音声●弘報舘
映像●セントラルビデオ
(協力:岐阜県地方競馬組合)
第5回 オグリキャップ記念 平成7年(1995年)11月23日 | |||||||||
サラ系オープン 1着賞金4000万円 笠松2,500m 曇・不良 | |||||||||
着順 |
枠番 |
馬番 |
馬名 |
所属 |
性齢 |
重量 |
騎手 |
タイム・着差 |
人気 |
1 | 8 | 9 | マルブツセカイオー | 名古屋 | 牡6 | 56 | 戸部 尚実 | 2.46.9 | 1 |
2 | 7 | 7 | アドマイヤボサツ | JRA | 牡6 | 56 | 芹沢 純一 | 2 | 2 |
3 | 3 | 3 | エイシンライジン | JRA | セン7 | 55 | 武 豊 | 1 | 3 |
4 | 2 | 2 | ベッスルナイト | 笠松 | 牡6 | 56 | 安藤 光彰 | アタマ | 9 |
5 | 8 | 10 | オークプレイン | 笠松 | 牝5 | 54 | 川原 正一 | 1 1/2 | 7 |
6 | 6 | 6 | マルカショウグン | 笠松 | 牡5 | 56 | 今井 孝一 | アタマ | 6 |
7 | 5 | 5 | ミスタールドルフ | 金沢 | 牡6 | 56 | 渡辺 壮 | 3 | 4 |
8 | 4 | 4 | テイオーライデン | 笠松 | 牡5 | 56 | 次井 武史 | 2 | 8 |
9 | 1 | 1 | ヤグライーガー | JRA | 牡6 | 56 | 岸 滋彦 | クビ | 5 |
10 | 7 | 8 | ベッスルエース | 笠松 | 牡8 | 55 | 小森 勝政 | 大 | 10 |
払戻金 単勝230円 複勝100円・120円・130円 枠連複330円 |