連載第13回 1999年 帝王賞

「叶わなかった最後の2強対決 名勝負は永遠の夢に」

ライバルの回避でメイセイオペラの独壇場となった
Movie(映像ファイルサイズ:62MB)
 「だ〜いちを揺るがせて!メイセイオペラ完勝〜っ!」実況が高らかにうたい上げる。99年帝王賞GI、圧倒的とも言える1番人気に推されたメイセイオペラは2着サプライズパワーを全く寄せ付けず4馬身差で優勝。誰が見ても危なげない、まさしく『完勝』でGI連勝、そしてこれが“敵地”大井で初めての勝利を手に入れた瞬間でもあった。

 1999年1月、メイセイオペラを取り巻く世界が一変した。フェブラリーステークスGI制覇。地方所属馬が初めて成し遂げたJRAGI奪取、それも東北の片田舎・岩手の馬がやってのけたのだ。メイセイオペラは一躍時代の寵児となり、主戦・菅原勲騎手の名も全国に知れ渡った。
 前年の南部杯GIを制して既に「GIホース」となっていた同馬だが、それはあくまで地方の話。そこそこ地方競馬に詳しい競馬ファンでもなければ、その出来事自体を知らないという人も少なくなかったはずだ。
 しかし「JRAGI制覇」となれば話が違う。さすがにオグリキャップやハイセイコーほどではないにせよ、メイセイオペラがまるで“地方競馬最強”といわんばかりの採り上げられ方。
 いや、GIを勝ったのだから“ダート日本最強”を自称したっていいのだけれど、しかしこんな持ち上げられ方に一番面はゆい思いをしていたのは、ほかならぬメイセイオペラ陣営自身だっただろう。それはアブクマポーロという不動の存在があったからだ。
 99年春時点でアブクマポーロはGI4勝・GII3勝を挙げ、自他共に認める“ダート最強”の座に君臨していた。オペラとの直接対決ではアブクマポーロの4戦3勝、南関では3度挑んで3度ともオペラが跳ね返されている。
 98年暮れの東京大賞典、これがメイセイオペラにとって厳しい内容だった。南部杯でアブクマポーロに土をつけ、勇躍挑んだ暮れの大一番。しかし真っ向勝負を挑んだオペラは手もなく捻られたあげく、危うく2着も落としかけた。
 後年、佐々木修一調教師がしみじみと言った。「アブクマポーロ相手に楽勝できるとは言わないが接戦くらいにはなるだろう。そう思って行ったが、甘かった」。
 あの敗戦でライバルの壁は依然として高く厚い事が明らかになった。そして、メイセイオペラがフェブラリーSを制して日本中が沸いていた頃、アブクマポーロも川崎記念GIを完勝して存在感を見せつける。オペラ陣営にとっては祝勝気分を醒めさせられる無言のプレッシャーだ。
 いつかあの馬を負かしたい。それも敵地大井で・・・。メイセイオペラ陣営の目標は定まった。
 そんな陣営の願い以上に周りの見る目も変わっていた。地方所属の2頭が立て続けにGIを制したのだ。こうなれば次の“2強決戦”にはコアなファンならずとも注目するのが当然だ。その視線は、ごく自然に99年6月の帝王賞へと集まっていく。

 だがしかし。帝王賞に駒を進めたメイセイオペラの前に、ライバルの姿はなかった。アブクマポーロはダイオライト記念後、飛節を痛めてリタイヤ、出走が叶わなかったのだ。
 最大最強の敵がいなくなった事で、メイセイオペラは実にあっさりと帝王賞を制する。2着馬との着差4馬身、それ以上に楽な手応え。“勝って当然”という状況になってしまった事で陣営は逆にプレッシャーが増したのだろう、「実はナイターが苦手」「実は大井のコースが苦手」といろいろ心配をしていたようだが、終わってみれば全て杞憂だった。
 そして、これだけ強ければ例えアブクマポーロがいたとしても・・・、と思わせるだけのものもあった。メイセイオペラがアブクマポーロに追いついたのかもしれない。ならば、2強が繰り広げるだろう攻防史は、今まさに佳境を迎えつつある・・・。
 実際、98年川崎記念から99年帝王賞まで、国内で行われた古馬ダートGIはすべてこの2頭のどちらかが制しているのだ。これを黄金時代と言わずしてなんだというのか。
 しかしこの夢は、ついに叶わなかった。アブクマポーロは結局故障が癒えず、この年の11月に競走生活にピリオドを打った。メイセイオペラも、この年の夏の故障から歯車が狂い、4たびのGI制覇を果たせずに終わった。“2強”が相まみえる機会は、永遠の夢となった。

 菅原勲騎手にこの99年帝王賞の事を訊ねてみた事がある。“もしアブクマポーロがいたら、勝てましたか?”と。
 答えは「2馬身くらい前を走られていただろうね」。マイルなら逆転できただろう。だけど中距離の、それも大井でのあの馬の強さは尋常じゃない。「あの馬は、ちょっとやそっとで負かせる馬じゃなかったんだよ」。
 岩手サイドの人間としては、あれだけ強いオペラだったのだからアブクマポーロを負かしていてほしい・・・と思うのだが、そう簡単ではなかったようだ。やはりあの帝王賞、アブクマポーロの姿があってほしかった。
文●横川典視(テシオ編集部)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
競走成績
第22回 帝王賞 平成11年(1999年)6月24日
  サラ系5歳以上 1着賞金7000万円 大井2,000m 曇・稍
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 8 14 メイセイオペラ 岩手 牡6 57 菅原 勲 2.04.0 1
2 7 13 サプライズパワー 船橋 牡6 57 石崎 隆之 4 5
3 6 10 オースミジェット JRA 牡6 57 四位 洋文 1 6
4 4 7 ナリタホマレ JRA 牡5 57 蛯名 正義 1 1/2 7
5 1 1 ゴールドヘッド 大井 牡5 57 的場 文男 クビ 2
6 6 11 スノーエンデバー JRA 牡6 57 佐藤 哲三 1/2 9
7 3 4 チェイスチェイス 新潟 牡6 57 向山 牧 クビ 8
8 4 6 タイキシャーロック JRA 牡8 57 横山 典弘 1 1/2 3
9 2 3 ラシアンスキー 大井 牝6 55 堀 千亜樹 3 12
10 3 5 エムアイブラン JRA 牡8 57 武 豊 1 4
11 2 2 スタートザウェイ 大井 牡5 57 桑島 孝春 1 11
12 8 15 ゴールドプルーフ 愛知 牡5 57 吉田 稔 2 1/2 10
13 7 12 リンドダルタニアン 大井 牡7 57 内田 博幸 3 13
14 5 9 キャットスペシャル 大井 牡6 57 佐藤 祐樹 1 1/2 14
15 5 8 テツノセンゴクオー 大井 牡8 57 宮浦 正行 クビ 15
払戻金 単勝160円 複勝110円・220円・270円 枠連複830円 馬連複890円 枠連単1,190円 馬連単1,160円
 ワイド430円・530円・1,420円