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連載第29回 1998年 東京大賞典

『地方競馬の黄金時代』
1998年東京大賞典 アブクマポーロ

第44回 東京大賞典
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 交流元年と言われた96年から2年後の98年。それまでホクトベガやライブリマウントを中心としたJRA勢が地方競馬のビッグレースを席巻していた。しかし、地方競馬にもまだまだJRA勢に対抗しうる強い馬がいた。
 98年。ダートグレード競走の勝ち馬だけでも、トミケンクイン(TCK女王盃)、リバーセキトバ(黒船賞)、エフテーサッチ(マリーンカップ)、サンディチェリー(オグリキャップ記念)、ロバリーハート(群馬記念)、カガヤキローマン(北海道スプリントカップ、東京盃)、ホクトロビン(スパーキングレディーカップ)、ブライアンズロマン(さくらんぼ記念)、イジケヒカリ(クイーン賞)。そしてアブクマポーロ(川崎記念、ダイオライト記念、帝王賞、かしわ記念、NTV盃、東京大賞典)、メイセイオペラ(マーキュリーカップ、マイルチャンピオンシップ南部杯)など11頭、勝ち鞍は18を数えた。交流スタートから3年、グレード制となって2年目。今さら振り返るに、この頃は、まだ勢力図は定まってはいなかった。
 1年の締めくくり、東京大賞典。前年までの2800mから2000mへ距離短縮された、『ダートのグランプリ』。出走メンバーもそれに相応しい顔ぶれとなった。川崎記念、帝王賞の覇者アブクマポーロ、マイルチャンピオンシップ南部杯の覇者メイセイオペラ、前年の帝王賞馬コンサートボーイ、フェブラリーステークスの覇者グルメフロンティア。錚々たるG1ホース4頭。しかし、ファンの興味は船橋のアブクマポーロと岩手のメイセイオペラによる一騎打ち。単勝人気もアブクマ1.8倍、メイセイ2.9倍。JRAの大将格グルメフロンディアは3番人気の単勝7.9倍。今JRAの馬がこのような配当なら、間違いなく飛びついたことだろう。
 その年のアブクマポーロは『怪物』と言っていいほどの活躍だった。川崎記念、帝王賞のG1競走2勝などダートグレード競走5勝。JRA勢を向こうに回し、ほぼパーフェクトの活躍であった。しかし、唯一の敗戦となった盛岡の南部杯。行く手を阻んだのは岩手の雄メイセイオペラだった。いつも通りの中団待機、直線でも伸びては来たものの、前を捕らえきれず3着。出川克己調教師が「行く前から歯車が狂っていた感じ」と言うように、完全燃焼とは言えない印象。遠征帰りのグランドチャンピオン2000を馬なりで快勝し、アブクマポーロ本来のリズムを取り戻し、暮れの大一番を迎えた。
 南部杯でアブクマポーロを『完封』したメイセイオペラ。不良馬場をも地の利に変えるレコード勝ち。春の帝王賞では、マイペースで逃げたものの、直線ではアブクマポーロにあっさり交わされ3着。地元のマーキューリーカップでダートグレード初制覇を挙げ、南部杯に臨んでいた。従来のレコードを1秒1更新し、その実力を知らしめるには十分な快走だったと言える。北で確固たる地位を築き上げ、さらに地方競馬の覇権を狙うべく、師走の大井競馬場に乗り込んできた。
 1998年12月23日、大観衆の大井競馬場。ゲートが開き、グルメフロンディアが躓き最後方から。エムアイブランは定位置の後方待機、ワイルドブラスターは大井の馬場が合わないか、中団後ろでもがいている。キョウトシチーは有力馬の直後で虎視眈々も、距離短縮が致命傷になる。JRA勢がモタつくのを尻目に道中絶好位3番手を進むメイセイオペラ。これをマークする形で5番手のインに構えたアブクマポーロ。レースはサントスが後続を大きく離す逃げで引っ張り、1000m60秒7のハイペース。しかし、2番手以下先行勢は手綱を押さえ気味で、メイセイ、アブクマが互いに牽制している状態だった。
 先に動いたのはメイセイオペラ。それに合わせるように動いたアブクマポーロ。メイセイが外から抜け出そうとした瞬間、内からアブクマポーロが一気に突き抜けた。そしてゴールの瞬間、なんと石崎隆之騎手がガッツポーズ。「今年は南部杯では負けたけど、それ以外はずっと勝ってきたんだし、最後はポーロのためにもいい形で締めくくりたかった」と石崎隆之騎手。東京大賞典が交流となって4回目にして、地方競馬初の勝ち馬に導いた。結局実現はしなかったが「ドバイワールドカップ挑戦」という夢のような話も。
 2着に敗れたメイセイオペラの菅原勲騎手は「完敗」といった表情。しかしそのメイセイオペラは、翌年のフェブラリーSで地方所属馬として初めてとなるJRAG1優勝の快挙を成し遂げた。
 3着は大井のコンサートボーイ。地方競馬1・2・3着独占となった。JRA勢3着独占は当時も珍しくはなかったが、地方馬独占は2000年全日本サラブレッドカップ等数少なく、G1では唯一である。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
競走成績
第44回 東京大賞典 平成10年(1998年)12月23日
  サラ系4歳以上 1着賞金8100万円 大井2,000m 晴・良
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 6 11 アブクマポーロ 船橋 牡7 56 石崎隆 2:05:04 1
2 2 3 メイセイオペラ 岩手 牡5 57 菅原勲 21/2 2
3 7 12 コンサートボーイ 大井 牡7 56 的場文 3/4 5
4 8 15 エムアイブラン JRA 牡7 56 武 豊 21/2 4
5 3 4 グルメフロンティア JRA 牡7 56 岡部幸 1/2 3
6 7 13 ミナミノジャック 大井 牡7 56 白田日 1/2 9
7 1 1 テツノセンゴクオー 大井 牡7 56 鷹見浩 クビ 14
8 2 2 セントリック 大井 牡6 57 宮浦正 3/4 12
9 6 10 キョウトシチー JRA 牡8 56 松永幹 アタマ 8
10 4 7 キャニオンロマン 大井 牡5 57 佐々竹 11/2 6
11 4 6 カワノスパート 大井 牡6 57 張田京 3/4 15
12 5 8 アマゾンオペラ 船橋 牡8 56 左海誠 クビ 11
13 5 9 サプライズパワー 船橋 牡5 57 佐藤隆 11/2 7
14 8 14 ワイルドブラスター JRA 牡7 56 橋本広 4 10
15 3 5 サントス 大井 牡6 57 鈴木啓 クビ 13
払戻金 単勝180円 複勝110円・130円・210円 枠連複320円 馬連複340円 枠連単530円 馬連単570円