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連載第25回 1993年 帝王賞
「激戦を制した将軍の勝負根性」
1993年帝王賞 ハシルショウグン
春のクラシックも終わり、夏も終わろうとしている8月末の復帰戦に勝ち、デビュー以来休養を挟み5連勝で迎えた最後の1冠・東京王冠賞で、羽田盃馬アーバントップ、東京ダービー2着馬ウエルテンションらを抑え、世代の頂点に立った。赤間清松調教師、的場文男騎手が「あの骨折がなかったら3冠を取っていただろう」と口を揃えて語っていた。
続く東京大賞典は古馬の壁高く7着に敗れた。以降、現在の4歳時は大井記念を制したものの、8戦してその1勝に終わっている。その原因は揉まれる競馬に対する弱さだった。赤間師が「ドラールオウカンのような勝負根性があれば」と嘆くほど。また、的場騎手が「切れる脚がない」とも。すんなりとマイペースで先行できれば強い勝ち方をするが、時に惨敗もするのは、そういった面が強かった。しかし、敗れた7戦の中に札幌に遠征したブリーダーズゴールドカップ(8着)や、中山のオールカマー(6着)、ジャパンカップ(14着)などの遠征もあった。今もそうだが、当時も南関東は賞金も高く、他地区やJRAへの遠征はダービーグランプリやオールカマーなど一部を除きほとんどなかった。それだけこの馬に対する期待の高さが窺い知れる。
明けて、現在の5歳。初戦の東京シティ盃は、さすがに距離が短かったが、続く川崎記念で鈴木啓之騎手が騎乗し、先に抜け出したタケデンマンゲツを、ゴール前ハナ差捕えて久々の勝利を飾るとともに、古馬のビッグタイトルを掴み、将軍復活の狼煙を上げた。
そしてひと息入れた4月12日、地元大井競馬場のビッグタイトル帝王賞を迎える。
JRAからは前年の覇者ナリタハヤブサを筆頭に、前年の夏に遠征したブリーダーズゴールドカップの1、2着馬マンジュデンカブト、ヘイセイシルバー、女傑ダイカツジョンヌ、更に91年の天皇賞・秋2着馬カリブソングが出走。他地区からも東海の雄トミシノポルンガ、前走川崎記念2着と好走した宇都宮のタケデンマンゲツが。
地元勢も前年のNARグランプリ年度代表馬グレイドショウリ、快速馬スルガスペイン、さらには同厩の東京大賞典馬ドラールオウカンなど。川崎記念を制したとは言え、それよりもひとまわり、いやふたまわり以上の強豪が相手となる。1番人気はカリブソング、続いて2番人気ナリタハヤブサ、3番人気スルガスペイン。ハシルショウグンは5番人気だった。鞍上は主戦的場文男騎手。
ゲートが開いてトキノクンショウが落馬。幸い外枠でカラ馬も外々を回り、大きな影響はなかった。ハシルショウグンは好スタートで前に出る。逃げ馬なのに外枠希望のスルガスペインが、いつも通り大外から一気に先頭を奪いに来て、年度代表馬グレイドショウリがハシルショウグンの外に付ける。鞍上は最優秀騎手賞の石崎隆之騎手。実にいやらしいポジショニングだ。外からダイカツジョンヌも来て、ハシルショウグンはイン3番手。結果的に絶好のポジションをキープする。
レースは大きな隊列の変化も無く、5ハロン60秒7。淡々と流れた。道中9番手にいたナリタハヤブサは徐々に位置取りを上げ、4コーナーではハシルショウグンの直後に迫った。1番人気のカリブソングは中団8番手で仕掛けるタイミングを待っていた。
レースは直線の攻防となった。残り200メートルを切っても脚色衰えぬスルガスペイン。ダイカツジョンヌが番手マークから一気に交わそうとするが、なかなか馬体を併せるところまでいかない。的場文男騎手はハシルショウグンを、その更に外に持ち出した。外からグレイドショウリが迫る。
間もなく残り100メートル。ここから的場文男騎手の闘志に火が着く。ハシルショウグンを叱咤する鞭の連打。100メートルで12発。約1秒に2発。ハシルショウグンもその叱咤に応え、ジリジリと差を詰め、併走するダイカツジョンヌを半馬身ねじ伏せたところがゴールだった。3着スルガスペインがハナ差、外強襲の4着カリブソングがクビ差、5着グレイドショウリがクビ差。1着から5着までのタイム差が0.2秒の大激戦であった。
勝因を挙げてしまえば上りが掛かったレースで、瞬発力勝負にならなかったこと、そして道中揉まれずにレースが進められ、最後の攻防もやや馬体を離しての併走であったことが幸いしたのだろう。しかし、我々が最後の直線で観たものは、赤間師が見せて欲しかった「勝負根性」ではなかっただろうか。
名実共に将軍となったハシルショウグン。続く大井記念が結果的に最後の勝利となった。勝てはしなかったが、中山のオールカマーでは前年の汚名を雪ぐ2着。再び世界に挑んだジャパンカップは2年連続最下位となったが、「ショウグン」の名に外国の報道陣は大喜びだった。
94年のアフター5スター賞、グランドチャンピオン2000で2戦連続3着と復活の兆しを見せるも、結局立ち直ることもなくJRAへ転出。95年の天皇賞(秋)に出走し15着の後、障害に転向。取消を経て障害戦初出走となった1995年5月19日、最後の直線で左前第一指関節を脱臼し、その生涯に幕を閉じた。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
写真●いちかんぽ
中央競馬招待 第16回 帝王賞 平成5年(1993年)4月12日 | |||||||||
サラ系5歳以上 1着賞金5800万円 大井2,000m 晴・良 | |||||||||
着順 |
枠番 |
馬番 |
馬名 |
所属 |
性齢 |
重量 |
騎手 |
タイム・着差 |
人気 |
1 | 3 | 6 | ハシルショウグン | 大井 | 牡6 | 56 | 的場 文男 | 2.05.5 | 5 |
2 | 6 | 12 | ダイカツジョンヌ | JRA | 牝6 | 54 | 田中 勝春 | 1/2 | 7 |
3 | 8 | 16 | スルガスペイン | 大井 | 牡7 | 55 | 佐々木竹見 | ハナ | 3 |
4 | 4 | 8 | カリブソング | JRA | 牡8 | 55 | 安田 富男 | クビ | 1 |
5 | 5 | 10 | グレイドショウリ | 大井 | 牡5 | 56 | 石崎 隆之 | クビ | 4 |
6 | 7 | 13 | ハナセール | 大井 | 牡6 | 56 | 高橋 三郎 | 2 | 11 |
7 | 2 | 4 | ドラールオウカン | 大井 | 牝6 | 54 | 内田 博幸 | 1/2 | 8 |
8 | 7 | 14 | ナリタハヤブサ | JRA | 牡7 | 55 | 横山 典弘 | 1/2 | 2 |
9 | 1 | 2 | ヘイセイシルバー | JRA | 牡6 | 56 | 安藤 賢一 | 1 | 13 |
10 | 1 | 1 | トミシノポルンガ | 笠松 | 牡5 | 56 | 井上 孝彦 | 1/2 | 6 |
11 | 4 | 7 | サンアカツキ | 大井 | 牡5 | 56 | 早田 秀治 | 1 1/2 | 16 |
12 | 2 | 3 | マンジュデンカブト | JRA | 牡8 | 55 | 山田 和広 | 1 | 12 |
13 | 5 | 9 | ピナクルボーイ | 大井 | 牡6 | 56 | 堀 千亜樹 | ハナ | 15 |
14 | 3 | 5 | タケデンマンゲツ | 宇都宮 | 牡8 | 55 | 平澤 則雄 | 2 1/2 | 10 |
15 | 6 | 11 | カシワズプリンセス | 川崎 | 牝5 | 54 | 山崎 尋美 | 1/2 | 14 |
8 | 15 | トキノクンショウ | 大井 | 牡5 | 56 | 鈴木 啓之 | 中止 | 9 | |
払戻金 単勝800円 複勝290円・360円・240円 枠連複3,650円 |
《編集部より》
2009年より3年間にわたり、90年代の懐かしの名勝負を映像とともに紹介してきた、『REWIND 90’s ~90年代の名勝負から~』。5年目を迎えた今回からは、タイトルを『REWIND 90’s ~90年代の名馬・名勝負~』にマイナーチェンジ。
地方競馬を盛り上げた名馬にスポットを当て、その馬の代表的なレースや転機となったレースを中心に、現場記者が思い出とともに振り返ります。