メモリアルづくしの一日だった。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)トライアルラウンド名古屋が行われた10月14日、第3レースで宮下瞳騎手が女性騎手初の地方通算900勝を決め、YJS直後の第12レースでは岡部誠騎手が名古屋所属として初の地方通算4000勝を達成。一つ一つの勝利を積み重ねていった先に大きな記録が待っていることを先輩たちは体現した。
若手騎手たちもそんな未来を思い描きながら、日々の騎乗に没頭していることだろう。ところが、この日の騎手たちはみな控えめな様子。トライアルラウンド名古屋には地方から8名(うち4名は1競走のみの騎乗)、JRAから4名が参戦し、團野大成騎手(JRA)と泉谷楓真騎手(JRA)以外はこれが最後のトライアルラウンドの予定だが、石堂響騎手(兵庫)は「ファイナルに行きたいですけど、自信がないです……」と呟き、森裕太朗騎手(JRA)も「いま何ポイントですか?自信はないですけど、2戦とも逃げて勝ちます」と話した。
例年のトライアルラウンド終盤戦のように闘志を全面に溢れさせる騎手はいないものの、それはいい意味で冷静にレースを分析、騎乗できているということなのかもしれない。
第1戦は出走10頭中9頭が単勝20倍以下という非常に割れたオッズ。好スタートから楽に先手を奪ったのは石堂騎手。2~3番手の馬は競りかけてこず、すぐに隊列は決まったが、前5頭が後ろをやや離す形で、馬群は2つに分かれた。
4コーナーで森騎手、川又賢治騎手(JRA)、多田羅誠也騎手(高知)が外から並びかけ、さらに後退する逃げ馬と内ラチの間を突いて兼子千央騎手(金沢)が伸びてきた。そこから一歩ずつ確実に伸びて多田羅騎手が頭一つ抜け出したところ、一瞬にして大外から差し切ったのは単勝最低人気の金山昇馬騎手(佐賀)。これにはゴール付近にいたカメラマンたちからも「えっ……」と驚嘆の声がもれるほど。「人気がないと燃えるんです」と金山騎手はガッツポーズを見せた。
1馬身差で2着の多田羅騎手は「勝ったと思ったところを交わされました」と笑顔ながらも、やはり悔しそうな表情。さらにクビ差で3着の兼子騎手は「手応えが良かったのでもう少し早めに動きたかったのですが、判断を迷って内に行ってしまって……あんまり納得していません」とのこと。4着に浅野皓大騎手(愛知)、5着は森騎手だった。
第2戦は単勝10倍以下は4頭で、第1戦に比べると力関係がややハッキリした構図。團野騎手が2.2倍の1番人気で、長谷部駿弥騎手(兵庫)、川又騎手、塚本雄大騎手(高知)と続いた。
スタートから押して先手を主張したのは團野騎手。内で長谷部騎手も抵抗したが、1周目ゴール板手前で行ききり、3コーナー過ぎから後続とのリードを広げにかかると、中団から塚本騎手と川又騎手の必死の追い上げを凌いで1着でゴール。「やっと勝てた!という感じです」と笑顔がはじけた團野騎手は2年目でYJS初勝利を挙げた。
3/4馬身差2着は地方通算100勝に王手をかけていた塚本騎手、1馬身差3着に川又騎手、4着細川智史騎手(愛知)、5着森騎手だった。
レースを終えて、みな気になるのはポイントと順位。第1戦のみの騎乗だった石堂騎手は後検量を終えるなりポイント計算に専念。その時点ではギリギリ地方西日本4位に踏みとどまっていたが、第2戦を終えて5位に陥落。すでに減量を卒業しているため、これが最後のYJSで、肩を落として帰路に着いた。現時点で6位の多田羅騎手も通算95勝のため、おそらく最後のYJSと思われるが、こちらは対照的に笑顔で「別の機会でJRAに行けるようにがんばります」と誓った。
4位で当落線上にいる細川騎手は「ファイナルに行きたいです」と、来月4日のYJSトライアルラウンド笠松の結果待ち。対照的に1位塚本騎手は4回目のYJSで「念願のファイナル進出が近づいてきました」と喜び、2位金山騎手も「先輩の出水(拓人)さんに『一緒にファイナルに行きたい』と言ってもらっているので、このままファイナルに行きたいです」と笑顔を見せた。
西日本地区は来月4日のトライアルラウンド笠松がいよいよ最終戦だ。
Comment
第1戦1着 金山昇馬騎手(佐賀)
スタートは周りの馬と同じくらい出ましたが、前が速く、道中は脚を溜めました。ズブい馬と聞いていたので、残り600メートル付近から追い出して、いい反応でした。馬を信じていたら直線でもう一段階伸びて、これなら勝てると感じました。ファイナル進出が見えてきて、嬉しいです。
第2戦1着 團野大成騎手(JRA)
内にも1頭いて、ハナを取りきるまでは大変で、押していったぶんハミを取りましたが、道中は折り合いもついて大丈夫だろうと感じていました。YJSでようやく勝てて嬉しいです。まだ笠松が残っているので、気を抜かずにいい形でファイナルへ向かいたいです。