例年にも増して豪華メンバーが揃った兵庫サマークイーン賞。しかし、レースは予想外の波乱の展開となった。
この日は第9レースのパドックの頃から雨が降り始め、馬場状態は稍重に変更。無観客競馬で歓声がないからだろうか、レース発走直前には蛙の鳴き声がスタンドに響いた。
単勝1.5倍の断然人気を集めたのはクレイジーアクセル(大井)。昨年のグランダム・ジャパン(GDJ)古馬シーズン覇者で、12月にはクイーン賞JpnⅢを制覇。ここは実績が抜けていると見られていた。2番人気は前走、園田に遠征して強豪牡馬相手に重賞・六甲盃を制したアッキー(川崎)で4.0倍、昨年GDJ古馬シーズン2位のジェッシージェニー(大井)が3番人気7.3倍と、単勝10倍以下は遠征馬3頭が占めた。
注目はハナ争い。クレイジーアクセルは休み明けの前走で3番手に控えるレースをしたとはいえ、クイーン賞JpnⅢを逃げて制しており、アッキーも六甲盃はスローペースに落としての逃げ切り勝ち。地元馬では最も人気を集めた単勝14.5倍のエイシンセラードも前走は逃げており、ハナに行きたい馬が複数いた。
ところがスタートの瞬間、クレイジーアクセルが大きく出遅れた。「両脚がガクンと躓いてしまいました」(吉原寛人騎手)とのことで、代わって好スタートからハナを奪ったのはエイシンセラード。その外にヴィクトアリー、アッキーと続き、4番手内にガレットショコラがつけた。クレイジーアクセルは馬群から約5馬身離れた最後方で、ややゆったりしたペースで進んだ。
残り600メートル手前からエイシンセラードがペースアップすると、そのまま後続とのリードを保って3馬身差で重賞初制覇。2、3着争いはデビュー4年目同士の鞍上が追い比べの末、2着ヴィクトアリー(渡邊竜也騎手)、クビ差で3着ガレットショコラ(長谷部駿弥騎手)だった。さらに4着はアッキーで逃げ・先行馬が上位を占める中、クレイジーアクセルは大外から脚を伸ばして5着だった。
ヴィクトアリーの渡邊騎手は「前めで運ぶのがこの馬には一番いいと思っていて、理想通りの競馬ができました。ただ、勝ち馬が楽をした分、勝負所で追いつけなかったのと、馬体重が一気に増えすぎたのも影響したかもしれません。プラス体重自体はよかったのですが」と分析。ガレットショコラは1400メートルで10連勝した馬で、1700メートルは初経験だったが「道中はこの馬のペースで行けましたし、距離をこなせたので今後の選択肢が増えました」と長谷部騎手。それぞれに今後への道筋が見えた。
エイシンセラードを勝利に導いた田中学騎手は検量室前に引き揚げてくると、担当厩務員と笑顔で言葉を交わした。さらに、この日は管理する橋本忠明調教師の誕生日。田中騎手が「いいプレゼントができたかなと思います」と笑うと、橋本調教師は「スタッフも一生懸命やってくれていますし、田中騎手も上手く乗ってくれました」と答えた。
今回が兵庫移籍2戦目。JRA時代にはダート1800メートルで4勝を挙げ、ダートグレードにも挑戦したエイシンセラード。移籍初戦で1400メートルを使ったのは「距離よりも馬の状態に合わせた結果」(橋本調教師)とのことで、今後はGDJの一戦・読売レディス杯(金沢)が有力だ。
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田中学 騎手
レース前は2番手になるかなと思っていましたが、ゲートを出て展開が変わったので思い切ってハナに行きました。予想より落ち着いたペースになり、4コーナーまで抜群の手応えで、直線もしっかり伸びてくれました。いま、園田に強い牝馬がいないので、地元を代表して遠征にいけたら嬉しいです。
橋本忠明 調教師
クレイジーアクセルを見ながら進めてほしいと伝えていましたが、スタートが決まって逃げて、いい展開になったなと思いました。前走は休み明けで、最後に脚が止まってしまい、それを踏まえてこの中間は攻め馬を強化したので、このペースなら最後はもうひと伸びがあると信じて見ていました。