レース前、南関東の陣営から「例年よりJRA勢のレベルが格段に高くないか?」という、ため息にも似た声が聞かれた。南関東牝馬二冠を制したトーセンガーネット、エーデルワイス賞JpnⅢ勝ちがあるアークヴィグラスと、ダートグレードでも好勝負を演じられるような実力馬が駒を進めてきただけに、地方勢の勝利に期待が高まっていたが、JRAからもリステッド勝ちのマドラスチェック、オープン3着のラインカリーナといった強豪が襲来。それだけレースレベルが上がっている証拠でもあるのだが、結果として、今年もJRA勢のレベルの高さと層の厚さを見せつけられた。
ダッシュ力のある馬がそろったこともあり、2100メートル戦のわりには激しい先行争いが演じられた。なかでも大外枠から敢然と逃げを主張したのはデビュー3年目、21歳の武藤雅騎手が手綱をとる、4番人気のラインカリーナ。1周目の4コーナーで3馬身ほどリードし、馬群を先導する。スタンド前でペースを落として他馬を引きつけると、向正面で再度引き離しにかかる。勝負どころから1番人気のマドラスチェックが追い上げてきたが、後半3ハロンのラップをすべて13秒0でまとめ、これを振り切った。
この日の川崎競馬場が前残り傾向だったことも味方したとも思うが、振り返ってみれば前走の伏竜ステークスを勝ったデアフルーグ、同2着のマスターフェンサーは、この世代のダートトップクラス。それらに次ぐ3着なのだから、牝馬同士では力が上だったということだろう。ギアの切り替えがスムーズだったことからも小回りコースの適性は高そうで、今後も地方の舞台で活躍が見込めそうだ。
鞍上の武藤騎手はこれが重賞初制覇。キャリアこそ浅いが、南関東では条件交流戦で頻繁に騎乗しており、メリハリのきいた今回の騎乗ぶりからも、小回りでの仕掛けや立ち回りを手の内に入れている印象だ。パートナーのラインカリーナを管理するのは父の武藤善則調教師だけに、「いままで多く乗せてもらってきたし、少し恩返しができたかなと思います」と、喜びもひとしおのようだった。
マドラスチェックも息の長い末脚を使って追い上げたが、最後に突き放されて2着。前半で本来の行きっぷりが見られず、大野拓弥騎手も「初めての環境が響いたのか、気をつかって走っていたし、前半で勝ち馬を楽に行かせすぎてしまった」と唇をかんだ。2、3歳戦では初物づくしで力を発揮できないことが往々にしてあるが、それでも2着にまとめたのは地力の高さの証明。経験を積んでいけば、ダート牝馬路線の中心的存在となりそうだ。
2006年のチャームアスリープ以来、史上2頭目の南関東牝馬三冠に挑んだトーセンガーネットは、2番人気に推されたものの3着まで。2周目の3~4コーナーでラインカリーナとマドラスチェックに食らいついていく場面もあったが、最後は大きく突き放された。「前残りの馬場もあって、先行馬が止まらなかった。でも、現時点での力は出し切ったのではないかな。まだ良くなる余地はあると思うし、距離も大丈夫」と左海誠二騎手。父アグネスデジタル、母の父クロフネという血統からも、さらなる成長が望めそう。今後の巻き返しを期待したい。
なおグランダム・ジャパン3歳シーズンは、最終戦の地方馬だけの順位によるエクストラポイントの加算もありトーセンガーネットが優勝。今回5着で地方馬内2位のアークヴィグラスが2位、シリーズ2勝を挙げていた名古屋のゴールドリングは3位となった。
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武藤雅 騎手
隊列が微妙な形になったので、思い切って行くしかないと思いました。マドラスチェックがきたのが分かったので、徐々にペースを上げながら、最後は馬が踏ん張ってくれるのを願っていました。父にはデビューからたくさん乗せてもらってきたので、やっと恩返しができたかなと思います。
武藤善則 調教師
雅にとって初重賞ですし、感無量です。現状では最高の状態だと思っていたし、これまで強い相手と戦って善戦してきたので、牝馬同士だったらチャンスかなと思っていました。デビューから馬体が25キロも増えて、理想通りのたくましさが出てきましたね。今後も交流重賞を使っていけたらと思います。