昨年もこのレースの取材を担当したが、冒頭に“蝦夷梅雨”のことを書いた。今年は6月まで雨が少なかったが、この1週間の日高地方は雨に祟られた。能力検査が行われた月曜が不良馬場。その後、降ったり止んだりの気候で、重と不良を繰り返す状況だった。このレースは不思議と、雨に見舞われることが多い。
昨年は不良馬場で、メイショウアイアンが58秒6のレコード勝ちを収めた。火曜からレースを観ていると、開催を通して通常より2秒は時計が速く、コースレコードが更新される可能性は十分考えられる馬場だった。高速決着を想定すると、若い世代や斤量の軽い馬を狙いたくなる。しかし、重賞に格上げされた過去5年、勝ち馬は6歳以上の馬しかいない。3歳馬の挑戦は、2018年ダモンデ(7着)の1頭のみ。特別だった時に、パフォーマンス(2011年)が3歳馬で勝利を収めているので、サンプルが増えれば斤量の恩恵を考えた時に、3歳馬が優位に立つ可能性は高くなる。
アザワクは、昨年のエーデルワイス賞JpnⅢで2着に健闘。当然、今季の活躍も期待された。しかし、今季初戦でまさかの5着敗退。当時は、北海道スプリントカップJpnⅢの参戦も検討されていたが、「あの敗戦で、ローテーションを考え直さざるを得ませんでした」と角川秀樹調教師。坂路で好時計は連発するものの、思うように馬体重が回復しなかったことも、個人的にはパフォーマンスを落としている要因に感じた。
1カ月半の間隔を取った今回は、馬体重が8キロ増え、ようやく460キロ以上の馬体に戻った。
「このレースに照準を合わせ、確実に上昇カーブを描いていたので、強いアザワクを見せられる自信はありました」(角川調教師)と話す通り、抜群のダッシュ力を見せ、スンナリと先手を奪った。11秒8-11秒2=23秒0は、2017年と並ぶ最速ラップだが、アザワクは勝負どころの3ハロン目でも11秒2を刻み、ペースを緩めなかった。
「馬場を意識し、後続を引き離そうと考えたので、敢えてペースは落としませんでした」と、小野楓馬騎手は振り返る。斤量が軽い時は、積極的なレースが功を奏すことが多い。昨年のリリーカップでは、プリモジョーカーで自身の重賞初制覇を飾ったのも逃げ切り勝ちだった。小野騎手の積極性は、見る者を魅了する。最後の2ハロンも全く脚が上がらず、11秒8-12秒4でフィニッシュ。昨年のメイショウアイアンの勝ち時計を0秒2上回る、58秒4のレコード勝ちとなった。
「船橋(習志野きらっとスプリント)はゼロではありませんが、ここを目標にしていたこともあり、オーナーと相談して決めることではありますが、ローテーション的にはクラスターカップが良いかなと思っています。レースで外に張る面を見せる時があるので、左回りはかえって適性はあると感じています」と角川調教師。いずれにせよ、次走は全国レベルの快速自慢に立ち向かう可能性が高い。
思った以上の高速決着となった中、10歳馬のメイショウアイアンが2着に追い込んできたことは高く評価したい。さらに、JRAオープンから移籍し、これまで良い所がなかったオールドベイリーが、距離短縮で巻き返した。過去5年、シーズン序盤にJRAからホッカイドウ競馬へ移籍してきた馬が3着以内に絡むケースを続けていた。今年は、ニットウスバルとオールドベイリーが該当していたが、この記録は継続された。
Comment
小野楓馬 騎手
他馬よりスピードが違うと信じて、ハナへ行くことを決めていました。コーナーのラップを落とさず、後続を離すことができたのも良かったと思います。馬場や斤量など、アザワクの力を最大限に発揮できる条件が揃った中で、レコード勝ちを収めることができ、とても嬉しいです。
角川秀樹 調教師
このレースに向けて調整し、状態は上がっていましたが、ようやく本来の強さを見せることができました。この後はオーナーと相談して決めますが、間隔を開けた方が良いタイプなので、地方の馬場でも時計勝負に持ち込めるクラスターカップを視野に入れようと思っています。