2020年8月7日(金)
年々層が厚くなる超短距離戦線
ノブワイルドがファイナル連覇
昨年、金沢で日本海スプリントが新設されトライアルラウンドが6レースとなったが、そのうち7月に行われたグランシャリオ門別スプリント、日本海スプリントからはファイナルの習志野きらっとスプリントまで、それぞれ中1週、連闘という厳しい日程だったこともあり、南関東以外のトライアルラウンドからの出走馬はわずか1頭(遠征馬はほかに2頭)にとどまった。
それが今年は習志野きらっとスプリントが従来どおりの7月4週目に戻り、グランシャリオ門別スプリント、日本海スプリントとの間隔も1週ずつ余裕ができた。それゆえか、今年ファイナルに出走した遠征馬4頭のうち3頭がトライアルを使われての参戦だった。特にエイシンテキサス、ミラクルダマスクの2頭は、所属を変えることでトライアルを2戦してファイナルに臨んできた。実施概要にある『超短距離戦で能力を発揮する異彩の発掘』という、このシリーズの役割が生かされたと言える。
習志野きらっとスプリントの実施日については、南関東4場間での開催日程の調整にもよるので、船橋競馬場の都合だけでは決まらない難しさもある。また、たまたま7月の後半になったとしても、今度は暑さというリスクが生じる。今年はたまたま異常なほど梅雨明けが遅れたことは馬にとっては幸いだった。グランシャリオ門別スプリントを勝ったアザワクの遠征が実現したのは、それもあったかもしれない。この時期、特にホッカイドウ競馬からの南関東遠征には、異常なほどの蒸し暑さというリスクは大きい。
習志野きらっとスプリントがファイナルとしての役割を果たすには、日程面で早いにしても遅いにしても悩ましい面がある。
早池峰スーパースプリント(盛岡)
ダッシュよく逃げたのはミラクルダマスクだったが、これを追走したコンサートドーレが残り100メートルでとらえ1馬身1/4差をつけた。勝ちタイムの58秒2は、昨年を0秒2上回るコースレコード。9歳になったラブバレットは差を詰められず3着だった。
1、2着馬は、ともに大井から転入2戦目。コンサートドーレは大井時代も1200メートルを中心に使われ、転入初戦の水沢850メートルのスプリント特別を勝っての出走。ミラクルダマスクも昨年大井在籍時は川崎900メートルや大井1000メートルを使われており、やはり水沢850メートルのB1戦を使われての出走。勝ち負けの明暗は別れたとはいえ、狙った超短距離の舞台で結果を出した。
川崎スパーキングスプリント(川崎)
別定重量差が大きいわりに例年人気馬が好走していたが、今年は軽量馬が活躍。馬券圏内は6番人気以下という波乱の決着となった。
逃げたのは減量の中越琉世騎手で50キロのダンディーヴォーグだったが、ぴたりと2番手につけたポッドギルが残り100メートルあたりで先頭に立つと、そのまま後続を寄せ付けなかった。昨年3歳時、ユングフラウ賞を制して牝馬クラシックで期待されたものの、その後勝ち星はなく、特に1400メートル以上ではいずれも掲示板外。今年初戦の900メートル戦でクビ差2着の好走から、超短距離で結果を出した。
佐賀がばいダッシュ(佐賀)
大井から転入後、ここまで9連勝で単勝元返しの断然人気に支持されたドラゴンゲートがほとんど追われることなく圧勝。2着のエリザベスセーラに5馬身差、昨年の勝ちタイムを0秒3更新するコースレコードは、さすがに元中央オープンの力の違いを見せた。超短距離で能力を発揮したというより、南関東のオープンではやや力不足だったところ、あらたな活躍の場を見つけた。
園田FCスプリント(園田)
園田競馬場は現在の地方競馬でもっとも小さい1周1051メートル、しかもこのシリーズでも最短の820メートルで争われるだけに、毎年激しいレースが展開される。
好ダッシュを見せた1番人気のエイシンエンジョイがハナを奪うと、直線では後続を突き放して圧勝……かに思えた。しかしスタート後のダッシュがつかず、4コーナーでもまだ最後方に近い位置にいたダノングッドが見せ場をつくった。直線大外一気、というより、園田の短い直線を一瞬にして飛んできた、と言ったほうがよさそう。内外離れてのゴールは、惜しくもクビ差届かず。勝ったエイシンエンジョイの下原理騎手もヒヤッとしたのではないだろうか。今年も見応えのある激しいレースだった。
グランシャリオ門別スプリント(門別)
昨年のこのレースの勝ち馬で、今年10歳にして北海道スプリントカップJpnⅢを制したメイショウアイアンが注目となったが、勝ったのは3歳牝馬アザワク。スタートしてすぐに後続を離して先頭に立つと、そのまま後続を寄せ付けず。直線伸びてきたメイショウアイアンに2馬身差をつけて逃げ切った。勝ちタイムの58秒4は、昨年のメイショウアイアンを0秒2を上回るコースレコードだった。
アザワクは2歳時にエーデルワイス賞JpnⅢで2着に好走したが、その後は勝ち星がなく、これが昨年9月以来10カ月ぶりの勝利。そして門別1000メートルは、これで4戦4勝。得意のコースで初タイトルとなった。
日本海スプリント(金沢)
今年のこのシリーズの初戦、盛岡の早池峰スーパースプリントが例年より1週繰り上がり、トライアル最終戦のここまで約1カ月半。十分な間隔はあるが、ファイナル以外は地区限定戦のため遠征での出走はできない。それゆえミラクルダマスク、エイシンテキサスは移籍という形をとって、早池峰スーパースプリントから2戦目のトライアル参戦となった。結果はそれぞれ3、7着と残念だったが、エイシンテキサスは、一昨年佐賀所属で園田FCスプリントを制し(同着)、昨年は名古屋所属でこの日本海スプリントを制した。さらに昨年秋には盛岡芝1000メートルのOROターフスプリントも勝利。同馬の重賞タイトルは、この3つ(佐賀の旧S2重賞は除く)。さすがに10歳になった今年は昨年までの勢いがないが、エイシンテキサスにとって本シリーズは、まさしく能力を発揮する舞台となった。
勝ったのは、好ダッシュからハナをとった地元金沢のフェリシアルチア。ぴたりと追走してきた笠松のチェゴをクビ差で振り切った。中央時代も含めて勝ち星は1400メートル以下のみ。トライアルの900メートル戦から連勝で、この舞台を狙って獲った重賞初挑戦での勝利となった。
ファイナル習志野きらっとスプリント(船橋)
このレース、昨年までは南関東格付けSⅡだったのが、今年はSⅠに格上げされた。昨年は基礎重量で3歳53キロ、4歳以上56キロで、実績馬にはさらに賞金別定の増量があったのが、今年は3歳54キロ、4歳以上56キロの定量(牝馬は2キロ減)。超短距離戦でこの変更の影響は大きい。昨年57キロで勝ったノブワイルド、58キロで2着だったアピアは、今年はともに定量56キロでの出走。当然、これまでと比べて実績馬には有利になった。
ノブワイルドと北海道から遠征の3歳牝馬アザワクが3番手以下を離して互いに譲らずの逃げ争いから、直線でノブワイルドが振り切って連覇。短距離でも末脚勝負のキャンドルグラスが追い詰めたが半馬身届かなかった。3着は重賞初挑戦のフランシスコダイゴで、グランシャリオ門別スプリントを勝っての遠征となったアザワクは4着、川崎スパーキングスプリントを制したポッドギルは5着だった。
ノブワイルドはオーバルスプリントJpnⅢ連覇、キャンドルグラスは前走東京スプリントJpnⅢが3着。1、2着は、やはり実績どおり、人気どおりの決着だった。
サウスヴィグラス産駒が3勝
今年まず印象的だったのは、レコード決着が多かったこと。全7戦のうち、早池峰スーパースプリント、佐賀がばいダッシュ、グランシャリオ門別スプリント、日本海スプリントと、じつに半数以上の4戦がコースレコード更新となった。理由はいくつか考えられる。
まず、佐賀がばいダッシュは今年が第2回、日本海スプリントは第3回で、この超短距離では上級クラスのレースがあまり行われてこなかったことがある。
さらにグランシャリオ門別スプリント、日本海スプリントは、水が浮く時計の出やすい馬場だった。
昨年のJBCスプリントJpnⅠを浦和のブルドッグボスが制したのをはじめ、近年のダートグレードでは短距離路線で地方馬の活躍が目立っているように、高いレベルでの争いとなっていることもあるだろう。
また冒頭でも触れたとおり、超短距離戦にこだわって出走する馬が増え、この路線の層が厚くなったことなどが考えられる。
そして高齢馬の活躍も目立った。佐賀がばいダッシュのドラゴンゲート、習志野きらっとスプリントのノブワイルド、園田FCスプリント2着のダノングッドが8歳で、前述のとおりグランシャリオ門別スプリント2着のメイショウアイアンは10歳だった。
昨年は勝ち馬7頭中6頭がJRAデビュー馬だったが、今年はドラゴンゲート、フェリシアルチア、ノブワイルドの3頭にとどまった。代わって台頭したのが門別デビュー馬で、コンサートドーレ、エイシンエンジョイ、アザワクの3頭。あと1頭、ポッドギルは大井の生え抜きだった。
血統面では、昨年1頭のみだったサウスヴィグラス産駒の勝利が、今年は3頭(コンサートドーレ、エイシンエンジョイ、フェリシアルチア)と、やはりダート短距離ならという強さを見せた。サウスヴィグラス産駒は今年の2歳馬が最後の世代となるだけに、あと何年かはこの路線での活躍が見られるだろう。
ポッドギルが勝った川崎スパーキングスプリントは重賞ではないが、フリオーソ産駒が超短距離戦で能力を発揮したということでは、種牡馬として活躍の幅が広がったといえそうだ。