2019年のダービーシリーズは過半数の5戦を終えて、1番人気の勝利は九州ダービー栄城賞のスーパージンガただ1頭。ダービーは実力だけでなく、枠順や展開、馬場などあらゆる条件が揃わないとその称号は手にできない非常にハイレベルな戦いであることを改めて感じさせられる。
東海ダービーで単勝1.5倍の1番人気に支持されたのはデビューから無敗で10連勝中のエムエスクイーン。東海ダービーを2度制覇したことがある今井貴大騎手は「いつもの重賞とひと味違って、昨日からちょっとソワソワしていました」と話す。
3.2倍で2番人気・ゴールドリングの友森翔太郎騎手は「今井騎手とは『勝ったらご飯に行こう』っていう話はしているんですが、レース展開についてはお互い一切触れようとしません」と。
人気の2頭はともに逃げ切って重賞制覇を果たしているだけに、どちらがハナを取り切るかにも注目が集まった。出走12頭中、両馬を含む7頭が牝馬だったが、3番人気は牡馬のアンタエウスで8.4倍。単勝10倍以下はこの3頭のみだった。
ゲートが開くと出ムチを数発入れたのは最内枠のエムエスクイーン。3番枠のゴールドリングも好スタートから互角についていくが、「枠の差で行けました」(今井騎手)と前者が先手を奪った。2頭の後ろの内にフォアフロント、中団に4連勝中の上り馬・マコトネネキリマルが続いた。
2周目向正面に入ると早々に今井騎手が何度か振り返って後続を確認。ゴールドリングは「向正面ではもう全然ダメで……」(友森騎手)と、前走後のひと頓挫が影響したのか後退していった。
それを尻目に、エムエスクイーンは後続を引き離す一方。直線入口で再び今井騎手が後続を確認した時には約10馬身のリードがあった。結果的に2着マコトネネキリマルが「いきなりクラスが上がりましたが、最後までしっかり脚を使ってくれました」(岡部誠騎手)と8馬身まで差を縮めたものの、1986年ミナミマドンナ以来となる無敗のダービー馬が誕生した。3着フォアフロントはさらに9馬身後方。重馬場でタイムが出やすかったとはいえ、自身でペースを作り、過去10年で最速となる2分3秒2をマークした。
「いや~、ホッとしたよ」と何度も安堵の表情を浮かべたのは竹下直人調教師。「一時期は調子を崩していたけど、立ち直ってくれました。あの時、思い切って休んだのが良かったですね」と、1月29日の梅桜賞から前走・駿蹄賞まで約3カ月あけたことを勝因のひとつに挙げた。今井騎手が「自厩舎で勝てたのが一番嬉しいですし、デビューからお世話になっているオーナーの馬で勝てて本当に良かったです」と喜ぶと、竹下調教師も「それが嬉しいね。こういうことはなかなかないと思うから」と笑った。また、森哲オーナーは「11連勝でダービー制覇っていうのがまた特別ですね」と目尻を下げた。
奇しくも同日第7レースに行われた今年最初の名古屋競馬の新馬戦では馬主、調教師、騎手、種牡馬まで同じエムエスオープンが勝利。「今日は最高の1日になりました」と今井騎手は締めくくった。
Comment
今井貴大 騎手
前走より馬の状態がグンと良くなっていて、自信を持って挑めました。いい枠が当たったので、ハナに行き切る競馬をしようと思いました。道中は後ろからビッチリとマークされていたので、気を抜かず進めました。この馬とダービーを目標にやってきて、これからも連勝できるよう強い馬にしていきたいです。
竹下直人 調教師
本当にホッとしました。この馬のいいところは装鞍所でも落ち着いている点です。乗り運動をしていても乗り味が他の馬とは違いますし、小柄ですがトモの力が強いんじゃないですかね。この後は厩舎で少し休ませようと思います。遠征は馬の状態と相談しながらですね。