2019年6月28日(金)
デビュー地のダービー制覇が5頭
三冠への期待をつなぐ活躍馬も
“ダービーウイーク”から“ダービーシリーズ”になって3年目。昨年からの実施時期の変更では、石川ダービー、東海ダービーがそれぞれ1週ずつ繰り下げられた。地方全国交流として行われたのは昨年と同じ高知優駿と北海優駿。結果については後で触れるが、ダービーシリーズ後半に行われる高知優駿には兵庫、佐賀からそれぞれ2頭ずつの遠征があった。
また今年は3歳秋のチャンピオンシップ対象レースの実施時期が全国的に繰り上げられた。“ダービー”から日程が近くなったことで、新興勢力の台頭があるのかどうかは気になるところだ。
三冠の可能性を残す馬が4頭
九州ダービー栄城賞(佐賀)
佐賀転入後8戦7勝、2着1回という成績のスーパージンガが3コーナー過ぎで先頭に立つと、ほとんど追われることのないまま5馬身差の圧勝。近年、佐賀の2、3歳戦は北海道などからの移籍馬が強いという傾向があり、一昨年のスーパーマックスこそ佐賀デビュー馬だったが、昨年のスーパージェットに続いて門別デビュー馬が九州ダービーを制した。
石川ダービー(金沢)
大井から転入後3連勝で北日本新聞杯を制したスターキャデラックが断然人気となったが、勝ったのは北日本新聞杯3着で今回3番人気だったロンギングルック。しかも2着スターキャデラックに2秒の大差をつけたということでは驚かされた。石川ダービーは今年で3回目だが、金田一昌調教師が3連覇。一昨年のヴィーナスアローが2番人気、昨年のアルファーティハが3番人気、そして今年も3番人気と、ここ一番の大レースに賭ける勝負強さはすばらしい。
東京ダービー(大井)
二冠を狙ったミューチャリーが中団追走から伸びてはきたものの、羽田盃のようなキレは見られず2着まで。逃げ馬がバテたことで2番手から3コーナーで先頭に立ったヒカリオーソが直線では後続を寄せ付けず押し切った。京浜盃は鼻出血のため14着惨敗、そこから短期間でよく立て直したものと思う。川崎所属馬の東京ダービー制覇は2009年のサイレントスタメンからちょうど10年ぶり。岩本洋調教師、山崎誠士騎手は、ともに東京ダービー初勝利だった。
兵庫ダービー(園田)
圧倒的な強さで一冠目の菊水賞を制したジンギは向正面で手応え一杯で4着。兵庫チャンピオンシップJpnⅡで地方最先着の3着ながら、それがフロック視されたのかどうか、3番人気だったバンローズキングスが、菊水賞2着のテンマダイウェーヴを直線で振り切って快勝。今年も目下全国リーディングの吉村智洋騎手の勢いを感じさせる勝利でもあった。
東北優駿(水沢)
3番人気のパンプキンズが逃げ切り、断然人気のグレートアラカーは3コーナーあたりで半馬身ほどの差に迫ったが、直線で振り切られ2馬身差。シーズンをまたいで6連勝中で2番人気となったエムワンピーコはさらに6馬身離れての3着。人気を集めた3頭での決着だが、着差は開いてという結果。グレートアラカーが圧勝した前哨戦のやまびこ賞が1900メートルではあったが、多くの馬にとって初めての2000メートルという距離に対応できたかどうかが結果に反映されたように思う。
東海ダービー(名古屋)
エムエスクイーンが圧倒的な強さでデビューからの連勝を11に伸ばした。昨年の東海ダービーでは、やはりデビューから10連勝で駿蹄賞まで制していたサムライドライブが東海ダービーで初めての敗戦(2着)を喫していたが、今回のエムエスクイーンは盤石のレース内容。重賞2連勝中で2番人気のゴールドリングがぴたりと直後を追走して勝負を挑んだものの向正面で失速しブービー11着。かなり離れた中団を追走していたマコトネネキリマルが2着も8馬身差ということでは、エムエスクイーンの強さだけが際立った。
高知優駿(高知)
注目となったのは、九州ダービー栄城賞を制した佐賀のスーパージンガの参戦。昨年のスーパージェットに続いて佐賀、高知のダービー連勝が期待された。しかし初めての遠征の影響か向正面から行きっぷりが悪く5着。勝ったのは、佐賀に遠征したル・プランタン賞でスーパージンガに4馬身差をつけられて2着に敗れていたナンヨーオボロヅキ。距離不安が言われていたが、ここ一番での勝負強さは、さすがに毎年全国リーディングを争っている雑賀正光調教師。一昨年、昨年は全国リーディングを逃していたが、今年は6月24日現在、2位(愛知・角田輝也調教師)に13勝差をつけてトップを走っている。そして鞍上は大井の御神本訓史騎手だった。
北海優駿(門別)
北斗盃を制していたリンゾウチャネルが直線で後続を突き放して圧勝。2歳時のタイトルは盛岡芝のジュニアグランプリだけだったが、3歳になってからは無傷の4連勝。8月1日の王冠賞で北海道三冠を狙うことになる。
“ダービー”の位置づけは、競馬場ごとに一冠目だったり二冠目だったり三冠目だったりさまざま。三冠に王手をかけたのは佐賀のスーパージンガ、名古屋のエムエスクイーン、北海道のリンゾウチャネル。それに東北優駿が一冠目だったパンプキンズも三冠の可能性を残している。
牝馬が4勝、地方ゆかりの血統も活躍
今回、勝ち馬はすべて3番人気以内で、石川ダービー、東京ダービー、東北優駿は1~3番人気馬で3着までを独占、高知優駿、北海優駿も4番人気までが3着以内を占めるなど上位人気馬での決着が目立った。一方で波乱となったのは兵庫ダービーで、1、2番人気馬が揃って馬券にからめず、3→7→9番人気という決着だった。
牝馬の活躍が目立ったのも今年の特徴で、全8レース中、半数の4レースで牝馬が勝ち、3着にも3頭が入った。
生産牧場では、九州ダービー栄城賞、石川ダービーと、いきなり浦河・バンブー牧場の生産馬が連勝。その後も、新冠、日高町、平取町、新ひだか町と、勝ち馬がすべて日高地方の生産牧場だったことは、いかにも地方競馬らしいといえようか。
勝ち馬の父で地方競馬と関係しているのは、スーパージンガの父バンブーエール、パンプキンズの父スターリングローズは、ともにJBCスプリントの勝ち馬。
そしてヒカリオーソの父フリオーソは、現役時にジャパンダートダービーJpnⅠを勝っていたものの東京ダービーは2着、ヒカリオーソは父の雪辱を果たしたことになる。また石川ダービー3着のニューホープ、高知優駿3着のリリコもフリオーソ産駒だった。フリオーソは初年度産駒のフリビオンが2年前の高知優駿を制しており、ヒカリオーソはダービーシリーズ2頭目の勝ち馬となった。ちなみにフリビオン、ヒカリオーソともに馬主は西森鶴氏。
さらにヒカリオーソは母系も地方競馬にゆかりの血統。祖母のマイムーンが、笠松所属ながらJRAの牝馬三冠すべてに出走したライデンリーダーの半妹。生産牧場もライデンリーダーと同じヒカル牧場(新冠町)だった。
今回の勝ち馬ではデビュー地の生え抜きが目立ち、ロンギングルック、ヒカリオーソ、パンプキンズ、エムエスクイーン、リンゾウチャネルの5頭。石川ダービーを勝ったロンギングルックは、金田一昌調教師が「生え抜きで勝てたことが特にうれしい」と話していたのが印象的だった。また北海優駿のリンゾウチャネルは冬期間も他地区へ移籍することなく、3歳シーズンになって無傷の4連勝はすばらしい。スーパージンガ、バンローズキングスは門別デビュー、ナンヨーオボロヅキはJRA未勝利からの転入だった。
8レース中6レースが売上を伸ばす
地方競馬全体の馬券の売上は2018年度も前年比109.2%(総売得額)で、2012年度にプラスに転じて以来7年連続で前年比アップと好調が続いている。2019年度も、発表されている4・5月分では、総売得で前年比114.2%、1日平均で115.8%と、引き続き好調だ。
そしてダービーシリーズ各レースの売上は以下のとおり。
施行日 | レース名 | 売得額(円) | 前年比 |
---|---|---|---|
5月26日(日) | 九州ダービー栄城賞 | 144,510,900 | 115.2% |
6月4日(火) | 石川ダービー | 106,487,300 | 94.1% |
6月5日(水) | 東京ダービー | 803,399,500 | 111.2% |
6月6日(木) | 兵庫ダービー | 154,466,800 | 125.0% |
6月9日(日) | 東北優駿(岩手ダービー) | 124,980,100 | 98.6% |
6月11日(火) | 東海ダービー | 139,699,700 | 111.2% |
6月16日(日) | 高知優駿 | 167,129,500 | 129.0% |
6月19日(水) | 北海優駿(ダービー) | 149,507,900 | 108.4% |
“ダービー”8レース計 | 1,790,181,700 | 111.6% |
冒頭でも触れたとおり、曜日の設定は前年と変わらず。石川ダービー、東海ダービーがそれぞれ1週ずつ繰り下げられたのみ。すべてのレースでJRAネット投票があった。
東京ダービーは前年比111.2%で約8億円と売上を伸ばした。ちなみに東京ダービーの売上レコードは1991年の10億9705万4100円で、当時はネット投票などもちろんなく、まだ広域発売も行われておらず、本場以外は南関東の競馬場と専用場外だけ。その状況でそれほど売上があったということにはあらためて驚かされる。余談になるが、地方競馬全体で年間の総売得額が最高の9862億円余りを記録したのが、まさにその1991年だった。
東京ダービー以外の“ダービー”がすべて1億円台だったのは昨年と同じ。石川ダービーで6%近く売上げを落としたのは、昨年は同日開催が浦和だけだったのに対して、今年は盛岡・大井・笠松と4場開催だったためと思われる。微減の東北優駿(昨年は岩手ダービーダイヤモンドカップ)は、昨年も今年も開催していたのは帯広・金沢・高知・佐賀で、地方競馬同士での競合は同じ。理由はわからないが、一部ネット投票で前年比68%というところがあったので、そのぶんが影響したかもしれない。
また東京ダービーは別格として、それ以外の“ダービー”でもっとも売上が大きかったのが高知優駿だったというのは、近年売上を伸ばし続けている高知の勢いを感じさせる。
各レースでのJRAネット投票の売上を見ると、東京ダービーの2億1千万円余りは別格として、日曜開催の九州ダービーが約6954万円、東北優駿が約6183万円、高知優駿が約7350万円であるのに対して、平日開催の石川ダービーが約2770万円、兵庫ダービーが約4522万円、東海ダービーが約3956万円、北海優駿が約3847万円と、やはり日曜開催か平日開催かで、JRAネット投票の売上はかなりの差がでる。
なお“ダービー”全8レースの合計では前年比で111.6%だった。