岩手ダービーは昨年までダイヤモンドカップがその役割を担っていたが、今年は“東北優駿”競走が復活し、そこに“岩手ダービー”のサブタイトルがついた。ダイヤモンドカップは8月へ、不来方賞も9月へと移動して、この3つが岩手競馬の3歳三冠レースを構成する。これらにプラス、ダービーグランプリが3歳の主要路線となった。
昨年度の岩手競馬は、禁止薬物陽性馬が複数出たことにより、14日間の競馬開催が取り止め。その間に予定されていた南部駒賞と金杯が実施できなかったため、2歳最優秀馬の選定が“該当馬なし”となる事態となった。それでも、ビギナーズカップを勝ったグレートアラカー、寒菊賞を勝ったパンプキンズが引き続き春からの3歳路線をリード。タイトルを分け合って岩手ダービー当日を迎えた。
名称は変わったが、岩手ダービーがダート2000メートルというレギュレーションは従来通り。スプリングカップ2着、やまびこ賞優勝というステップを経て1番人気となったのはグレートアラカー。1900メートルのやまびこ賞を7馬身差で圧勝しており、単勝1倍台となるのも当然と思えた。デビュー2戦目から6連勝中の牝馬エムワンピーコが2番人気。スプリングカップの勝ち馬パンプキンズが3番人気となり、この3頭で全体の9割近い支持を集めた。
迷いのない先行策に出たのはパンプキンズ。やまびこ賞ではグレートアラカーのマークを受けて、早めに並びかけられる苦しい展開となったが、「速いとは思っていたが……」と、菅原俊吏騎手はそれでもペースを緩めることなく、快調に飛ばす。2周目3コーナーではグレートアラカーが半馬身差にまで迫り、エムワンピーコもその後方へ続いていたが、パンプキンズにはまだ余力があった。4コーナーを回るあたりではむしろ後続を突き放し、陣営が目論んでいた“並ばれないかたち”のままゴールへ飛び込んだ。雨上がりで、稍重の馬場は時計の出やすい状態ではあったが、最後の600メートルはやまびこ賞の40秒2に対し、この日は38秒5秒で走りきる完璧な逃走劇であった。
パンプキンズは5勝目が岩手ダービーのタイトルとなったが、デビューからここまで1度も連勝がない。逃げ馬らしい大きな着順も挟んでいるが、そのあとにズルズルと崩れていくのではなく、敗戦を糧として巻き返してくる反発力を見せる。グレートアラカーとの対戦成績も今回で2勝3敗だが、2000メートルを克服したことは大きい。開催取り止めのレースもあったが、2歳時からのダート重賞をここまで完走しており、この中間も「距離を保たせたかったので、いつもより乗り込んだが、それを乗り越えた。馬も傷まない」(伊藤和忍調教師)という丈夫さは何よりも強調できるところだろう。
東北優駿といえば、1978年から2003年まで山形、新潟、岩手で持ち回り開催された三県交流のレースがすぐに思い出される。復活した東北優駿は岩手ダービーであり、その内容は異なるものであるが、回数は従来のものを引き継ぎ第27回とされた。正直違和感がなくもないが、改めて過去の勝ち馬を見れば、あるいは敗れた馬を見れば、かつて存在した上山競馬、新潟県競馬にも思いを馳せることができる。今年から再び回数を伸ばし始めたこのレースは、これからも東北の名馬の名を刻むこととなる。
Comment
菅原俊吏 騎手
前走はグレートアラカーに(早めに)並ばれたので、並ばれないかたちにしようと思っていました。乗っていてもペースは速いと思いましたが、調教師にも自分のレースをしろと言われていた。確実に力をつけているし、スピードは岩手のどの馬にも負けないので、先行にこだわっていきたい。
伊藤和忍 調教師
前走が完敗だったので、勝負どころから早めに行こうと指示していましたし、ジョッキーが上手かった。距離を保たせたかったので、中間はいつもより乗り込んだし、それを乗り越えた。逆転は正直難しいと思っていましたが、時計の速い馬場状態も良かったのでしょう。今後は遠征も視野に入れて検討します。