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連載第23回 1990年 川崎記念

「大輪の花を咲かせたユリの花」
1990年川崎記念 ロジータ

第39回 川崎記念
Movie(映像ファイルサイズ:25MB)
 ムチ一本も入れず、スイフトセイダイに4馬身の差を付け快勝した東京大賞典から45日後。1990年2月12日、川崎競馬場。建国記念日の振り替え休日の月曜日。この日の川崎競馬場は今でも鮮明に覚えている。朝から異常に混んでいた。
 ロジータの引退レース。それだけのために、最終的には約4万人以上のファンが集まっていたのだ。港町の駅を出て、当時あった競馬場側へ渡る歩道橋の上まで満杯、制止を振り切り道路を横断するファンが続出していた。
 なんとか場内に入ったが、当時まだシングルユニット券で、しかも前売り窓口は大混雑。そんな中でよく馬券を買ったなと思う。ロジータの単勝は朝から1.0倍。結局最後まで1.0倍だった。単勝総票数72582票に対し、55383票、単勝支持率76.3%の圧倒的1番人気。ロジータ以外の単勝は全て万馬券、枠連もロジータを外した組み合わせは全て万馬券。ほとんど全てのお客さんがロジータを観に来たと言っても過言ではない。
 一日開催執務委員長の麻丘めぐみさんが来場されていたらしいが、場内は人人人で、パドックもロクに観ることが出来ず。首尾よくパドックを観たとしても、走路側へ戻ってレースを観られたかどうかは疑問だ。馬券を買い求めるファンの列は途切れることなく、発走時刻は16時だったが、約30分近い遅れで発走となった。
 既に前走の東京大賞典に於いて、地方競馬最強馬の称号を手にしていたロジータ。船橋のコリムプリンスや川崎のスクランブルが回避し8頭立て。名古屋のマルブツダンデイ、笠松のイーグルジヤム以外はA3かB1のメンバーで、もはや敵ですらなく、連勝式を成立させるためだけの存在だった。
 スタートし、予想通りダービーラウンドがハナに立つ。ワールドプラツク、イーグルジヤムと続き、ロジータはダイカツキヨウコ、エゾシンザンの内。その後ろにフアーストデユースとマルブツダンデイ。
 スタート地点あたりでロジータが馬なりで動く。3コーナー過ぎには逃げるダービーラウンドに並び、そして突き放す。後ろを振り返った後馬なりのまま独走状態、そして大観衆の拍手に迎えられて有終の美を飾った。
 8馬身後に2着ダービーラウンドが決勝線を通過した。時間にしてたった1秒6だったが、随分長く感じた事を覚えている。
 原稿を書くにあたり、記憶の補完に会社にあった中継の録画ビデオの中で、会社の大先輩である柏木集保が「接戦の時に感動したりするんですが、まるで独走というのでね、なんかね、しばらく感動しました」と言っていた。前述の通り、ロジータのゴールを競馬場のファンは拍手で迎えていた。きっと、競馬場のファンも感動のゴールだったに違いない。
 普通「名勝負」と言えばライバル同士の一騎打ちや、力の劣る馬が鞍上の好騎乗で強敵を倒すレースが多い。そして、それがファンに感動を与える。しかし、この川崎記念ではロジータが初めから圧倒的に強く、鞍上の野崎騎手は終始何もしていない。にも関わらず多くのファンに感動を与えた。それこそ「名勝負」なのではないだろうか。
 ハロンの前身である「月刊地方競馬」の1990年3月号に、こういう下りがある。「いつの日か、ロジータの子がここを走りぬけるだろう」。渡辺敬一郎さんの観戦記に掲載された写真のキャプションだ。ロジータは引退後、故郷の高瀬牧場で繁殖牝馬となった。ロジータの子カネツフルーヴが川崎競馬場を走ったのが2003年1月29日。第52回川崎記念を見事逃げ切って勝利している。あの日から13年後のことである。

文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
競走成績
第39回 川崎記念 平成2年(1990年)2月12日
  4歳以上 1着賞金2500万円 川崎 2,000m 晴・稍重
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 4 4 ロジータ 川崎 牝5 54 野崎 武司 2:10:0 1
2 8 8 ダービーラウンド 川崎 牡6 56 森下 博 8 3
3 5 5 イーグルジヤム 笠松 牡7 55 安藤 勝己 5 2
4 2 2 マルブツダンデイ 名古屋 牡8 55 田中 敏和 2 1/2 4
5 6 6 エゾシンザン 船橋 牡8 55 尾形 秋徳 1 7
6 7 7 ダイカツキヨウコ 船橋 牡6 54 佐々木 清明 3/4 6
7 1 1 フアーストデユース 船橋 牝9 55 佐藤 祐樹 2 1/2 8
8 3 3 ワールドプラツク 川崎 牡6 56 佐々木 竹見 1 5
払戻金  単勝100円  複勝100円・140円・120円  連複390円