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連載第19回 1998年 東京ダービー

大接戦の東京ダービー 勝負の決め手は力か運か
1998年東京ダービー アトミックサンダー

 今でこそ、ホッカイドウ競馬でデビューして、南関東のクラシックを制することは珍しくもないが、調べたところ、記録として確認できるその最初は1990年の東京ダービー馬アウトランセイコーではないかと思う。アウトランセイコーはその名の通りハイセイコー産駒で、道営で3勝、北海道3歳優駿(当時)3着の後、浦和の廣瀬龍夫厩舎に転入、初戦のローレル賞に勝ち、全日本3歳優駿(当時)は2着。明けて4歳(現3歳)は京浜盃、黒潮盃、羽田盃、そして東京ダービーに勝った。
 それから7年後の1997年。無敗の羽田盃馬キャニオンロマン骨折による戦線離脱で、東京王冠賞、東京ダービーの2冠を制したサプライズパワーも道営出身の東京ダービー馬である。
 そして翌1998年の東京ダービー。
 1番人気に推されたのは、デビュー以来4勝2着1回の素質馬ゼンノブレイブ。2番人気は青雲賞、京浜盃に勝ち、黒潮盃2着も1冠目の羽田盃を快勝。続く2冠目の東京王冠賞は逃げたハカタビッグワンのクビ差の2着に粘ったゴールドヘッド。3番人気はクラウンカップ2着、羽田盃5着、東京王冠賞3着だが、いずれも中団~後方から38秒台の末脚で迫るモンスター。
 春シーズンに3歳3冠すべてを行う「アメリカンスタイル」に変更されて3年目。今にも降り出しそうな、微妙な曇り空の下、フルゲート16頭のスタートが切られた。
 逃げるとみられていた東京王冠賞馬ハカタビッグワンがスタート直後に躓き、ゴールドヘッドが青雲賞以来のハナに立つ。その直後に1番人気のゼンノブレイブがピッタリとマークの2番手に、14番人気のコメットランデブーを挟んで4番手にアトミックサンダーがつけた。
 アトミックサンダーは前年の東京ダービー馬サプライズパワーを同じ、船橋の川島正行厩舎で、これまた同様にホッカイドウ競馬デビューだった。馬主も同じ現参議院議員の舛添要一氏。鞍上は張田京騎手であった。
 ゴールドヘッドの逃げは軽快で、1000メートルの通過が推定63秒7のスローペース。隊列の並びは変わらぬまま、レースは3~4コーナーへと進む。勝負どころで苦しくなったゼンノブレイブ。5戦4勝2着1回の連対パーフェクトとはいえ、初めての2000メートル、初めての重賞挑戦が東京ダービーというのは、さすがに厳しかったのだろう。入れ替わるようにアトミックサンダーが直後に迫る。
 直線に入っても逃げるゴールドヘッドの勢いは止まらず、更に後続を引き離しにかかる。そのまま押し切るかに見えたが、残り100メートルのところで、外からアトミックサンダーが伸びて、ゴールドヘッドに並びかけ、そして交わし先頭に立つ。内のゴールドヘッドも必死に食い下がり、差し返そうとするが、わずかクビの差、アトミックサンダーが東京ダービー馬の栄冠に輝いた。そして、川島正行調教師、馬主の舛添要一氏は、2年連続の「強運の持ち主」となった。
 翌年以降も1999年オリオンザサンクス、2000年ヒノデラスタ、2006年ビービートルネード、2007年アンパサンド、そして昨年の2011年クラーベセクレタと、ホッカイドウ競馬デビューの東京ダービー馬が誕生した。必ずしも毎年というわけではないが、転入頭数は年々増える一方で、この流れはもはや「当たり前」の状況になりつつある。アウトランセイコーから始まった90年代は、いわば時代の幕開けであったとも言える。
 この大接戦の2着に敗れたゴールドヘッド。鞍上は的場文男騎手だった。残り100メートルでアトミックサンダーに並ばれるまで、ほぼ十中八九「悲願の東京ダービー制覇」を手中に収めようか、というところまで来ていた。東京ダービー2着8回。これまでの2着の中でも、ゴールドヘッドのクビ差が「最もゴールに近い2着」だった。「運がなかった」としか言いようがない。
 折しもレース直前に振り出した大粒の雨。勝者にとっては歓喜のシャワー、敗者にとっては涙雨に思えたに違いない。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
音声●耳目社
映像●プラスミック(現・山口シネマ)
(協力:特別区競馬組合)
競走成績
第44回 東京ダービー 平成10年(1998年)7月9日
  サラ系4歳 1着賞金 6600万円 大井2,400m 曇・良
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 6 11 アトミックサンダー 船橋 牡4 56 張田 京 2:34:03 4
2 3 5 ゴールドヘッド 大井 牡4 56 的場 文男 2
3 7 14 トウカイハリケーン 川崎 牡4 56 田邊 陽一 3 6
4 2 3 モンスター 川崎 牡4 56 見澤 譲治 3
5 3 6 アイディアルクイン 大井 牝4 54 藤村 和生 2 8
6 7 13 ハカタビッグワン 船橋 牡4 56 佐藤 隆 5
7 8 15 ダイワシェーバー 大井 牡4 56 桑島 孝春 10
8 4 7 コメットランデブー 大井 牡4 56 鈴木 啓之 2 14
9 6 12 ゼンノブレイブ 船橋 牡4 56 石崎 隆之 3/4 1
10 4 8 アズマジョージ 大井 牡4 56 内田 博幸 1 12
11 1 1 マツノコウタロー 大井 牡4 56 的場 直之 9
12 2 4 カネショウシュホー 川崎 牡4 56 森下 博 4 7
13 1 2 タマノコウキ 大井 牡4 56 澤 佳宏 3 16
14 8 16 スイートヒマワリ 大井 牝4 54 堀 千亜樹 3/4 14
15 5 10 ガーデンプレイス 浦和 牝4 54 佐藤 祐樹 11/2 13
16 5 9 カズサトップ 大井 牡4 56 鷹見 浩 8 11
払戻金 単勝1200円 複勝250円・150円・350円 枠連複390円 馬連複1550円 枠連単950円 馬連単4880円