3歳馬に課せられた至上命題=ダービー馬の称号
全国各地の6競馬場(佐賀・盛岡・門別・大井・姫路・名古屋)で行われる“ダービー”競走を6日間連続で短期集中施行する夢のような一週間、それが「ダービーウイーク(Derby Week)」(創設2006年)。
この一週間で勝利を掴む各地のダービー馬は、全国3歳馬のダート頂上決戦「ジャパンダートダービーJpnI(大井・7/14)」出走に向け、大きなアドバンテージが得られる、いわば「甲子園方式」のシリーズレース。
前年秋の「未来優駿」シリーズを皮切りに、一世代でしのぎを削る熱き戦いは、集大成への大きな山場を迎え、まさに群雄割拠。この戦国ダービーを制し、競馬場という舞台にこだまする勝どきを挙げる6頭をお見逃しなく!
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並ぶ間もなく突き抜けて快勝、大一番での逆転劇
ここまで、4戦連続1番人気が勝利してきた今年のダービーウイーク。第5戦の兵庫ダービーでは、フィオーレハーバーが1番人気に支持された。菊水賞を勝ち、JRAの強豪と戦った兵庫チャンピオンシップJpnIIでも3着に健闘。このレースで戦う地元3歳相手では、2歳時に一度負けただけであり、単勝1.2倍は納得のオッズと言えた。さらに注目は、直前での乗り替わり。ここまで5戦連続で手綱を取ってきた木村健騎手が、持病の腰痛を発症して休養、鞍上は板野央騎手に託された。
ダービーでの初コンビ、断然の1番人気、リーディング木村騎手からの乗り替わり……板野騎手のプレッシャーは、相当なものだったと想像できる。
レースは、タガノパンデミックとオキナワノペガサスの2頭が並んで逃げる展開に。少し離れた3番手にフィオーレハーバーがピタリと折り合い、外にブリリアンストーム、後ろにハイパーフォルテが続く。2周目の向正面になると、逃げていた2頭の脚色が鈍り、フィオーレハーバーが馬なりで並びかける。その外にはハイパーフォルテが、鞍上の田中学騎手の叱咤激励を受けながら食らい付いて行く。
直線を向いてもまだ馬なりのフィオーレハーバーが圧勝するかと思いきや、いざ追い出すと、手応えの差は歴然で、ハイパーフォルテに並ぶまもなく交わされた。そのままハイパーフォルテが突き抜けて3馬身差の勝利。その後ろは6頭の大接戦となり、後方から追い上げたフウリンカザンが2着、最後まで粘ったフィオーレハーバーが3着を死守した。
勝ったハイパーフォルテは、フィオーレハーバーと同じ平松徳彦厩舎所属。これまで、レースでは一度もフィオーレハーバーに先着したことはなかった。しかし、前走の兵庫チャンピオンシップでクビ差まで迫ったことで、大きな自信を得たという。
「繊細なところのある馬だけど、厩務員さんがよく仕上げてくれました。僕は乗ってただけです」と、田中騎手。JRAに移籍した小牧太騎手にならぶ、最多タイの兵庫ダービー3勝目となった。
8番人気で2着と大健闘した、フウリンカザンの大山真吾騎手は、「追い出しを二呼吸三呼吸我慢しました。最後勝つかと思った〜」と、笑顔が弾けていた。
対照的だったのが、フィオーレハーバーの板野騎手。悔しい気持ちを押し殺しながら、レースを振り返った。「道中は折り合ったし、早めに抜け出さないように気をつけました。敗因は……よくわからないです」。大きなため息をついた板野騎手に、坂本和也騎手が声を掛ける。「文句のない騎乗やったで」。板野騎手は小さく頷きながら、最後まで馬のせいにするようなコメントは一切しなかった。
田中学騎手
道中いい位置が取れたので、思い通りの競馬ができました。前の馬を射程圏に入れておけば、最後はもう一度伸びてくれるので、馬を信じて3コーナー手前から行きました。長い脚が使える上に、瞬発力もある馬。大一番でいい結果が出せて嬉しいです。
平松徳彦調教師
田中くんが自信を持って乗ってくれました。追い比べになったら、やはり強いですね。ここまで思ったように身体が大きくならなくて、食いも男馬にしては細いんですが、ここに来てだいぶ落ち着きが出たんです。これだけ走ってくれる馬ですから、この後は放牧に出して、秋・来年に備えたいです。時間を掛けて、ゆっくり育てていきます。
平松調教師にとっては、これが兵庫ダービー初制覇。「2頭のどちらかでは勝ちたかったので、素直に嬉しいです。ハイパーフォルテは、田中くんがダービーを見据えてレースを教えてきた。それが実を結びましたね。フィオーレハーバーは遊ぶところのある馬だけに、展開も大きかった。もう少し逃げ馬が粘ってくれてたら……。板野くんも大きなプレッシャーの中、いい騎乗をしてくれました」
ハイパーフォルテの馬主である蒲牟田浩さんは、平松調教師と小中学校の同級生という間柄。レース後、大きな仕事を果たした2人の同級生は、輝くような笑顔で喜びを分かち合っていた。
ハイパーフォルテの馬主である蒲牟田浩さんは、平松調教師と小中学校の同級生という間柄。レース後、大きな仕事を果たした2人の同級生は、輝くような笑顔で喜びを分かち合っていた。
取材・文:赤見千尋
写真:桂伸也(いちかんぽ)
写真:桂伸也(いちかんぽ)