実績馬が強かったダービー、そして血の奇跡を感じたダービー
■ ダービーウイークがもたらしたもの 5年目を迎えたダービーウイークは、連日見事に好天に恵まれた。 今年は4月に関東以西でも雪が降るなど不順な天候で、5月に入っても雨が多く寒い日が続いていた。しかし地方競馬がもっとも盛り上がる時期のひとつ、ゴールデンウイークは雨にたたられた競馬場はほとんどなく、さらにダービーウイークはどのレースも好天の下での開催となったのは喜ばしい。特に後半の兵庫ダービー、東海ダービーは半袖でも汗ばむほどの陽気だった。 ダービーウイークの初年度は、各競馬場ともトークショーなどのイベントが行われて華やかだったが、ここ数年はダービーだからといって特別に行われるイベントは少なくなった。だからといって盛り上がっていないというわけではない。ダービーウイークそのものが地方競馬のイベントとしてファンの間にも定着してきていることは、各地のダービー当日に競馬場に足を運ぶファンの様子を見れば伝わってくる。 ダービーというタイトルに対する関係者の意識も、この5年でだいぶ高まってきたように思う。 大井の東京ダービーなどは、もともと南関東のダービーであり、地方競馬ではもっともレベルが高いところでのダービーゆえに、歴史も威厳もあった。しかし地方競馬の場合は、レース体系やダービーのタイトルそのものが曖昧だったりするところも少なくなかった。 兵庫では、アラブが主流のころは楠賞全日本アラブ優駿こそがダービーであり、兵庫ダービーは、まだ11回の歴史しかない。 そうした中で、地区ごとのダービーとはいえ、ダービーウイークとして全国から注目を集め、さらにその先にはジャパンダートダービーJpnIへという目標もある。関係者のモチベーションも、ダービーウイーク以前とは比べものにならないくらい上がって当然だろう。 ■ 1番人気馬が大活躍 今年のダービーウイークを通して際立ったのは、1番人気の活躍だ。6レース中じつに5レースで1番人気馬が期待にこたえてダービーのタイトルをものにした。 九州ダービー栄城賞は、3頭が単勝3倍台という三つ巴の混戦。勝ったメイオウセイは僅差の1番人気ではあったが、終わってみれば荒尾ダービーからの九州二冠制覇となった。ロータスクラウン賞も勝てば、02年のカシノオウサマ(当時の三冠目は九州菊花賞)以来の三冠馬誕生となる。 北海優駿は、牝馬のクラキンコが距離延長の初距離にもかかわらず、単勝1.9倍という1番人気にこたえて北海道二冠制覇。血統背景から距離延長も問題なしと評価されての期待だったと思うが、その血統についてはあとで触れることにする。 ところでこの兵庫ダービーの歴代勝利騎手を見ると、第1回から第6回までは、岩田康誠、小牧太、赤木高太郎という名が並び、その後に中央に移籍する騎手が独占していた。第7回から今年第11回までは、田中学3勝、下原理2勝と、見事にトップジョッキーばかりが並んでいる。最初に兵庫ダービーは歴史が浅いと書いたが、やはりダービーのタイトルはそれなりの重みがあるということだろう。そういう意味では、ここにまだ名前がない木村健騎手にとっては無念の戦線離脱だったに違いない。木村騎手は東京ダービーでブンブイチドウにも騎乗する予定だった。 ジャパンダートダービーJpnIへ向けてということでは、メイオウセイは馬主さんの意向次第。ロックハンドスターはかなり前向き。クラキンコは地元戦に専念する可能性大。マカニビスティーは、いずれ中央の矢作芳人厩舎に戻ることになっているようで、そのタイミングと、体調次第では微妙なところ。ハイパーフォルテはこのまま放牧休養。エレーヌは、関東オークスJpnII、スパーキングレディーカップJpnIIIに出走し、連闘でジャパンダートダービーJpnIに挑戦の予定。トウホクビジンと同厩舎・同馬主だけに、同じようにタフに使われながら活躍していることには感心させられる。 いずれも、レース直後に語られた予定だけに、その後に変更になる可能性があることはお断りしておく。 ■ クラキンコは奇跡の血統 血統面では、ロックハンドスター(マーベラスサンデー)、マカニビスティー(ゼンノロブロイ)、エレーヌ(ダイタクリーヴァ)と、勝ち馬の半数3頭がサンデーサイレンス系。地方競馬ではサンデーサイレンスの直仔が走ることはほとんどなかったが、今やその孫の世代までが種牡馬となり、日本では一大勢力を形成しているだけに、地方競馬でもサンデーサイレンス系が相当増えてきているという必然の結果だろう。 中でもゼンノロブロイは、JRAオークスに産駒を6頭も送り込み、その中の1頭サンテミリオンが同着で勝利するなど初年度産駒の3歳世代が大活躍。その勢いが地方にも及んだと言えるのかもしれない。マカニビスティーこそJRAデビューだが、東京湾カップを圧勝して東京ダービー3着だったマグニフィカもゼンノロブロイ産駒だ。 オーナーブリーダーである倉見さんは、自身が育てた血統をたいへん大事にされる方で、母系だけならともかく、父クラキングオーまで自身の生産馬であるということには感心させられる。JBISで調べたところ、07年に生まれたクラキンコのほかには、09年に1頭の産駒がいるのみ。つまり競走馬としてデビューしているのはクラキンコただ1頭で、それが重賞勝ち馬となったばかりか、父母仔のダービー制覇というのは奇跡としか言いようがない。ちなみにクラキングオーは昨年2頭に種付しているので、今年最大2頭の産駒が誕生している可能性がある。 ■ 売上げは名古屋が過去最高、佐賀は半減 最後に馬券の売上げについて触れておく。
気になるのは佐賀だ。昨年より2千万円ほども売上げが下がり、ピークの08年との比較では半分以下になってしまった。日本ダービーと同日開催なのはここ3年連続のことで、日本ダービーのあとに栄城賞が発走になるということも変っていない。原因は、おそらく南関東で開催がなかったことだろう。過去4年とも、栄城賞当日は大井のナイター開催だった。ところが今年の大井開催は翌日の月曜日から。当然のことながら南関東での場外発売はなかった。 今や全国どこの競馬場も、南関東の開催日に場外発売してもらえるかどうかが馬券の売上げに大きく影響することは知っていた。ホッカイドウ競馬などは「スクランブルナイター」と称して、大井、川崎のナイター開催とメイン前後の3レースを相互発売することで売上げを伸ばしてきた。他の競馬場の昼間開催や薄暮開催でも、大井や川崎のナイターで場外発売が行われるときは、対象レースの発走ができるだけ遅い時間に設定される傾向がある。 とはいえ、大井の開催がなく南関東で場外発売が行われないことで、馬券の売上げが半減してしまうほどの影響があるというのにはちょっと驚いた。 おそらく馬券の発売規模が小さい競馬場ほど、南関東での場外発売がないことによって受ける影響は大きくなるのだろう。 文:斎藤修 |
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