JBC2020

第11回 2011年 大井競馬場

新設レディスクラシックが牝馬戦線に好影響
世界レベルの活躍馬登場も地方馬と格差

第11回を迎えたJBCの大きな進化は、JBCレディスクラシックの新設だろう。21世紀の幕開けとともに、クラシック、スプリントの2レースでスタートしたJBCは、当初からさらに別のカテゴリーのレースを増やしていくという計画があった。しかし昨年までの10年間は、同日に2歳馬の地区重賞が行われたり、大井開催時にはTCKディスタフ(現・レディスプレリュード)が行われてはいたが、JBCとしてのレースを増やすまでにはなかなか至らなかった。今回、レディスクラシックが新設されたことで、JBCはまた新たなステージに入ったといっていいだろう。

何よりその成果は、中央・地方ともに、早い段階からJBCレディスクラシックを目標に掲げる陣営があったことだろう。それによって、ここに至るダートグレードの牝馬戦線も、例年以上に盛り上がりを見せた。

もっとも注目されたのはラヴェリータだ。当初は今年春に繁殖入りする計画もあったが、JBCレディスクラシックを目標にするとして、繁殖入りを1年延期。ラヴェリータはその現役続行によって、今年さらに3つのダートグレードタイトルを加え、牡馬とのレースも含めて通算で7つものタイトルを獲得することとなった。

そしてこの牝馬戦線をさらに盛り上げたのが、女王ラヴェリータに対し、1つ下のミラクルレジェンドが挑むという、対決の構図ができたこと。結果的に、前哨戦のレディスプレリュード、そしてJBCレディスクラシックと、ミラクルレジェンドが連勝という結果になったが、そうした世代交代というのも競馬を面白くする要素のひとつだろう。

地方勢では、中央のオープンから笠松に転厩してきたエーシンクールディの存在が大きかった。グランダム・ジャパン古馬シーズンを圧倒的な強さで優勝し、レディスプレリュードでは直線半ばまで先頭で粘って3着。本番では残念ながら9着に沈んだが、これはブラボーデイジーにつつかれてオーバーペースになるという不運もあった。

今回のJBCでもっともメンバーが充実していたのがスプリントではなかっただろうか。連覇を目指すサマーウインドに、一昨年の覇者スーニ。地方勢では、前哨戦の東京盃JpnⅡであわやの2着だったラブミーチャンに、昨年2着だったナイキマドリード。そして果敢にハナを切ったのも大井の快速馬ジーエスライカーだった。

JBC創設以前、ダート短距離路線の最高格付はGⅡの東京盃で、さらに上を目指すとなれば、純粋なスプリンターとしてはちょっと距離が長いフェブラリーステークスGⅠしかなかった。

近年、ダート短距離路線の層が厚くなってきたのは、JBCスプリントJpnⅠという目指すべき明確な頂点ができたことと無関係ではないだろう。一時期勝てなくなっていたスーニが、以前よりも力をつけての復活も見事だった。

JBCクラシックJpnⅠでは、地方競馬にとって残念だったのがフリオーソの回避だろう。とはいえ、昨年のJBCクラシック以来負けなしの連勝を続けるスマートファルコンと、ドバイワールドカップ2着の実績があるトランセンドとの対決は見ごたえがあった。

しかしその2頭があまりに強かったため、地方勢との力差がはっきりしていたのも確か。なんとか3着に食らいついたのもJRAのシビルウォーで、4着以下の地方勢はまったく別のレースをしているかのようだった。

そうした中央と地方の格差はJBC全体を通していえることで、地方勢でいわゆる「勝ち負け」のレースをしたのは、JBCスプリントで勝ち馬からコンマ2秒差の4着に粘ったラブミーチャンのみだった。JBCレディスクラシックでは中央勢が掲示板を独占。JBCクラシックは、高知のグランシュヴァリエが4着に入ったが、勝ったスマートファルコンからは3秒2もの差がついていた。

もはや世界的なレベルにまでなった中央勢に対し、地方勢はその差を埋めることができるかどうかが今後の課題となるだろう。

最後に東北の震災復興についても触れておきたい。JBCを含めた大井の開催中、震災復興のシンボルとして場内に多数展示された大漁旗は壮観だった。これは津波によって流されたものを、ボランティアがきれいに洗濯したもの。また、盛岡競馬場の名物・ジャンボ焼き鳥と、水沢競馬場名物・ホルモンの出店販売も大盛況。昨年船橋のJBCでもご当地グルメが盛況だったように、JBC当日には、今後も全国の競馬場の人気グルメなどの販売はぜひとも続けていってほしい。

第11回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬スマートファルコン

11月3日 大井競馬場 2000m

圧倒的なスピードで連勝
ドバイへ向けた戦いは続く

スマートファルコンとトランセンドに人気が集中するであろうことは予想されたが、最終的に馬連複が100円元返しになると想像できた人はいただろうか。

当初はエスポワールシチー、フリオーソも参戦する意向を示し、現役ダート4強の直接対決がここで実現するかに思われた。しかしフリオーソは日本テレビ盃JpnⅡでの競走除外から完調とまではいかずに回避。エスポワールシチーもマイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠでの4着敗退が納得いかなかったか、6日のみやこステークスGⅢへ回ることになった。

4強のうち2頭が抜け、残る2頭の実力が断然で、馬券的な興味には欠ける組合せとなった。しかし昨年のJBCクラシックJpnⅠから6連勝中のスマートファルコンに、ドバイワールドカップ2着で世界レベルの実力を見せつけたトランセンド、2強の激突は、おおいに興味をかき立てられる一戦となった。先行タイプの2頭がどんな駆け引きでレースを進めるのか、そして結果はどうなるのか。

結果から言ってしまえば、スマートファルコンが勝ち、トランセンドが1馬身差で2着。3着のシビルウォーには3馬身半差で、4着馬には大差がついた。2強での決着。しかしこれを一騎打ちと言っていいものかどうか。一騎打ちと言えば想像するのは、2頭が馬体を併せて激しく叩き合い、その後ろには差がついているような状況だろう。

スマートファルコンは、トランセンドよりもひとつ外の枠だったにもかかわらず、今回も単独で逃げた。トランセンドの藤田伸二騎手もそうした展開を想像していたのか、競りかけてはいかず2番手に控えた。向正面では2頭の間に3~4馬身ほどの差がついた。スマートファルコンのひとり旅といってもよい。

4コーナーではスマートファルコンの武豊騎手の手綱はまだがっちりと押さえたままだったのに対し、3コーナーから差を詰めてきたトランセンドの藤田騎手は早くもムチを入れた。そして直線ではスマートファルコンが引き離しにかかり、そのまま圧勝かにも思えた。しかしゴールが近づくにつれ、トランセンドがじわじわと差を詰めた。その差を1馬身まで詰めてのゴール。

直線の後半では、武豊騎手がステッキを抜いて、必死に追う姿があった。見ていてドキドキする展開だった。勝ったスマートファルコンにとって、2着との1馬身差は、昨年のJBCクラシック以降では、もっとも小さい着差だ。やはりそれだけ力は接近していた。

藤田騎手は、「相手のほうがスピードがあるから、こういう競馬も覚えさせないと。結果は悲観はしていないです」と、スマートファルコンを行かせるだけ行かせて、最後に差し切るというレースをイメージしていたのだろう。結果的に交わすまでには至らなかったものの、見せ場はつくった。

スマートファルコンの単独逃げではあったが、トランセンドの藤田騎手は4~5馬身以上には差を広げられることはなかった。おそらく両騎手の間には相当な駆け引きがあったに違いない。馬体を併せることは一度もなかったが、内容的には一騎打ちと言ってもいいのではないか。

スマートファルコンの立ち場は、この1年で大きく変わった。それまでにも重賞はいくつも勝っていたが、昨年のJBCクラシックは4番人気という評価。しかしそこでJpnⅠ初勝利を挙げると、ここまで連戦連勝で7連勝。重賞はじつに17勝目となった。

スマートファルコン陣営には、来春のドバイへの挑戦が、いよいよ現実のものとして近づいてきた。「最終目標はドバイに置いているので、そこに行けるようにローテーションを組んでいく」という小崎憲調教師のコメントは、前回の日本テレビ盃JpnⅡのときから変わっていない。

トランセンド陣営も、当然のことながら前回2着だったドバイワールドカップが目標となるのだろう。ドバイの地で、再びこの2頭の一騎打ちが見られるのかどうか。楽しみに待ちたい。

COMMENT

武豊 騎手

いいスタートが切れましたし、あとはいつもどおり自分のレースをするだけだったので、何も迷いはなかったです。相手も強いですから、最後まで気は抜けなかったです。(5年連続JBCクラシック制覇は)いい馬に恵まれているからで、この馬で連覇できたこともよかったです。今日はこの馬らしいレースができました。来年のドバイにはぜひ行きたいですね。

小崎憲 調教師

ジョッキーともレース前に入念に打合せしました。とにかくこっちが逃げることを想定して、どこから動いていくかも想定して、ファルコンの競馬をするしかないというのが結論で、その通りの競馬をしてくれました。どこまで強くなるか、僕らもわからないですから、このままもっともっと連勝を続けて、ドバイまでいければと思います。

第11回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬スーニ

11月3日 大井競馬場 1200m

一昨年に続くJBC2勝目
コースレコードで圧勝

今年から3つの舞台が用意されたJBC。第9レースに行われるJBCレディスクラシックと第11レースに行われるJBCクラシックJpnⅠは一騎打ち濃厚というのが大半のファンの予想だったが、JBCスプリントJpnⅠだけはさにあらず。出走各馬がパドックを周回しているときに電光掲示板に表示された単勝オッズは、5頭が1ケタ台でラブミーチャンが10倍ちょうど。前哨戦の東京盃JpnⅡを完勝したスーニと、そのレースで単勝1番人気ながら4着に終わったセイクリムズンが、3.6倍前後で1番人気を争っているという状況だった。

そのオッズを頭に入れつつ周回を続ける14頭を見てみると、スーニは軽さがありつつも威圧感が伝わってくる歩き。セイクリムズンは前走で12キロ減っていた体重が5キロ戻り、黒光りする体を誇示するような雰囲気があった。

ダート短距離の実績馬が集まるなかで、ファンの心を惑わしたのがダッシャーゴーゴーの参戦。デビュー戦以来、2年3カ月ぶりのダート戦出走だが、芝のGⅠで好勝負している実績があるだけに無視はしにくい。筆者が乗車した競馬場への送迎バスの車内でも、ダッシャーゴーゴーをどう評価するかと議論する声が聞こえてきていた。

そういった未知の魅力をもつ馬が参戦してくると、レース自体が盛り上がる。それらを含めた多数の精鋭によるJBCスプリントだったが、そのなかでもっとも勝利を祈りながら観戦していたのは、ラブミーチャンのファンだったかもしれない。

そのラブミーチャン、スタートダッシュではジーエスライカーに遅れをとったが、持ち前のスピードで2番手をキープ。残り200メートル付近で先頭に立って、ファンの心臓の鼓動を大きくさせた。

しかし残り100メートル付近からJRA所属の有力馬が猛追。とくに馬場の中央を進んできたスーニの勢いは別格で、1 1/4馬身突き抜けての完勝となった。

2着と3着には、好位から差し脚を使ったセイクリムズンとダッシャーゴーゴーが入線。ラブミーチャンは3着からクビ差粘れずの4着だった。

「惜しかったなあ」「一瞬、夢を見たよ」レース直後にスタンドで聞かれた声は、ラブミーチャンの健闘に対するものがほとんど。そんなファンの想いを柳江仁調教師に伝えると、「そうですか……。でもよく頑張ってくれましたよ。今日はちょっとテンションが高かったかな。ゲートでも横を向いていましたし。スタートのタイミングはよかったんですが」と、悔しさを抑えつつも冷静なコメント。柳江調教師からは、次走が12月5日(月)のオッズパークグランプリ(佐賀・1400メートル)であるという予定が示された。

しかし、スーニの破壊力はすさまじい。レースの上がりタイムを1秒以上も上回る強烈な末脚を見せられては、ダート短距離界日本最強に異論をはさむ余地などない。それでも吉田直弘調教師は「また課題が見つかりましたから、これからも成長していきますよ」と引き締まったままの表情で上を目指す。しかしながら「海外へという話も出てきそうですね」と水を向けたとき、「オーナーが決める話ですから」と言いながらも、まんざらではなさそうな表情に変わった。

COMMENT

川田将雅 騎手

一時期、全然走れませんでしたが、3連勝でまたいちばん大きいところを取らせてもらいました。最後から2番目にゲート入りしたことで、リズムを崩すことがなかったのがよかったと思います。後方の位置取りは予定どおりといえば予定どおり。東京盃ではインを突きましたが、今日は下がってくる馬に邪魔されたくなかったので、最初から外を回ってくるつもりでした。1番人気に応えられてホッとしていますし、強いスーニを見せられることができたこともうれしいです。

吉田直弘 調教師

デキは最高によかったですね。スタッフや関係者に感謝します。サマーチャンピオンでも東京盃でも課題がみつかって、それをクリアするように努めてきて、そしてこのレースを通してさらに課題をつかむことができました。今日1日は喜びをかみしめますが、明日からまた新たな課題にチャレンジしていきたいと思います。

第1回JBCレディスクラシック

優勝馬ミラクルレジェンド

11月3日 大井競馬場 1800m

ハイペースでレコード決着
新設重賞で女王の座を奪う

これまで牝馬によるダートグレードでは、JpnⅡのエンプレス杯が格付的には最上位。とはいえエンプレス杯を年間通しての大目標とする声はほとんど聞かれることはなかった。そこに今年新設されたJBCレディスクラシックは、初年度からダート路線の牝馬が明確に目標とするレースとなった。

その牝馬の頂点を決するレースで人気を集めたのは、ラヴェリータとミラクルレジェンドの2頭。前哨戦として行われたレディスプレリュードでも、この人気2頭の決着だった。それ以外の有力メンバーもほぼ再戦という顔ぶれとなったが、いざレースが始まると、展開はちょっと意外なものとなった。

エーシンクールディがハナを切ったのはレディスプレリュードと同じ。違ったのは、ブラボーデイジーが執拗に競りかけていったことだ。さすがに1番枠のエーシンクールディは譲らなかったが、ブラボーデイジーはハナを叩くつもりで行ったにちがいない。当然ペースは速くなる。3番手にカラフルデイズが続き、1番人気のラヴェリータは離れた4番手から、これをマークするようにミラクルレジェンドが続いた。あとの馬たちはバラバラで、縦長の展開になったことでも、いかにペースが速かったかがわかる。

直線を向いてもエーシンクールディが先頭だったが、残り300メートルあたりでラヴェリータが単独で先頭へ。しかし直後でマークしていたミラクルレジェンドが交わし去って勝利。最後まで食い下がったラヴェリータが3/4馬身差で2着。7馬身離れた3着にカラフルデイズが入り、JRA勢が掲示板を独占。前で競り合った2頭、ブラボーデイジーは8着、エーシンクールディは9着に沈んだ。

そして掲示板には「レコード」の赤い文字。1800メートル、1分49秒6は、1980年のカツアールの記録をコンマ3秒上回るもの。この距離のレコードが31年も更新されたないままだったのは、大井競馬場ではこれまで1800メートルで主要な重賞があまり行われてこなかったことが要因のひとつ。同じ1800メートルでは牝馬によるTCK女王盃JpnⅢも行われているが、今回ここでコースレコードが出たということは、もちろん前が競り合ったこともあるが、やはりそれだけレベルの高い争いになったということだろう。ちなみに今年2月に行われたTCK女王盃は、1着ラヴェリータ、2着ミラクルレジェンド、3着ブラボーデイジーという決着で、勝ちタイムは1分52秒4。同じ良馬場ながら3秒近くもタイムを縮めたことになる。

1番人気ながら2着に敗れたラヴェリータは今シーズン限りで引退と伝えられる。牝馬同士のダート重賞では10戦6勝、2着4回と、ここまでついに連対を外すことはなかった。牡馬相手でも名古屋大賞典JpnⅢのタイトルがあり、今年はかしわ記念JpnⅠでもフリオーソに3/4馬身差の2着があった。間違いなくダートに歴史を刻んだ最強牝馬の1頭といえるだろう。

そのラヴェリータを2戦連続して下し、女王の座を奪い取ったのがミラクルレジェンドだ。430キロ前後で、ともすれば体の線が細く見えるが、オープンの関越ステークスから3連勝で、ここにきての充実ぶりがうかがえる。このあとはジャパンカップダートGⅠに出走予定。「荷は重いかもしれないけど、スマートファルコンやトランセンドなど、牡馬の一線級とも勝負をしていきたい」と、管理する藤原英昭調教師は期待を語った。

ダート女王の世代交代。新設された大舞台にふさわしいレースとなった。

COMMENT

岩田康誠 騎手

今日は返し馬でも落ち着いていて、ゲートをスムーズに出たのもよかったですし、道中もいいペースで運べたと思います。3コーナーからラヴェリータのうしろについて、楽な手ごたえで直線を向いたので、これはいけるんじゃないかと思いました。直線で早めに先頭に抜け出したら遊び遊び走っているところもありましたが、それでも勝ったので、すごく強い内容だったと思います。

藤原英昭 調教師

ラヴェリータと同斤量になったことで警戒はしていたんですけど、こちらもしっかり成長してくれて、状態もよかったので、勝つことができました。いろいろな展開を予想して、それでもあれほどペースが速くなるとは思わなかったんですが、最後にラヴェリータを差すというのは、理想どおりの競馬ができたと思います。ここに来て馬の中身がしっかりしてきたし、母系もしっかりしたダート血統で、まだまだよくなると思います。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR

第12回 2012年 川崎競馬場

第12回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬ワンダーアキュート

11月5日 川崎競馬場 2100m

直線弾けて5馬身突き放す
三度目の正直でJpnⅠ奪取

昨年まで11回の歴史を重ねたJBCクラシックJpnⅠ。第1回のレギューラメンバー以外の勝ち馬は、いずれも2連覇または3連覇を果たしているというのは広く知られるところ。それゆえJBCスプリントJpnⅠと比較して固い決着となる印象のクラシックだが、過去5年の結果を見ても、連対馬10頭中8頭を1、2番人気馬が占めるという、データ面でもそれははっきりと示されている。しかし今年は、昨年まで2連覇の絶対王者スマートファルコンが2カ月前に電撃引退、地方の雄フリオーソも休養中、さらには中央のダート王者トランセンドもドバイ以来の休み明けということもあり、結果的には混戦のJBCクラシックとなった。

勝ったのは、単勝5番人気のワンダーアキュート。「作戦どおり、外に持ち出してズドンといけた。久々にこの馬らしいレースができた」という和田竜二騎手のコメントが、このレースの多くを物語っている。ワンダーアキュートにとって悲願のJpnⅠ・GⅠ初制覇となった喜びを、和田騎手は右手を高々と挙げて表現した。

絶好のスタート切ったのはワンダーアキュートだが、マグニフィカが押してすぐに先頭を奪い、外からトランセンドも仕掛けていった。ワンダーアキュートは控えて3番手を追走。テスタマッタはそのうしろでやや掛かり気味、日本テレビ盃JpnⅡまで3連勝で臨んだソリタリーキングがそのうしろ、近走好位につけるレースで成績を残してきたシビルウォーは最後方から徐々に位置取りを上げる展開となった。

向正面でソリタリーキングがまず動き、さらにはシビルウォーが一気に先団まで押し上げてきてレースが動いた。マグニフィカは後退、3コーナー過ぎでトランセンド、ソリタリーキング、シビルウォーが併走するように先頭へ。ここで仕掛けをワンテンポ遅らせたのが、ワンダーアキュートの和田騎手だった。4コーナー手前で3頭の外に持ち出して追い出されると、直線では馬場の中央を堂々と突き抜けた。早めに仕掛けてきたシビルウォーが5馬身差の2着。トランセンドは粘りきれず3馬身差の3着。そしてソリタリーキング、テスタマッタと続き、フリオーソ不在のこのメンバーでは、やはりJRA勢が掲示板を独占する結果となった。

勝ったワンダーアキュートは、これまでにもたびたび素質の片鱗は見せていた。その序章となったのが、昨年5月の東海ステークスGⅡで、ゴール前一気に追い込んでのレコード勝ち。秋のジャパンカップダートGⅠでは後方一気でエスポワールシチーをとらえ、トランセンドから2馬身差の2着。そして東京大賞典GⅠでは、逃げ切りを図るスマートファルコンに対して首の上げ下げの勝負に持ち込んだ。写真判定の結果2着に敗れはしたが、どちらが勝っていてもおかしくない大接戦だった。

念願のJpnⅠタイトルに、管理する佐藤正雄調教師は、「三度目の正直で、やっとなんとかここにこぎつけました」と安堵の表情を見せた。とはいえ前走東海ステークスでの惨敗もあり、ここに向けては手探り状態だったようだ。「休み明けはあまり実績がなかったんで、正直どうかなという心配はありました」と和田騎手。馬体重は前走比ではマイナス21キロだが、好走した東京大賞典との比較ではマイナス7キロ。馬自身は仕上がっていたのだろう。

この後に続く、ジャパンカップダート、そして東京大賞典というGⅠ戦線では、ワンダーアキュートが突っ走るのか、それともひと叩きされたトランセンドの復活があるのか、南部杯JpnⅠを圧勝したエスポワールシチーも衰えはない、はたまた前日のみやこステークスGⅢでダート6連勝とした上がり馬ローマンレジェンドの台頭があるのか。秋のダート古馬頂上決戦は、高いレベルでの混戦となりそうだ。

COMMENT

和田竜二 騎手

GⅠ級の力がある馬だとずっと思っていましたし、この馬でずっと夢見ていたので、夢がかなった一瞬でした。苦しいときもあったんですけど、絶対いつかは勝ってくれると信じていました。ほんとに強い時はこれくらいのパフォーマンスができる馬なので、今回やっとそれが出せた感じです。

佐藤正雄 調教師

放牧から帰ってきて問題なく来ていましたが、この馬は体重の変動が激しく、今回はマイナス21キロで、ベスト体重から10キロくらい軽いかなと思ったんですけど、体はいい感じで出れたと思います。大井で見せたような脚はもってるんで、ひょっとしたらという気持ちはありました。この勢いでJRAのGⅠも狙います。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄)、NAR

第12回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬タイセイレジェンド

11月5日 川崎競馬場 1400m

この秋一気に頂点を極める
晩成の血が花開いての勝利

今年のJBCスプリントJpnⅠは注目馬多数のメンバー構成。最終的には4頭が単勝10倍以下となったが、セイクリムズンが1.5倍で断然人気。続いてタイセイレジェンドとラブミーチャンが5倍前後と、この3頭がやや抜けた人気となっていた。

JBCの3レースのうちレディスクラシックは終了していたが、それでも観客は川崎競馬場へ続々と入場。人垣の厚さがいっそう増したパドックにJBCスプリントの出走馬が入ってきた。それと同時に小粒の雨が落ちてきたが、騎乗合図の頃には止む程度のもの。霧雨のなか、蹄音を立てる馬がほとんどいないパドックは、静かな闘志に包まれていた。

関東では初めてとなる1400メートルのJBCスプリント。小回りコースの川崎だけに、どの騎手もまっさきにスタートを切りたいと思っていたであろうところで、アクシデントが起こった。ゲートが開いたその瞬間、チョウサンペガサスが大きくつまずき、ラブミーチャンもタイミングが合わずに出遅れ。内枠ではセイクリムズンとダイショウジェットが空脚を踏むような格好で、最初の踏み出しが遅くなってしまった。

それとは対照的に、すぐさま先手を取り切ったのがタイセイレジェンド。好スタートを切ったシャイニングアワーと立て直したラブミーチャンが馬群の外から追いかけるが、1~2コーナーでは体半分ほどリード。向正面では先行する3頭に向かって、スーニがアウトコースから、オオエライジンがインコースから攻め上がっていくが、タイセイレジェンドは後続各馬に並ばせない。4コーナーを回り終えるあたりでは、むしろ2番手以下との差を広げていった。

そして最後の直線は独走。このレースぶりは、まさに好スタートから逃げて最後の直線で追いかける各馬を置き去りにしたクラスターカップJpnⅢのような、圧倒的なものとなった。さらに勝ちタイムは1分26秒6のレコード。このレースでは最下位に敗れたが、チョウサンペガサスの従来の記録を0秒2短縮する快記録である。

3馬身遅れの2着には、最後の直線で瞬発力を見せたセイクリムズン。さらに2馬身差でスーニが粘り込み、中団から流れ込んできたセレスハントとダイショウジェットが続いて入線。JRA勢が上位独占という結果になった。

検量室前で、「よく、ここまでたどりついた」と感慨深そうに声を発したのは、タイセイレジェンドを管理する矢作芳人調教師。この馬自身、久々となる520キロを切る体重は、陣営が勝負をかけてきたという証拠だろう。対して、昨年2着の雪辱を期したセイクリムズンは、岩田騎手が「スタートで滑ったのがすべて」と悔しがった。

地方所属馬で最先着したのは6着のオオエライジン。木村健騎手は「1コーナーで外に行きたがって……」と、左回りに敗因を求めた。そして地方競馬ファンの期待を背負ったラブミーチャンは9着。柳江仁調教師は上がり運動をしているラブミーチャンを見ながら「パドックでこんなに元気がなかったのは初めて。馬体も思っていたより減っていましたし」と、首をひねった。「それでも今の歩様などを見る限りでは、脚元に問題があったとかではなさそうですし、笠松グランプリに向けてまたがんばります」と、気を取り直していた。

その近くには、表彰式を終えて、タイセイレジェンドの様子を確認に来た矢作調教師が。花束を抱えながら愛馬を見ている矢作師の後姿は、いかにも肩の荷が下りたという安堵を感じさせる背中だった。

COMMENT

内田博幸 騎手

逃げたら強いということはわかっていましたが、もし逃げられなかったら好位でと思っていました。でもスタートがすごくよくて、いい形で勝たせてもらえました。返し馬のときから馬がすごくやわらかくて、いい雰囲気でしたね。この川崎競馬場で、南関東出身の矢作調教師、内田博幸のコンビで勝ててよかったです。

矢作芳人 調教師

東京盃(2着)は、クラスターカップから少し間隔があった分かなという感じでしたが、それからずいぶんと状態が上がりました。逃げられれば大丈夫だと思っていましたし、大井の1200より小回りの1400のほうがベターですからね。今後は来年のフェブラリーステークスを目標にしていきたいと思います。

文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(川村章子、森澤志津雄、国分智)、NAR

第2回JBCレディスクラシック

優勝馬ミラクルレジェンド

11月5日 川崎競馬場 1600m

早めの仕掛けで直線差し切る
2年連続ダート女王の座に

前哨戦のレディスプレリュードでは、馬連複で1.4倍という人気となったダート牝馬の2強、ミラクルレジェンドとクラーベセクレタだが、結果は明暗の分かれるもの。クラーベセクレタはプラス15キロの太め残りに加え、スタートで後手を踏み、直線ではあきらめた感じのレースぶりだった。

しかし今回のクラーベセクレタは、大一番のここが目標とばかり、マイナス13キロと前回増えていた馬体をしっかり絞ってきた。それゆえファンは再び2強対決に期待を寄せ、ミラクルレジェンドとの馬連複で1.5倍と人気を集めた。とはいえ、やはり1番人気は前哨戦を快勝して臨むミラクルレジェンドで1.4倍、クラーベセクレタは2.8倍だった。

レースを盛り上げたのは、北海道から遠征のサクラサクラサクラだった。勢い良く飛び出して先頭に立つと、4ハロン目に13秒7という道中で息の入る楽な流れに持ち込んだ。2強は中団を追走。向正面では先行集団のうしろで、真ん中にサトノジョリーを挟み、ラチ沿いにクラーベセクレタ、外にミラクルレジェンドが併走して追走する展開となった。

4コーナーでもサクラサクラサクラの手ごたえは楽。鞍上の森泰斗騎手は、「自分のペースで行けて、4コーナーではやったと思った」という。

しかし力の差は歴然だった。外から進出してきたミラクルレジェンドが残り100メートルを切って抜け出し、クラーベセクレタも内から馬群を捌いて抜けてきた。

ダート牝馬の頂上決戦は2強がその実力を見せての決着。先に抜けたミラクルレジェンドが、クラーベセクレタに1馬身半の差をつけての勝利。サクラサクラサクラが3/4馬身差でしぶとく3着に粘っていた。

勝ったミラクルレジェンドは、4コーナーから直線を向くところで視界が完全に開けたのに対し、一方のクラーベセクレタは内の狭いところに入り、抜け出すまでにちょっと手間取った様子だった。2頭に実力の差はなく、勝ち負けはコース取りの差だったかもしれない。管理する藤原英昭調教師は、「広いコースだったらもっと余裕あったと思うんですけど、このコースで岩田騎手がうまいこと乗ってくれました」と、好騎乗を讃えた。

このレース連覇で、あらためてダート女王の座を揺るぎないものとしたミラクルレジェンドの今後は、あらためて牡馬一線級との対戦になるようだ。

このレースの前日に京都競馬場で行われた、みやこステークスGⅢでは、同じく藤原調教師が管理する1つ下の半弟ローマンレジェンドが、同じく岩田騎手で勝利。ダートで6連勝中と快進撃を見せている。藤原調教師はミラクルレジェンドの次走が「どこになるかはまだわかりませんが」と前置きした上で、JRAのダートでは最高峰の舞台となるジャパンカップダートGⅠで、姉弟の直接対決にも想いを馳せている様子だった。

COMMENT

岩田康誠 騎手

今日は勝つために来ました。ペースは遅くても速くても、この馬はどういう展開にも対応できます。川崎の3~4コーナーだけクリアできればと思っていました。少し膨らんだところもありましたが、立て直して走ってくることができました。

藤原英昭 調教師

帝王賞のあと連闘で使って、ちょっとかわいそうなことをしました。前走を叩いてここという目標を立てていましたから、ほんとに馬がよくこたえてくれました。直線が短いので、早めに仕掛けるというのは作戦にありました。3~4コーナーでスピードに乗って来たので、そのままいけると思いました。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄、川村章子)、NAR

第13回 2013年 金沢競馬場

金沢競馬場で初のJBC開催
国内史上初JpnⅠ同日3レース

金沢競馬場で初めての開催、JBCレディスクラシックがJpnⅠに格付けされ日本で初めて1日にJpnⅠが3レースというJBCで、まず何よりよかったのは、天気に恵まれたことだろう。馬場状態こそずっと不良のままだったが、前日までのピンポイント予報では雨が確実だったことを思えば、少なくとも昼以降、天気の変わりやすいこの地で傘の必要なほどの雨が降らなかったのは奇跡的ともいえた。もちろん雨でもレース自体は普通に行われただろうが、あとからこの日の様々な場面を思い出してみたときに、もし予報が当たっていたらどうなっていたかは想像もできない。

JBCの初期を思えば、最近ではJRAの厩舎関係者のJBCに対する意識がかなり高いものになってきていて、早い時期からJBCを目標のひとつとして語る陣営も少なくない。それを示すひとつの出来事が、JRA所属馬の登録締切の段階で選定馬となっていたJBC3レースの各5頭ずつがそのまま出走したということ。逆に言うと、補欠馬が1頭も繰り上がれなかったのだ。つまりは、とりあえず登録だけしておくというのではなく、どの陣営も本気でJBCを狙ってきているといえるのではないだろうか。

特に今年からJpnⅠに格付けされたJBCレディスクラシックは牝馬のダート路線では唯一のGⅠ/JpnⅠのタイトルであり、ダートを得意とする牝馬は、すでに今年のJBCが終了した今の時点から来年に向けた戦いが始まっているといってもいいかもしれない。

JRA勢が本気で臨むとあれば、3レースいずれも上位3着までを独占という結果も当然だった。さらに今年はいずれも1番人気馬の勝利となった。

なかでもJBCレディスクラシックを勝ったメーデイアは、牝馬のこのメンバーと対戦している限り負けることはないのではないかという強さを今回も見せた。社台グループ系クラブ馬主の規定で6歳春での繁殖入りが決まっており、メーデイアはこのあと1、2戦して引退ということになりそうだ。ジャパンカップダートやフェブラリーステークスも視野にあるようで、そうなると先にも触れたとおり、まさに12月の船橋・クイーン賞JpnⅢから、来年のJBCレディスクラシックへ向けた戦いが始まることになる。

地方最先着は名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。この馬はひょっとすると来年は地方の牝馬路線の中心的存在になるかもしれない。あらためてこのレベルの馬をホッカイドウ競馬からJRAや南関東でなはなく、名古屋へ移籍させたというのは画期的で、そうした視点でも見続けていきたい。

JBCスプリントは、8歳にしてダートのこの距離は初めてというエスポワールシチーが勝利。2着には、鞍上の好騎乗もあったが初ダートのドリームバレンチノが入った。東京盃JpnⅡを勝って臨んだタイセイレジェンドが実力を発揮できなかったということはあるが、ダート短距離路線を使われてきた馬たちは、ダートのマイル以上の路線や、芝の短距離路線よりレベルが一枚落ちるのかもという見方はできる。

地方最先着は大井のセイントメモリーが5着。JRAの一線級を相手にみずからペースをつくってのこの結果は、地方馬の中ではやはり力が抜けていた。6着のサミットストーンに5馬身差をつけたということもそれを示している。ラブミーチャンの引退が発表され、ダートグレードで互角に勝負できる地方馬がますます少なくなっている現状だけに、セイントメモリーにかかる期待は大きい。

JBCクラシックは、1番枠から初めての逃げの手に出たホッコータルマエが、ワンダーアキュート以下を寄せつけずコースレコードで勝利。今年前半の連戦連勝や、今回のレースぶりから、この馬はまだ成長途上にあるのではないだろうか。クリソライトは道中ずっと掛かったままで消耗してしまい、ハタノヴァンクールは故障があったということで、JRA勢で実質競馬をしたのは上位3頭だけ。結果的に地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着に入ったが、3着のソリタリーキングからは2秒7もの大差がついていた。

JBC3レースで南関東から遠征がなかったのは、このクラシックだけ。今さら1年近くも前に引退したフリオーソの名を出してもしかたのないことだが、フリオーソの引退によって中央・地方の格差がもっとも大きくなってしまったのは、この中長距離の路線かもしれない。

最終レースには、地元2歳馬による重賞・百万石ジュニアカップが行われた。このレースが盛り上がるのかどうかという不安もあったが、果たして、直線での攻防ではスタンドのファンからJBCと変わらないほどの大歓声が上がっていた。ファンがたくさん集まれば交流重賞でなくとも盛り上がるのだということをあらためて確認できた。

その百万石ジュニアカップを1番人気のイグレシアスで制したのは吉原寛人騎手。金沢でのJBC開催を前に、数多くのマスコミの取材に応じるなど、金沢の広告塔としても奔走してきた。表彰式のあと、ファンからのサインの要望に最後までこたえ、そして騎手控室のほうに戻ってきたときの心底ホッとした様子は印象的だった。金沢不動のリーディングとして、JBC初開催に向けて背負ってきたものは大きかったに違いない。

JBCの開催で競馬以外に期待されるのは、普段より多くのファンを迎えるために出店されるその日限りのグルメだ。船橋や川崎でのJBC開催では、全国さまざまなグルメの屋台やキッチンカーが出ていたが、今回の金沢でおおいに感心させられたのは、地元能登地方の食材やグルメにこだわったこと。能登地方には、魚、肉、野菜と、それらを食べることだけを目的に観光に訪れてもいいほどすばらしい食材が豊富だ。そうしたグルメが多数提供されたことで、遠方から来場したファンも楽しめたのではないか。今後、JBCの会場となる地方都市の競馬場では、ぜひ参考にしてほしい。

文:斎藤修

第13回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬ホッコータルマエ

11月4日 金沢競馬場 2100m

初めての逃げも安定した強さ
タイトルを重ね夢はドバイへ

今年のJBCクラシックJpnⅠは、前日に京都で行われたみやこステークスGⅢとややメンバーが分散することになったが、それでも中央勢はこの路線の実績馬が集結し、GⅠ/JpnⅠ勝ち馬4頭が単勝一桁台。中でもホッコータルマエは前走マイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠで2着に敗れ連勝が途切れたにもかかわらず、ファンは単勝1.4倍という断然人気に支持した。

昨年あたりまでとダート中長距離路線のレースが明らかに変わってきているのは、中央の有力馬に典型的な逃げ馬がいないということ。今回も、さてどれが逃げるのだろうというメンバーで、逃げ馬といえるのは名古屋のサイモンロードくらいだった。

ゲートの出がよかったのはワンダーアキュートだが、ダッシュよく飛び出して行ったのはやはりサイモンロード。しかし意外にもホッコータルマエが最初の3コーナーまでにハナを取りきった。1番枠で内で包まれるのを嫌ったのかもしれない。

隊列が決まったところでペースが落ちついた。いや、落ち着きすぎたというべきか。同じ舞台で毎年行われている白山大賞典JpnⅢが、近年は中央馬と地方馬の実力差が開いてしまったこともあり、縦長となって前に中央馬、離れて後ろが地方馬という展開もめずらしくないが、今回は1周目のスタンド前で全馬がひとかたまり。ジャパンダートダービーJpnⅠを制して以来4カ月ぶりのクリソライトは馬群の中で行きたがって鞍上を手こずらせていた。緩みのないペースだと追走に苦労することがあるハタノヴァンクールも口を割って行きたがるような場面があった。

どの馬がどこで仕掛けてくるのかという展開だが、2コーナーを回ったあたりからホッコータルマエの幸英明騎手が徐々にペースアップ。向正面でサイモンロードが後退すると、3番手を追走していたワンダーアキュートが仕掛けていき、3~4コーナーではホッコータルマエに1馬身ほどの差にまで迫った。

しかし直線に入るとホッコータルマエが再び突き放しにかかり、後続を寄せつけず完勝。2馬身と差が開いたワンダーアキュートに、ゴール前でソリタリーキングが迫ったがハナ差及ばず3着だった。

タイムの出やすい不良馬場だったとはいえ、前半スローに流れたわりにコースレコードでの決着となったのは、後半一気にペースアップしたからだろう。ホッコータルマエが逃げ切った上り3ハロンは37秒0。ワンダーアキュートも同じ37秒0だから、向正面での差を詰められなかったことが数字でもわかる。上り最速はソリタリーキングで36秒8。近年の白山大賞典JpnⅢで上り最速だったのが昨年のニホンピロアワーズの37秒5というものゆえ、さすがにこのタイムで上がられたのでは後続勢は追いつけない。後続の末脚を封じるホッコータルマエの幸騎手による完璧な騎乗だった。

2着のワンダーアキュートは今回の馬体重がプラス17キロの519キロ。前走で12キロ減っていたぶんを戻したと言えなくもないが、馬体が完成したと思われる4歳以降、勝った時の馬体重は500キロ台前半から510キロ。武豊騎手は「枠順が逆なら違う競馬になっていたかも」と。たしかに3番枠に入った帝王賞JpnⅠでは逃げの手に出て、外枠に入った日本テレビ盃JpnⅡでは内のソリタリーキングを行かせて2番手から。逃げ馬不在のこのメンバーでは、展開は枠順によるところが大きいようだ。

3着から大差がついたとはいえ、地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着と健闘。クリソライトは掛かりまくったことがすべてで5着。スローに流れて好位を追走できればチャンスはあったはずのハタノヴァンクールだが、3コーナーあたりからずるずると後退。四位洋文騎手によると「3コーナー手前でガクガクっときた」という。レース直後にはその程度はわからなかったものの、どうやら脚元に異常があったようだ。

「来年はドバイに挑戦したいという夢を持っています」とは、勝ったホッコータルマエの西浦勝一調教師。まだ4歳だが、いよいよ安定した強さを発揮するようになった。次走に予定しているというジャパンカップダートGⅠで、あらためてその力が試される。

COMMENT

幸英明 騎手

もしかしたら逃げることもあるのかなとは思っていましたが、逃げたことがなかったので、それがどう出るかちょっと不安はあって乗っていました。それでも向正面半ばくらいでハミをとってくれて、行けるんじゃないかと思いました。これから負けられない立場になってきたなというプレッシャーも感じています。

西浦勝一 調教師

前回負けて、なんとかここはと思っていたので、勝ててホッとしました。逃げたのは意外でしたが、幸君の判断でああいうレースをしてくれたので、間違いないと思って安心して見ていました。どこの競馬場に行っても対応してくれるので、すごく賢い馬だと思っています。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR

第13回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬エスポワールシチー

11月4日 金沢競馬場 1400m

短距離戦でもスピードを発揮
古豪健在を示してJpnⅠ連勝

JBCスプリントJpnⅠのゲートが開く数日前、日本中の競馬ファンに残念な知らせが伝えられた。

「ラブミーチャンがJBCを回避」

今年は4月に東京スプリントJpnⅢを勝ち、8月にもクラスターカップJpnⅢを勝利。2001年に始まったJBCでは、2007年にフジノウェーブが挙げた勝利が地方馬による唯一のものとなっているが、ラブミーチャンにはそれ以来の期待が大いにあった。しかし調教中に右前脚を骨折。夢の続きはその産駒で見られることを祈りたい。

それでもJBCスプリントJpnⅠには魅力的な役者が揃った。なかでも最大の注目は、GⅠ/JpnⅠを8勝しているエスポワールシチーである。しかし同馬はダート1400メートルが初めてで、芝を含めても2008年以来の短距離戦。ならば、スプリント路線を主戦場としてきた馬たちが黙っておれまい。タイセイレジェンドはこのレース連覇に向けて虎視眈々。さらには2年連続で2着の実績があるセイクリムズンや、フェブラリーステークスGⅠのタイトルがあるテスタマッタも出走メンバーに名を連ねた。また、ドリームバレンチノは今回が初のダート戦とはいえ、今年の高松宮記念GⅠでの2着が光る。大井のセイントメモリーは前走でJpnⅢのオーバルスプリントを制しており、こちらにも期待がかけられた。そしてレースも、その6頭が激しく火花を散らす展開となった。

ゲートが開いた瞬間に真っ先に飛び出したのはセイントメモリー。セイクリムズンがその直後でダッシュ力を効かせ、大外枠からスタートしたエスポワールシチーも先行争いに加わっていく。さらにタイセイレジェンドも先頭集団を目指していくその流れは見た目にも速く、スタンドのファンからは早くもどよめきが上がった。

向正面でもそのスピード争いは続いたが、3コーナーでタイセイレジェンドが脱落。代わって中団からレースを進めたテスタマッタが馬群の外から先頭に接近し、4コーナー手前では4頭が鎬を削る形になった。その後方ではドリームバレンチノがインコースに狙いを定めて追撃開始。しかしエスポワールシチーのスピードは、やはり一枚上だった。

4コーナーのカーブでさらに加速して、直線入口では先頭に立って押し切ろうという態勢に。その後ろではセイクリムズンが懸命に粘り、テスタマッタが差を詰めてくる。レースを引っ張ったセイントメモリーはここで失速。そして内ラチ沿いの狭い隙間をドリームバレンチノが割ってきた。

エスポワールシチーは激しい2着争いを尻目にゴール板を通過。1馬身半離れた2着にはドリームバレンチノが入り、セイクリムズンは3着。セイントメモリーは4着のテスタマッタから3/4馬身遅れの5着となった。

レースが終わり、勝利を飾ったエスポワールシチーは馬場をもう1周。再びゴール地点に戻ってきたところで鞍上の後藤浩輝騎手が馬を止め、スタンドのファンに向かって手を高く突き上げ、湧き起こる「ゴトウ」コールにリズムを合わせて指揮をとった。それはJBCスプリントJpnⅠで見せたトップクラスのスピード感が、金沢競馬場を埋め尽くした観客に間違いなく伝わったと感じさせられる瞬間でもあった。

「今回のガッツポーズは(佐藤)哲三さんの意見も聞きつつ、自分のやりかたも主張しつつ、という感じですね」と、後藤騎手はそのアクションを振り返り、さらに「哲三さんとはレースプランについて電話で相談させてもらいました。だから2人で作ったレースといえるかな。そしてその通りにできたことがうれしいですね」と、大怪我からの復帰を目指す主戦ジョッキーへの想いを語った。後藤騎手自身も大怪我から1カ月ほど前に復帰したばかり。命を賭けて戦うアスリート同士の絆が、その言葉にこめられていた。

一方、連覇を狙ったタイセイレジェンドは7着。内田博幸騎手は「ゲートのなかで待たされましたし、内枠も苦しかった。馬体も少し重かったかな(プラス15キロ)。でも、まだまだやれる馬ですよ」と捲土重来を誓った。また、地方馬最先着となったセイントメモリーの手綱を取った本橋孝太騎手は、「ゲートが速かったですし、理想のレースができました」と言いつつも、「ただ、最後の直線はいつもの感じがなかったですね」と残念がった。このあたりは初の長距離輸送が影響したのかもしれない。

それでも、各馬が披露してくれたスピードはまぎれもなく一流のもの。この先もこのメンバーたちがハイレベルな戦いで、我々を魅了してくれることだろう。

COMMENT

後藤浩輝 騎手

距離がどうなのかなと思っていましたが、勝ってホッとしました。3~4コーナーでは前にいた馬の手応えが怪しくなっていましたし、あとは後ろからどれだけ来るのかなと。3番手から競馬ができたのも収穫ですね。とにかく強いですし、僕の気持ちも汲んでくれる馬。この先も活躍できると思います。

安達昭夫 調教師

(前走の南部杯のあとは)オーナーと相談して、JBCスプリントを選びました。前走のダメージがほとんどなかったのでいいレースができるとは思っていましたが、最後はなんとか踏ん張ってくれという思いで見ていましたね。この先の予定は、またオーナーと話し合って決める予定です。

文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(宮原政典、国分智)、NAR

第3回JBCレディスクラシック JpnⅠ

優勝馬メーデイア

11月4日 金沢競馬場 1500m

単勝元返しの期待にこたえ完勝
JpnⅠ勝利で真のダート女王に

3回目を迎えたJBCレディスクラシックは今年からJpnⅠに格付けされ、歴史の幕開けは金沢競馬場からスタートした。

1回目、2回目で連覇したミラクルレジェンドが今春に引退し、混戦ムードになるかと思われた2013年の牝馬ダート戦線。しかし、後継者はすぐに現れた。今年からこの路線に参戦してきたメーデイアだ。1月のTCK女王盃JpnⅢを5馬身差で圧勝した時、濱中俊騎手は「この馬と一緒にJBCに出たい」と初めて思ったという。その次のマリーンカップJpnⅢを横綱相撲で他馬を圧倒すると、メーデイア時代の到来を確信させた。芝のヴィクトリアマイルGⅠでは大敗したが、スパーキングレディーカップJpnⅢでは敗戦のダメージへの心配をよそに、2着のサマリーズには1馬身差だったが着差以上の強さを見せつけた。このレース後、笹田和秀調教師は「完成の域に達している」とコメントを残している。そして、JBCレディスクラシックJpnⅠの前哨戦レディスプレリュードJpnⅡでは、危なげない勝ち方で本番に弾みをつけた。

ここまで牝馬のダート交流重賞では無敗のメーデイアは、当然JBCレディスクラシックJpnⅠでも断然の1番人気。単勝支持率75.7%の1.0倍で、ファンからも勝利への舞台が用意された。

注目の先行争いからハナを切ったのはトシキャンディ。少し出遅れたメーデイアはすぐに巻き返し、1コーナーでは2番手につけた。すぐ後ろには、アクティビューティやサマリーズ、キモンレッドというJRA勢が追走。しかしそのマークをよそに、「2番手が取れた時点で、もう大丈夫だと思った」(濱中騎手)というメーデイアは4コーナーあたりで早くも先頭に立った。直線では後ろを振り返る余裕を見せ3馬身差の完勝。1万人を超える大観衆を前に貫録の勝利を飾った。2着は3番手でレースを進めたアクティビューティ。ダート交流重賞初挑戦となったキモンレッドが3着に入った。

前走のレディスプレリュードの後、「JBCに向けて不安はありません」と自信が溢れていた濱中騎手だが、やはりファンからの大きな期待にプレッシャーがあったのだろう、今回は「ほっとしました」と安堵の表情が印象的だった。

陣営はこの日のために、より負荷をかけて調教し大一番に臨んだという。笹田調教師は「以前は骨が弱かったが、しっかり固まってきてそれに合わせて良い筋肉もついてきて、理想的な体型になった」と成長を振り返った。

初の牝馬ダートJpnⅠのタイトルを手にし、これで正真正銘の女王の座に君臨したメーデイア。しかし来年の春には現役を引退し、繁殖牝馬の道に進むことが決まっている。この後は、ジャパンカップダートGⅠかフェブラリーステークスGⅠに挑戦する可能性もあるとのことで、一線級の牡馬たち相手にどんな走りを見せてくれるのか非常に楽しみである。そして無事に第2の人生のスタートに立てるよう、女王のラストランをしっかりと見守りたい。

地方馬最先着は、名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。直線で脚を伸ばし5着と掲示板を確保。3戦続けてコンビを組んでいる大畑雅章騎手は「馬まかせでレースを進めましたが、がんばってくれました。成長をとても感じます。砂をかぶっても動じないし、どんな展開でも対応できる馬。東海ナンバーワンですよ。今回挑戦した甲斐がありました」と嬉しそうに語った。

北海道からの転入当初からこの馬の素質を高く評価していた川西毅調教師は、9月の秋桜賞を勝った時からJBCへの参戦を口にしていた。JRA勢の上位馬との差はあったが、これまで牝馬のダート交流重賞で地方代表として健闘しきたクラーベセクレタ(6着)やアドマイヤインディ(7着)、マニエリスム(10着)などの古馬たちに先着したという結果は、今後の大きな糧となるだろう。まだ底が知れていない名古屋のピッチシフターには、全国区での活躍が期待できそうだ

COMMENT

濱中俊 騎手

隣の馬がゲートで暴れた影響で馬が力んでしまって少し出遅れてしまいました。最後は力も残っていたので無事に走りきってほしいなという気持ち。負けられいと思っていたし、当然の結果を出すことができて安心しました。自分自身、交流のジーワンを勝ったのは初めてですし、JBCを勝てて嬉しいです。

笹田和秀 調教師

目標としていたレースですが馬にプレッシャーがかからないように自然体で臨みました。オッズを見たらやはり負けられないという思いでした。2番手につけられた時にはこのまま無事に周ってくれればと。この後、どのレースを使うか未定ですが母親になってもいい子ができるよう見守ってほしいですね。

文:秋田奈津子
写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR

第14回 2014年 盛岡競馬場

第14回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬コパノリッキー

11月3日 盛岡競馬場 2000m

外枠から逃げて直線突き放す
ジーワン3勝もさらなる高みへ

天候が心配された盛岡競馬場のJBCデー。寒風が吹きつけ、枯れ葉が舞い、時折小雨にも見舞われる、来場したファンにはかなり厳しい1日となったが、熱気に包まれたままメインレースを迎えた。GⅠ/JpnⅠホース6頭が集結したJBCクラシックJpnⅠは、ハイレベルの激闘となったが、コパノリッキーが見事にコースレコードで逃げ切り。春からの勢いを盛岡でも見せつけた。

ある程度人気どころがはっきりしていたレディスクラシックやスプリントと違い、実績馬の多くが休み明け。特に実績最上位のホッコータルマエは3月のドバイワールドカップ以来の出走で、現時点での状態評価が難しくなっていた。それにも増して悩まされたのが展開予想。帝王賞JpnⅠがにらみ合いのような展開になり、大井の2000メートルとしても珍しいスローペース。これに近いメンバーとなる今回もどの馬が逃げるのか、そしてどの馬に展開が向きそうなのかが読み切れない。単勝上位5頭で人気が割れ、これらの解明が予想の大きなポイントとなった。

その悩みにスパッと答えを出したのがコパノリッキーの田邊裕信騎手。スタート直後はやはり各馬が内外をうかがうような流れだったが、それならと8枠15番からのスタートでも徐々に内へ寄せながら無理なく先頭に押し上げた。そこまでは気持ち速い程度の流れだったが、1コーナーを回るあたりからうまくスローダウン。案の定その後ろがポジションの取り合いとなり、ベストウォーリア、ホッコータルマエ、クリソライト、ワンダーアキュートがつかず離れずの位置で追走した。

コパノリッキーには絶妙のペース配分となったのだろう、4コーナーで後続が追い上げてきた時にも田邊騎手は、「ペースを上げていない」と。十分に余力を残したコパノリッキーがここからスパートをかけ、後続を突き放して勝負あり。ゴールでは2着のクリソライトに3馬身差。フェブラリーステークスGⅠ、かしわ記念JpnⅠに続くビッグタイトルは、戦うごとに差を広げての勝利となっている。

田邊騎手は、「1600メートルは乗りやすい。この距離では引っかかるし、ムキになるところもあるが、ゴールまでもってくれた。2000メートルで走っている馬を負かせました」という点を強調した。フェブラリーステークスGⅠでは16頭立て16番人気の勝利で日本中を驚かせたが、何度見直してもレース内容に恵まれたような点は見当たらないし、そのあとのかしわ記念JpnⅠや今日のレースはもはや自信満々の騎乗と思える。馬への信頼を田邊騎手は、「ずっと強いと思っていたから、『強いですね』と聞かれても、そうとしか言えない」と表現した。秋冬のダート路線は続き、次走は中京のチャンピオンズカップGⅠへ向かうとのこと。村山明調教師も、「今日はオーナーに言われて、(開運アイテムの)刺身を買って食べました」と笑わせながらも、「もう1つランクアップできる」とさらなる可能性を示した。

敗れた各馬も休み明けを叩かれ、舞台を変えて反撃に出るに違いない。特にホッコータルマエの幸英明騎手が、「使いながら良くなっていく馬だから、今日これくらいのレースができるのなら……」と手応えを感じていたことは記憶しておきたい。

地方勢はさすがに出番がなかったが、岩手所属馬はナムラタイタンがジワジワと差を詰め6着。坂口裕一騎手は、「もう少し前の位置がとりたかった」。夏場が順調でなかっただけに、この状態で南部杯JpnⅠからステップできていればと惜しまれる。南部杯JpnⅠで見せ場があったコミュニティも8着ながら、山本政聡騎手は、「流れに乗れていた」と。JRA未勝利から約1年2カ月でこの舞台へ上がり、まだ進化を続けていると感じられるだけに、好走の部類といって差し支えないだろう。JBC3競走で岩手からは入着馬を出すことができなかったが、現時点でできるだけの健闘は見せたといえる。

12年ぶりに盛岡で行われたJBC競走は、その間、岩手競馬に様々な経緯があったことが周知されているが、様々な形で支えてくださったすべての方に対して感謝の気持ちを添えて、この観戦記を終えたい。

COMMENT

田邊裕信 騎手

帝王賞では(前へ)行きたくなくて馬とけんかしましたが、今日は馬場の内に水が浮いていたので逃げました。4コーナーで後続が来ましたが、自分のペースは上げていないです。この距離では引っかかるし、ムキになりますが、ゴールまでもってくれました。2000メートルで走っている馬を負かせましたね。

村山明 調教師

南部杯の予定が体調が上向かず、ここに切り替えて乗り込めました。入厩後は静かなところで環境が良かったです。前に行くのは勇気のいることだと思いますが、田邊騎手が馬を信じたのが良かったですね。次走はチャンピオンズカップが目標。潜在能力は高く、もう1つランクアップできると思います。

文:深田桂一
写真:いちかんぽ(佐藤到、国分智)、NAR

第14回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬ドリームバレンチノ

11月3日 盛岡競馬場 1200m

強気の競馬で直線競り落とす
昨年2着の雪辱でJpnⅠ初勝利

JBCデー2つ目のJpnⅠはJBCスプリント。地元専門紙のトラックマンが「重という馬場状態を考慮に入れても時計は速い」というコンディションならば、スピードに勝るJRA勢が上位人気を独占したのは当然といえるかもしれない。

そのオッズは、ノーザンリバーが1.9倍、ドリームバレンチノが2.7倍と、このレースと好相性の東京盃JpnⅡ・1、2着馬に人気が集中。3番人気には今回が初めてのダート戦となるコパノリチャードが4.2倍で入ってきた。JBCスプリントJpnⅠでは、昨年のドリームバレンチノ(単勝10.0)がやはりダート初参戦で2着となったが、コパノリチャードはGⅠ(高松宮記念)勝ちの実績からファンの期待もまた高いものになっていた。

しかしその3頭のレース内容は、対照的なものとなった。

ゲートが開くとタイセイレジェンド、コパノリチャード、サトノタイガー、さらに大外枠のエスワンプリンスが先陣を争って、ドリームバレンチノはその直後につける形。ノーザンリバーはスタートダッシュがつかず、それでもすぐさま先頭集団の直後に位置取りを上げたが、最内枠の同馬にとっては厳しい展開になったようだ。

とはいえ、先頭集団も激しくスピード争いをしている状況。ドリームバレンチノは馬群の外を回って追い上げ、スムーズに順位を上げていくその勢いは、前にいる馬たちを上回っていた。

しかし先頭集団はしぶとかった。早々に失速したコパノリチャードに代わって先頭に立ったタイセイレジェンドが必死に粘り込みを図り、サトノタイガーもじわじわと伸びる。直線の入口あたりではドリームバレンチノも先頭を窺う態勢になり、ゴール直前ではサトノタイガーとドリームバレンチノの一騎打ちに。その戦いはわずかに、ドリームバレンチノが上回る結果となった。

「最後はいい併せ馬になりましたね」と、ドリームバレンチノの岩田康誠騎手は振り返り、サトノタイガーの吉原寛人騎手は「追い比べで負けて悔しいです」と逃したチャンスの大きさに苦笑いも出てこない様子。吉原騎手にとっては今年のジャパンダートダービーに続くJpnⅠでの2着だけに、胸中を察するに余りある。それでも今年のJBCで地方所属馬唯一の入着、それも僅差の2着にエスコートしたのだから、胸を張っていいだろう。

3着にはタイセイレジェンドが残り、ノーザンリバーはセイクリムズンに続く5着。蛯名正義騎手は、「インで包まれる形になってしまったし、左回りもいまひとつ」と敗因を語った。しかし今年のダート交流重賞を3勝している6歳馬だけに、巻き返しが期待できることだろう。

今後が期待できるのは、ドリームバレンチノも同じ。加用正調教師は、「7歳といってもダートならそれほど年齢を考えなくてもいいですからね」と、厩舎の先輩で10歳を超えても一線級で活躍したリミットレスビッドの再来という夢を描く。そのあと「これからは使えるレースが限られますけれどね」と少しトーンが下がったが、報道陣から「来年のJBCは大井ですよ」と声をかけられると、「それはいいねえ」とレース直後の明るい表情に戻った。

COMMENT

岩田康誠 騎手

いいスタートが切れて、先行馬のすぐ後ろでレースができたのがよかったですね。馬場が締まっていたし、この馬のスピードを生かせられました。多少、外を回ることになりましたが、馬の調子がよかったので強気の競馬をしようと考えて乗りました。去年以上の走りでしたし、年齢を感じさせません。

加用正 調教師

このレースのために(黒船賞のあと)放牧に出して、東京盃を使ったのがよかったですね。ジョッキーには前のほうでと言っておいたんですが、それにしてもうまく乗ってくれました。昨年2着のくやしさに、馬もスタッフも応えてくれましたね。今度は追われる立場なので、引き続き頑張りたいと思います。

文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)、NAR

第4回JBCレディスクラシック JpnⅠ

優勝馬サンビスタ

11月3日 盛岡競馬場 1800m

人気馬を目標にゴール前抜け出す
一戦ごとに力をつけ女王の座に

2002年以来、12年ぶりに盛岡競馬場で開催されたJBC。当日は朝から雨が降ったり止んだり。日中の気温は10度くらいまでしか上がらず、冷たい風が吹き荒れ、東北の冬の到来を感じさせた。しかしJBCレディスクラシックJpnⅠのパドックが始まる頃には晴れ間が見え始め、戦いを控えた牝馬たちを美しく照らし出していた。

今年のJBCレディスクラシックJpnⅠの中心は、牝馬ダート交流重賞で3勝をマークし、前哨戦のレディスプレリュードJpnⅡを快勝したワイルドフラッパー。単勝は1.4倍と当然のごとく支持を集めていた。しかしライバルたちも多彩で、ワイルドフラッパーを負かしたことのあるサンビスタや、ダートでは底を見せていないトロワボヌール、連勝の勢いがあるブルーチッパーなど、直接対決が少ないことや展開面を考えても非常に興味深い対戦となった。

コーリンベリーがゲート内で座り込んで、全馬が一旦ゲートから出された影響で約5分遅れてのスタート。注目の先行争いはそのコーリンベリーが好スタートから最内を利して先手を主張した。ブルーチッパーが外から2番手につけ、コウギョウデジタル、アクティビューティと続き、2番人気のサンビスタは好位5番手で前を窺う態勢。その後ろにワイルドフラッパーが位置取り、3番人気のトロワボヌールは中団あたりでレースを進めた。

先に動いたのはワイルドフラッパーだった。向正面半ばを過ぎると一気に前に進出し、3コーナー手前では3番手まで上がっていた。そのまま人気に応える展開になるかと思ったのだが、そこで待ってましたとばかりにその後ろにピタリとつけたのがサンビスタ。直線に入り、先に抜け出そうとするワイルドフラッパーを残り100メートル手前で交わすと、その勢いのまま先頭でゴール板を駆け抜け、1分49秒3というコースレコードで優勝。

直線外から上がり最速の脚で伸びたトロワボヌールが2着に食い込み、最後は一杯になった様子のワイルドフラッパーは3着に敗れた。

鮮やかに女王の称号を手にしたサンビスタ。レース前、陣営はワイルドフラッパーとの一騎打ちを想定して臨んだという。「ワイルドフラッパーに勝つにはあの方法しかない、という位置取りだった」と満足げな表情の角居勝彦調教師。ライバルを常に意識しながらレースを運んだ岩田康誠騎手の好騎乗が勝利に導いた。

サンビスタは、初めて牝馬ダート交流重賞に出走した今年2月のエンプレス杯JpnⅡ(3着)では、ワイルドフラッパーに2秒2もの差をつけられたのだが、8月のブリーダーズゴールドカップJpnⅢでは0秒7差をつけて逆転。しかし、前走のレディスプレリュードJpnⅡでは完敗を喫していた。この大舞台で再度逆転劇を演じ、勝負強さを見せつけた。「一戦一戦、状態が上がり、良い体になっている」と調教師、騎手ともに口を揃えたように、この1年での成長ぶりには目を見張るものがある。「もっと強くなりますよ」という岩田騎手の言葉にはこれからの大きな期待が感じとれた。次走は、状態次第となるが船橋のクイーン賞JpnⅢを予定している。

今後の牝馬ダート戦線は、このままサンビスタ時代に突入するのか、ワイルドフラッパーが再び立ちはだかるのか。それとも、「この相手でもやれる力がある」(田中勝春騎手)というトロワボヌールのような第3の勢力が現れるのか。来年のJBCレディスクラシックJpnⅠに向けて、新たな牝馬たちの戦いが始まる。

COMMENT

岩田康誠 騎手

前走はゲートの出も良くなくて道中窮屈なレースをしてしまいましたが、今回は好スタートで前を見ながら理想的な展開。最後相手は伸びてくるだろうと思っていたのですが……。一戦ごとに硬さが抜けてきて本当に柔らかい馬になったと思います。どんなレースもできますし、瞬発力も持っている馬です。

角居勝彦 調教師

思いのほか相手が早く動いてくれましたし、直線抜け出した時は勝てると思いました。以前は精神的に強すぎるところがありましたが年齢的にも落ち着いてきたぶん、体のふくらみや体調が上がっていき、夏からの3戦も使うごとに状態が良くなりました。牝馬の交流レースが続くので参戦していきたいです。

文:秋田奈津子
写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)

第15回 2015年 大井競馬場

第15回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬コパノリッキー

11月3日 大井競馬場 2000m

先手を主張しライバルを完封
2度目の骨折を克服し連覇達成

JBCレディスクラシックJpnⅠ、JBCスプリントJpnⅠとも、単勝1倍台の人気を集めた馬が2着に敗れ、内枠からスタートした3番人気または4番人気馬が勝つという結果。二度あることは三度あるのか、それともその流れを単勝1.4倍のホッコータルマエが止めるのか。不良馬場というコンディションも含めて、ファンには悩ましい選択になっていたようだ。

その不良馬場を味方につけたのはコパノリッキー。15番枠からのスタートでも1コーナーでは主導権を握り、向正面ではマイペースの走りで息を入れ、最後の直線でもセーフティリードを保つという横綱相撲で完勝。昨年の盛岡に続き、JBCクラシックJpnⅠ連覇を達成した。

しかしコパノリッキーは前走の日本テレビ盃JpnⅡで、骨折休養明けとはいえ差のある3着に敗れていた。今回、パドックでの雰囲気はその前走とそれほど変わらないように見えたし、馬体重の増減もなし。村山明調教師も「まだ良くなる余地があると思っていたので、あまり自信はありませんでした」と振り返っていた。加えて大井競馬場ではこれまで2戦とも2着。4歳以降に挙げた5勝はいずれも左回りでのもの。昨年4歳時に制したフェブラリーステークスGⅠは骨折休養明けから3戦目だったが、今回は休み明け2戦目でこれだけのパフォーマンスを見せたのだから、そのポテンシャルの高さを改めて証明することになったといえる。

対してホッコータルマエは、前走の帝王賞JpnⅠなどと同じく、先頭から差のない位置でレースを進め、3コーナーでは2番手に進出。しかしそこからは差を詰められず、逆にゴール前では中団から伸びてきたサウンドトゥルーに交わされて、3着に敗れるという結果になった。

「去年よりは順調だと思っていたんですが。でも久しぶりが響きましたね」と、幸英明騎手。西浦勝一厩舎の調教スタッフも「みんなここに向けて仕上げてきているわけですし、そう甘くはないですよ」と、次のチャンピオンズカップGⅠに向けて気持ちを切り替えているようだった。

2着に入ったサウンドトゥルーは、日本テレビ盃に続いての好走。「初めての2000メートルでしたが、いいリズムで運ぶことができました」と大野拓弥騎手。JBCレディスクラシックJpnⅠに続き、騎手、厩舎ともにJBCを同一年に2勝するという快挙はあと一歩で逃したが、力を出し切ったという手応えはあっただろう。

地方勢は、大井のハッピースプリントがクリソライトにハナ差の5着で最先着。大井のユーロビートが6着、船橋のサミットストーンが7着と善戦まで。そして今年のJBCは、3レースすべて、4着までJRA勢が独占という結果になった。

地方馬最先着が5着だったというのは残念ではあるが、盛り上がりに一役買っていたことは間違いない。来年のJBCは川崎競馬場での開催。そこで地方競馬のスターホースが輝いてくれることを期待したい。

COMMENT

武豊 騎手

大一番ですし、どうしても勝ちたい気持ちが強かったのですが、馬の状態がよかったですし、向正面では気持ちよく走ってくれて、4コーナーでの手応えも抜群。早め早めの競馬をして押し切ろうかなと思っていたのですが、そのとおりにできました。骨折を乗り越えて、いい走りをしてくれたと思います。

村山明 調教師

レース前の印象は、前走よりは良くなっているかなという感じでしたが、僕が思っていたより走ってくれましたね。普段はあまりレースで声を出したりしないんですが、今日はさすがに出ました。ホッコータルマエに負けて悔しいことが多かったので、本当にうれしいです。次はチャンピオンズカップの予定です。

文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

第15回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬コーリンベリー

11月3日 大井競馬場 1200m

好ダッシュを決め一気に逃げ切る
牝馬が初めてダート短距離の頂点に

Road to JBCの東京盃JpnⅡ、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠの優勝馬が揃って出走した今年のJBCスプリントJpnⅠ。本番と同じ舞台である東京盃JpnⅡを快勝したダノンレジェンドは、予想通りの断然人気で単勝は1.6倍。一方、昨年はJBCクラシックJpnⅠに参戦したベストウォーリアが、今年はスプリントを選択(福永祐一騎手が落馬負傷のため、川田将雅騎手に変更)。デビュー戦以来の1200メートルではあるものの、対戦が少ないメンバーが相手だけにファンの注目度も高く、単勝3.1倍の2番人気に支持された。この2頭が人気の中心で、紅一点のコーリンベリーが単勝10.5倍で3番人気に続いた。

ゲートが開くと、好スタート、好ダッシュを決めたコーリンベリーが先手を主張。15番枠からポアゾンブラックが押しながら2番手を確保し、ダノンレジェンドは3番手の外につけた。やや出遅れたベストウォーリアは6、7番手で、昨年の覇者ドリームバレンチンノは中団うしろの外目を追走していた。

4コーナーから差を広げにかかって直線勝負に持ち込んだコーリンベリー。それを目がけて追い出した後続の中から、1頭抜け出して差を詰めてきたのはダノンレジェンドだった。しかし「直線は脚もたまっていたし、追ってからの反応もとても良かった」とコーリンベリーの松山弘平騎手。徐々に迫るその追撃を退け、1200メートルをまんまと逃げ切ってみせた。勝ちタイムは1分10秒9(不良)。

ダノンレジェンドは3/4馬身届かず2着に敗れ、その2馬身差の3着にベストウォーリアが続いた。5着までを中央勢が独占し、地方馬最先着は、昨年2着だったサトノタイガー(浦和)で6着だった。

今年で15回目となるJBCスプリントJpnⅠ、JBCクラシックJpnⅠで、牝馬の優勝は初めてという歴史に残る勝利でジーワン初制覇を獲得したコーリンベリー。そして、管理する小野次郎調教師と松山弘平騎手もジーワン初勝利を飾り、人馬ともに記念すべきレースとなった。今回が転厩初戦ということもあり、「これまで自分が手掛けてきた馬ではないので、とにかく責任を果たせてホッとしています」と小野調教師は安堵の表情を浮かべた。

昨年はJBCレディスクラシックJpnⅠに出走したものの9着に終わったコーリンベリーだが、松山騎手は「去年と比べると馬体もひと回り大きくなり、何より精神面が強くなったことが大きい。男馬相手にすごい馬です」と、この1年コンビを組み続けてきたパートナーを称えた。小野調教師は「今の落ち着きであれば距離の融通性はある。1600メートルまでなら大丈夫だろう」とコメントしており、今後はフェブラリーステークスGⅠが目標になりそうだ。ダートスプリント界の頂点に立った快速牝馬コーリンベリー。今後もそのスピードで、並いる牡馬たちを翻弄することだろう。

2着のダノンレジェンドは、最大目標だったこのレースに向けて、ここまで順調に結果を残してきただけに悔しい結果となった。「スタートも良くてポジションもうまく取れたけど、前が止まらなかった」とミルコ・デムーロ騎手。村山明調教師は「状態も良かったし、レースの位置取りも良かったけど、相手にうまく逃げられてしまった」と言葉少なに語った。

3着だったベストウォーリアの川田騎手は「スタートで滑ってしまい、1200メートルのペースなのでなかなか前との差が縮まらなかった。後半は挽回したんですが…」とコメントを残した。

そしてレース後、残念な出来事があった。兵庫のタガノジンガロが入線後(14着)、急性心不全のため他界した。通算成績40戦12勝(うち重賞4勝)。2014年のかきつばた記念JpnⅢを制し、今年も黒船賞JpnⅢ・3着、サマーチャンピオンJpnⅢ・2着など、地方競馬を代表するスプリンターとして交流重賞を盛り上げてくれた。その功績を称えると供に冥福を祈りたい。

COMMENT

松山弘平 騎手

ずっと乗せていただいたこの馬でジーワンを勝てて感謝の気持ちでいっぱいです。今日はスタートも上手に出てくれて自分のペースで楽に逃げることができました。直線を向いて手前もしっかり変えてくれたのも良かったです。スピードがあって、直線でもう一段階脚が使えるというのがこの馬の強みですね。

小野次郎 調教師

転厩初戦ですがここまで順調に調教もこなせました。前走出遅れたこともあり、今日も出遅れるようであれば無理をせずに新しい面を引き出してくれればと松山騎手には指示しましたが、好スタートで自慢のスピードを生かせましたね。この形で直線に入れば最後までがんばれそうだと思いながら見ていました。

文:秋田奈津子
写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)、NAR

第5回JBCレディスクラシック JpnⅠ

優勝馬ホワイトフーガ

11月3日 大井競馬場 1800m

控える競馬で直線抜け出し5馬身差
成長著しい3歳馬がダートの女王に

前哨戦のレディスプレリュードJpnⅡでは、他馬より重い別定重量を背負いながら圧勝ともいうべきレース内容で約半年ぶりの勝利を挙げたサンビスタ。予想紙にはズラリと◎が並び、ファンも連覇濃厚と見て断然人気となって、迎えた第5回のJBCレディスクラシックJpnⅠ。しかし勝ったのは、4番人気の3歳馬、ホワイトフーガだった。

レディスプレリュードJpnⅡと同様、迷わず逃げたのは大井のブルーチッパーで、カチューシャ、キャニオンバレーと続き、人気の2頭サンビスタとアムールブリエは4番手で併走。レディスプレリュードJpnⅡではブルーチッパーの直後を掛かり気味に追走したホワイトフーガだったが、今回は有力2頭のうしろ6番手を追走した。

レース前、「ここ2走より控えてくれ」と鞍上に指示を出したという高木登調教師。ブルーチッパーの逃げたペースが1000メートル通過で59秒4。レディスプレリュードJpnⅡより1秒8も速い流れになったことで、高木調教師が授けた作戦がズバリと当たることになる。

3コーナーからアムールブリエが仕掛け、これを追ったサンビスタが4コーナーで並びかけ、この人気2頭が直線を向いて先頭に立ちかけたところ、内を突いて抜け出したのがホワイトフーガだった。

2番手以下との差はみるみる広がり、ホワイトフーガは2着のサンビスタに5馬身差をつけての圧勝。ホワイトフーガと道中同じような位置を進んでいたトロワボヌールが2馬身半差で3着に入り、アムールブリエは4着。離れて地方最先着の5着には、南関東B級で好走までという伏兵のリュウグウノツカイが入った。ハイペースで飛ばしたブルーチッパーは、レディスプレリュードJpnⅡ(6着)より着順を下げての8着だった。

ホワイトフーガの勝因はいくつか考えられる。まず3歳馬の定量53キロが、デビュー以来もっとも軽い斤量だったこと。前述のとおり、控える作戦が速い流れにピタリとハマったこと。3~4コーナーでラチ沿いをロスなく回ってきて、4コーナーで内を突いたという大野拓弥騎手の判断も見事だった。そして何より、「一戦一戦、古馬との力差が近づいているのがわかった」(大野騎手)という成長もあったのだろう。

一方、サンビスタの岩田康誠騎手は、「4コーナーで(アムールブリエに)並んでなんとかなると思ったけど、前回のような勝つ時の手ごたえとは違っていた」。アムールブリエの濱中俊騎手は、「(湿った)軽い馬場は合わないし、距離も2000メートル以上あったほうがいい。流れに乗れず力を出せなかった」とのこと。

前走からいくつものプラス要因があったホワイトフーガに対して、有力2頭は力が発揮できなかった、もしくは力を発揮できる状況にはなかった。それらのプラス・マイナスが、今回の大きな着差として結果に表れたといえそうだ。

いずれにしても、若い3歳馬からダートの新女王が誕生したことだけは間違いない。まだ5回と歴史は浅いが、このレースを3歳馬が制したのは初のこととなった。

COMMENT

大野拓弥 騎手

今日はいつもよりポジション下げようと思って、そのとおりの競馬ができましたし、コースロスなくいい競馬ができました。手ごたえがすごくよくて、突き抜ける感じはありました。牝馬ですがすごいパワーがありますし、持久力もあります。一戦一戦強くなっているので、どこまで強くなるのか楽しみです。

高木登 調教師

この中間も順調に来ていたので、あとは脚の使いどころだけということをレース前に大野と話しました。4コーナーで出られるかなと思って心配したんですが、脚色と手ごたえを見たら、来るなっていう感じはありました。古馬の壁はあるのかなと思っていたんですが、ジーワンで勝ててよかったです。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

注記

当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。