ファイナルは南関東が5年連続勝利
地方で成熟したダート短距離血統
2018年8月9日
シリーズ初挑戦の馬たちが活躍
特異な距離で行われるシリーズだけに、例年リピーターの活躍が目立っていたが、今年は園田FCスプリントを同着で制した高知のカイロス以外、このシリーズ初出場の馬が勝ち、フレッシュな顔ぶれの活躍が目立った。ただフレッシュといっても年齢的なことではなく、日本海スプリントを勝ったジッテが4歳、習志野きらっとスプリントで2着のクルセイズスピリツが3歳だった以外、3着以内はいずれも5歳以上で、ベテラン勢が活躍した。
早池峰スーパースプリント
早池峰スーパースプリントは、4コーナー最後方だったナムラバイオレットがラチ沿いを追い込んで差し切るという破天荒なレースぶり。これには騎手、調教師も驚いていた。中央時代は芝1400メートルで2勝。岩手移籍後は1600/1800メートル戦を4戦したあとで、まさに隠れた素質を発揮することとなった。その後は1200メートルの岩鷲賞で2着と好走しており、このシリーズがきっかけで活躍の場を得たといえそうだ。
川崎スパーキングスプリント
川崎スパーキングスプリントを勝ったのは、格下から挑戦、5歳牝馬で51キロのラディヴィナ。直線先頭に立ったフラットライナーズが3連覇かと思ったところ、ラディヴィナはラチ沿いを伸びて差し切った。昨年秋から1000メートル以下に特化して使われるようになり、これで川崎900メートルは6戦全勝。しかし4月には船橋1000メートルで2着があり、ファイナルの習志野きらっとスプリントも7着。どうやら川崎900メートルに適性ありといえそうだ。
園田FCスプリント
園田FCスプリントは、佐賀のエイシンテキサスが逃げ込もうかというところ、高知のカイロスがゴール前一気に迫り、同着での決着となった。今回が同着のため、このレースは今年まで8回で9頭の優勝馬がいるが、兵庫4勝、高知3勝、佐賀2勝となった。エイシンテキサスは佐賀に所属する前は中央、兵庫、船橋に所属して5勝を挙げ、そのうち4勝が1200メートル以下。佐賀の古馬短距離戦はほとんどが1400メートル戦だが、今年2月に組まれたB級特別の900メートル戦を3着、5月の同じくB級特別900メートル戦を勝って臨んだ一戦だった。佐賀B級勝ちからの挑戦ということでは6番人気も当然で、やはり小回りのワンターンというコースが合うのだろう。一方のカイロスは前年4着からの勝利。福山デビューで、大井、高知と移籍し、高知所属としては昨年の福永洋一記念以来の重賞2勝目となった。
日本海スプリント
このシリーズで今年変わったのは、東海・北陸地区のトライアル、名古屋でら馬スプリントが廃止となって、同地区では金沢に日本海スプリントが新設されたこと。名古屋ではA級、B級、C級のクラスごとに名古屋でら馬スプリントへ向けた選抜レースが設定されていたが、近年は出走馬が集まらず不成立となることが多かった。日本海スプリントの舞台となった金沢900メートル戦は、2歳戦を除くと2007年10月29日以来久しく行われておらず、昨年、名古屋でら馬スプリントの前哨戦として4月2日に行われたスーパースプリント賞が、それ以来の3歳以上による900メートル戦だった。今年は6月3日にスーパースプリント賞が行われ(勝ち馬:グランパルファン)、そして行われた第1回の日本海スプリントは、予想されたとおりのレコード決着。勝ったのは中央500万下から今年転入したジッテ。今の金沢の馬場で圧倒的に優位とされる内枠から逃げ切った。中距離でも結果を残しているだけに、距離適性の幅はありそう。そして昨年の名古屋でら馬スプリントを制していた笠松のハイジャが3着。中央オープンの実績から人気になったナガラオリオンは4着で、忙しい流れは合わなかった。
グランシャリオ門別スプリント
グランシャリオ門別スプリントは、単騎で逃げたカツゲキライデンが、直線追い込んだメイショウアイアンをクビ差でしのいでの勝利。昨年秋の門別再転入以降、冬季の大井一時移籍時も含めて1200メートルに特化して使われ、北海道スプリントカップJpnⅢも地元最先着の5着と好走していた。2着のメイショウアイアンは元中央準オープン。連覇を狙ったタイセイバンデットは休み明けもあって3着だったが、上位人気3頭での決着で三連複は310円。北海道の古馬のこの路線の上位馬は全国的に見てもレベルが高い。
習志野きらっとスプリント
ファイナルの習志野きらっとスプリントには、トライアルの勝ち馬からは川崎スパーキングスプリントを勝ったラディヴィナ、園田FCスプリント同着優勝のエイシンテキサスが出走。しかし勝ったのは、東京スプリントJpnⅢ(9着)以来3カ月ぶりの7歳馬アピアだった。1400メートルや1600メートルも何度か使われたことがあるが、中央に移籍していた時期も含めてキャリアのほとんどは1200メートル以下。3歳時には優駿スプリントを制しており、そして7歳の今年、それ以来の重賞勝ちが船橋記念と習志野きらっとスプリント。4年越しで見事に地方のスプリントチャンピオンに返り咲いた。
JBCスプリント勝ち種牡馬の産駒が3頭
勝ち馬の血統を見ると、あらためて説明する必要もないであろうサウスヴィグラス産駒がラディヴィナ(川崎スパーキングスプリント)とカイロス(園田FCスプリント)の2頭。
ナムラバイオレット(早池峰スーパースプリント)の父チーフベアハートはブリーダーズカップ・ターフを勝っているが、産駒にはビービーガルダン(スプリンターズステークス2着)、トーホウレーサー(ニュージーランドトロフィー)など短距離の活躍馬もいる。母の父キンググローリアスはオールマイティな種牡馬だが、産駒にセタノキング(さきたま杯)、ナムラコクオー(プロキオンステークス)などがいてダート短距離の印象もある。
園田FCスプリントを勝ったもう1頭、エイシンスパルタンは、父のスパイツタウンがブリーダーズカップ・スプリントの勝ち馬で、母の父フォレストワイルドキャットは自身が6ハロンのGⅢで2勝を挙げ、産駒に6ハロンのGⅠ馬が2頭いるという、バリバリのアメリカ・ダート短距離血統。
ジッテ(日本海スプリント)の父ロードアルティマは中央準オープン勝ちまでで評価が微妙だが、母の父タイキシャトルの産駒にはメイショウボーラー(フェブラリーステークス)、サマーウインド(JBCスプリント)というダートのGⅠ/JpnⅠ勝ち馬がいる。
カツゲキライデン(グランシャリオ門別プリント)の父ノボジャックは第1回JBCスプリントの勝ち馬で、産駒には岩手のラブバレットもいる。ちょっと驚いたのが母の父ホスピタリテイで、1980年代初期に大井から中央に移籍して活躍が期待された馬の孫がこうして現役で活躍しているというのは感慨深い。
そしてアピア(習志野きらっとスプリント)の父ファスリエフは、産駒の活躍のほとんどが地方のダート。各レースの勝ち馬の血統を眺めると、いかにもダート短距離という馬名が並んでいる。
特筆すべきは、ノボジャック、サウスヴィグラスという、JBCスプリントの初期の勝ち馬の産駒から3頭も勝ち馬が出たこと。もう17年も前のことになるが、現在に至るまで日本で唯一のダート短距離GⅠ/JpnⅠであるJBCスプリントを創設した意義はおおいにあったといえるのではないか。
文:斎藤修
写真:いちかんぽ