シリーズとなって2年目
日本のダート血統が活躍
2018年7月6日
1番人気馬が苦戦
ダービーシリーズとなって2年目。昨年からの大きな変更といえば、北海優駿が3週ほど繰り下げられてシリーズの最終戦となり、逆に昨年は最終戦として行われた石川ダービーが3週間繰り上げられた。結果的に、北海優駿と石川ダービーの開催日が入れ替わる日程となった。
そして終盤に行われる高知優駿、北海優駿が全国交流となっており、したがってこの2戦には、すでに“ダービー”を戦った馬たちが参戦可能。実際に、高知優駿には大井、金沢から各1頭、佐賀から2頭の遠征があり、北海優駿には名古屋からの遠征があった。
“ダービーウィーク”の頃は、全国のダービーが短期間に集中して行われていたため、1頭の馬が複数のダービーに出走することはほとんど不可能だった。それが3週間以上に渡っての実施となり、そして今年、佐賀と高知のダービーを制することとなったのが、佐賀のスーパージェットだった。
今年の傾向として顕著だったのは、1番人気馬が次々と負けてしまったこと。全8レース中、単勝1倍台の断然人気となった馬が5頭もいて、しかし勝ったのは岩手ダービーダイヤモンドカップのチャイヤプーンだけ。3連単の配当では、東京ダービーが17万円、高知優駿が103万円、北海優駿が96万円という大波乱のレースもあった。
佐賀所属馬が高知でリベンジ
それでは1レースずつ簡単に振り返っていこう。
九州ダービー栄城賞
九州ダービー栄城賞では近年、他地区の騎手が何名か騎乗することもめずらしくなくなり、今回は4頭に他地区の騎手が起用された。今年から一冠目となった佐賀皐月賞を制したリンノゲレイロには北海道の桑村真明騎手が起用され、これが単勝1.9倍の1番人気。しかし気性面に難があるようで、8着に沈んでしまった。勝ったのは、門別、名古屋、兵庫と移籍してきて佐賀3戦目のスーパージェット。佐賀皐月賞に出走権はなく、古馬B級特別を2戦してのダービー挑戦だった。他場から移籍して間もない馬がダービーのようなレースを勝ってしまうことには常に賛否の意見があるが、地方競馬も全国どこからでも馬券が買え、リアルタイムでレースも見られるようになったいま、馬主も適材適所で移籍させながらレースを使うケースが増えた。こうしたことは時代の流れとして受け止めるしかない。
石川ダービー
石川ダービーでも北日本新聞杯を制したノブイチが単勝1.5倍という断然の支持を受けたが、スタートから道中も行きっぷりが悪く、3着まで押し上げるのがやっと。3→2→1番人気での決着ではあったが、単勝1,860円、3連単16,730円は波乱の決着といっていいだろう。勝ったのはアルファーティハ。中央未勝利から転入してここまで1勝のみ。北日本新聞杯では差のある5着だっただけに、その人気も当然だろう。それでも3番人気になったのは鞍上が吉原寛人騎手だったからかもしれない。今年の金沢の馬場はとにかくラチ沿いの逃げ馬が止まらない。12頭立て11番枠にもかかわらず、流れが落ち着いたところで一気にハナをとり、定石通りラチ沿いを進んで後続を寄せ付けなかった。吉原騎手の見事な状況判断といえよう。
東海ダービー
今年のダービーシリーズで、これは間違いないと思われていたのが、東海ダービーのサムライドライブ。デビューから負けなしの10連勝。それも一方的なレースばかり。東海地区限定戦だけに、ほとんどが勝負付けの済んだメンバー。単勝元返しは当然のこと。後続との差を広げて直線を向いたあたりでは、間違いないと思われた。しかし道中、中団を追走していた笠松のビップレイジングが並ぶ間もなく差し切った。ビップレイジングは、一時的に中央に移籍して戻ったあと、これで4戦3勝。中央の厳しいペースを経験して馬が変わった可能性はある。一方のサムライドライブはこれが年明け7戦目。状態に問題はなかったのかどうか。ときにこうした波乱が起こるのも競馬だ。
東京ダービー
東京ダービーを制したのは、NARグランプリ2歳最優秀牡馬を受賞していたハセノパイロ。羽田盃3着から、東京ダービーが3歳になっての初勝利。2歳時のハイセイコー記念以来、まさに復活とでも言うべき約7カ月ぶりの勝利となり、その厩舎力は評価されていい。同馬は昨年度から始まった『地方競馬強化指定馬』に選ばれていたということでは、意義深いダービー制覇だった。一方、羽田盃からの二冠を狙ったヤマノファイトは、スタート後の直線で外から玉突き上に押し寄せてきた馬たちとラチの間で狭くなり、位置取りを下げざるを得ない不利があったのは残念だった。
兵庫ダービー
兵庫ダービーは、一冠目の菊水賞で1番人気に支持されながら出遅れて4着に敗れていたコーナスフロリダが巻き返しての勝利となった。兵庫のこの世代は確たる主役不在の混戦だが、園田ジュニアカップを制し、兵庫の最優秀2歳馬に選出されていたコーナスフロリダが、ここでも復活というべきダービー制覇となった。鞍上は名古屋の岡部誠騎手だった。
岩手ダービーダイヤモンドカップ
冒頭でも触れたが、今年のダービーシリーズで唯一、1番人気馬が盤石の競馬を見せたのが、岩手ダービーダイヤモンドカップのチャイヤプーン。中団よりうしろから進めて4コーナー手前で先頭に並びかけ、直線唯一食い下がったエルノヴィオに4馬身差をつけ、力の違いを見せつけた。馬主は大久保和夫さん。昨年はベンテンコゾウで岩手所属ながら北海道の三冠を目指してそのうち二冠を制したが、今度はチャイヤプーンで岩手の三冠を狙うことになるようだ。
高知優駿
高知優駿は、冒頭でも触れたとおり他地区から4頭の遠征があり、勝ったのは九州ダービー栄城賞を制していたスーパージェット。近年、佐賀競馬場で行われてきた四国・九州交流の3歳重賞では、2014年の九州ダービー栄城賞を高知のオールラウンドが制したのをはじめ高知勢が優勢だったが、佐賀勢にとってはここでリベンジとなった。関係者にとっては、大井、金沢からの遠征馬をまとめて負かしたことでも自信になったことだろう。
北海優駿
今年はシリーズ最終戦として行われた北海優駿。昨年までは一冠目の北斗盃がシーズン開幕直後という日程で、休養明け初戦という馬が多いなかで3歳三冠がスタートしていたが、今年は北斗盃が昨年までの北海優駿の時期に繰り下がった。北斗盃は2歳時から世代の中心的存在で南関東から戻ったサザンヴィグラスが圧勝したが、北海優駿では北斗盃4着だったカツゲキジャパンが逆転。2歳時の門別では一般の未勝利戦を勝ったのみだったが、冬季間の名古屋所属を経ての成長を見せた。
血統面に見るダート競馬の成熟
全8レースの勝ち馬で所属場生え抜きは、東京ダービーのハセノパイロ(船橋)、兵庫ダービーのコーナスフロリダの2頭だけ。北海優駿のカツゲキジャパンは門別デビューだが冬季に名古屋に移籍している。そして佐賀と高知を制したスーパージェット、東海ダービーのビップレイジング、岩手ダービーのチャイヤプーンら、北海道デビュー馬はやはり多い。石川ダービーのアルファーティハは中央未勝利からの転入だった。
血統面ではバラエティにとんでいて、複数のレースを制した種牡馬は、シリーズ2勝を挙げたスーパージェットの父カネヒキリのほか、東京ダービーのハセノパイロ、石川ダービーのアルファーティハの父がパイロだった。
血統を見ていて目に留まったのが、カツゲキジャパンの母の父ホスピタリテイ。同馬が羽田盃を制したのが1982年のことで、それから36年も経ってなお、母の父の欄でその名を見るとは驚きだ。ホスピタリテイについて簡単に触れておくと、大井でデビューして羽田盃を制するなど8戦8勝で中央に移籍。セントライト記念を制し、ジャパンカップの前哨戦として行われていたオープンの国際競走でカナダのフロストキングの2着に敗れたが、生涯で敗戦はそれだけ。脚部不安のため早くに引退したが、種牡馬として、道営デビューで中央に移籍して皐月賞を制したドクタースパートなどを出した。
チャイヤプーンの母サイレントエクセルは、ビューチフルドリーマーカップ連覇など岩手で重賞6勝。その父ウイングアローは、フェブラリーステークスや、第1回ジャパンカップダートを制したダートのチャンピオンという血統だ。
ハセノパイロの母タイキアヴェニューは園田の新春賞を制した。
コーナスフロリダは、父がダートGI・9勝のエスポワールシチー、母の父がJBCクラシック3連覇などダートGI・6勝のアドマイヤドンという、ダートチャンピオンの組み合わせから生まれてきた。
さらにスーパージェットの父カネヒキリも含め、勝ち馬の血統には、日本のダートで活躍した馬たちが目立つ。かつてであれば日本のダートでチャンピオン級の活躍をした馬ですら種牡馬になることが難しく、種牡馬になれたとしても繁殖牝馬に恵まれず、産駒が活躍することはめったになかった。それを思うと、ダービーシリーズの勝ち馬の血統表を見るだけで、日本のダート競馬がここ10年、20年ほどでいかに成熟してきたかがわかる。
JRAネット投票&グリーンチャンネルの効果か
ダービーシリーズ各レースの売上は表のとおり。
2018ダービーシリーズ売得額
施行日 |
レース名 |
売得額(円) |
前年比 |
5月27日(日) |
九州ダービー栄城賞 |
125,409,400 |
104.3% |
5月29日(火) |
石川ダービー |
113,221,500 |
151.7% |
6月5日(火) |
東海ダービー |
125,577,300 |
133.9% |
6月6日(水) |
東京ダービー |
722,525,600 |
108.6% |
6月7日(木) |
兵庫ダービー |
123,565,200 |
98.8% |
6月10日(日) |
岩手ダービーダイヤモンドカップ |
126,767,800 |
116.5% |
6月17日(日) |
高知優駿 |
129,557,300 |
137.6% |
6月20日(水) |
北海優駿(ダービー) |
137,934,100 |
76.2% |
東京ダービー以外、売得額が1億1千~3千万円台の範囲に収束しているのが興味深い。在宅(ネット)投票が馬券の売上の大部分を占めるようになり、南関東以外はどこでやってもほとんど同じような売上になるということだろうか。
もっとも大きな伸びを示したのが、石川ダービーの前年比151.7%で、売得額の内訳を見るとネット系の伸びが目立つ。ダービーシリーズで最後(6月20日)に行われた昨年は、名古屋、船橋、佐賀と4場開催だったのに対し、5月29日に行われた今年は競合したのが浦和だけだった。
逆に大きく減らしたのが、開催時期を3週間ほど繰り下げた北海優駿で、前年比76.2%。昨年は、浦和、笠松、園田が開催していてナイターは門別の単独開催だったが、今年は船橋ナイター(ほかに名古屋、園田が昼間開催)と重なった影響はあったかもしれない。
またグリーンチャンネルでは昨年から日曜日の中央競馬中継が終わったあと、17時から地方競馬中継が始まった。昨年はおもにJRA・GI開催日を中心に日数が限られていたが、今年からはほとんど毎週に近い形で日曜日の中継が行われている。日本ダービーと同日の佐賀・九州ダービー栄城賞は、昨年も今年もグリーンチャンネルでの中継があったが、今年あらたに中継された岩手ダービーダイヤモンドカップ、高知優駿は、売得額の内訳を見るとJRAネット投票での売上が全体の売上を押し上げているので、グリーンチャンネルで中継された効果はあったと思われる。
文:斎藤修
写真:いちかんぽ