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連載第33回 1994年 みちのく大賞典
『馬が繋ぐ人の縁 モリユウプリンス』
1994年 みちのく大賞典 モリユウプリンス
Movie(映像ファイルサイズ:18.9MB)
今からちょうど20年前の1994年。その年の春、日刊競馬に入社した筆者は、当時中央競馬のローカル版を担当していた。しかし、学生の頃から中央、地方関係なくあっちこっちを巡っていたし、帰省のついでに福島や上山、水沢、盛岡など通り道の競馬場が開催していれば、ちょくちょく寄り道をしていたから、仕事になってからも特に中央だ、地方だという拘りはなかった。
7月31日、先輩の故栗原正光が何かの都合で行けないから行って来いというので、盛岡競馬場に行ってきた。第22回みちのく大賞典。当時岩手最高峰のレース、そして当時日本記録だったデビュー以来18連勝を含む、30戦29勝2着1回のトウケイニセイがお目当てだった。既に何度かレースを観ていたが、前年は就職活動だったりで、トウケイニセイを観るのは久しぶりであった。
今では何事があってもビクともしない筆者であるが、当時は入社4ヵ月の新人だ。競馬場に行ったら、まずは現地の記者席に行ってご挨拶。そして装鞍所付近でもご挨拶だ。その時真っ先に紹介されたのが当時岩手ケイシュウニュースのスター記者、松尾康司氏であった。まだ30代前半ぐらいだったと思うが、新人の目にはスター記者がキラキラして見えたことを覚えている。そして今よりも健康的だったエイカンのU記者、後に韓国競馬通で知られる事となるケイシュウニュースのU記者など、今でも付き合いの深いひと達と知り合った。ついでにもうひとり、記者ではないが痩せたヒゲの男とも知り合ったのもこの日だったか。
そうこうしている間にもうレースの時間。パドックに現れたトウケイニセイは、8歳馬らしく相変わらず堂々としていた。浅屈腱炎を患っている左前には白いバンテージが巻かれていたが、歩様は悪くはない。屈腱炎は今でこそ幹細胞移植の再生治療が出来るようになったが、20年前はまだ不治の病と言われていた。2番人気は6歳のモリユウプリンス。長らく岩手を牽引してきたスイフトセイダイ、グレートホープのSG2強を倒し頂点の一歩手前まできたところで、前年のみちのく大賞典から対トウケイニセイ8連敗。3番人気は4歳馬トウホクグラスだが、前年のダービーグランプリ6着以来の久々で、他も勝負付けの済んだ相手。場内もトウケイニセイ断然の空気だった。
アフエクシヨネツトがスローペースの逃げ。2番手の内にトウケイニセイ、外にトウホクグラス、その後ろにグレートホープとユウユウサンボーイ、モリユウプリンスは5番手といった態勢。
3コーナー手前の坂の登りでアフエクシヨネツトが後退、トウケイニセイとトウホクグラスが並んで先頭に立つ。その直後に迫るモリユウプリンス。
直線は内トウケイニセイ、中トウホクグラス、外モリユウプリンスの3頭が追い比べ。
トウケイニセイが追いすがるトウホクグラスを退けるも伸びひと息で2着が精一杯。逆に外のモリユウプリンスは脚色良く、内2頭の接戦を尻目に抜け出し1馬身半の差を付け快勝。トウケイニセイを破る大金星を挙げた。
モリユウプリンスを管理する千葉四美調教師にとっては悲願のタイトル。そして鞍上の小林俊彦騎手にとっても遂に果たしたトウケイニセイ超えとなったが、トウホクグラスを交わした後もチラッと2度内を見たように「ゴールに入るまで安心できなかった」と。
一方敗れたトウケイニセイは、前走後洗い場で脚をぶつけて順調さを欠いた影響があったか。改めてレースのビデオを観ると、TM2強の間にトウホクグラスがいて、トウケイニセイがまずそこに神経を使わなければならなかった分、モリユウプリンスが有利にレースを進められた展開の利も大きいだろう。実際、翌年のみちのく大賞典までは再びトウケイニセイの天下となる。
あれから20年経ち、トウケイニセイもモリユウプリンスも既にこの世になく、熱戦の舞台となった盛岡競馬場もオーロパークへ移転した。あの日出会ったひと達とは立場や状況は変わりつつも、今でも「濃密な関係」を続けている。この仕事をしていると、馬が人と人とを繋いでいると感じる事が多い。トウケイニセイとモリユウプリンスが繋いでくれた縁であり、みちのく大賞典はその場であった。そういった意味でも忘れられないレースのひとつである。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
写真●いちかんぽ
みちのく大賞典 平成6年(1994年)7月10日 | |||||||||
サラブレッド系 1着賞金2000万円 盛岡 2,000m 曇・良 | |||||||||
着順 |
枠番 |
馬番 |
馬名 |
所属 |
性齢 |
重量 |
騎手 |
タイム・着差 |
人気 |
1 | 7 | 7 | モリユウプリンス | 岩手 | 牡6 | 55 | 小林俊彦 | 2:06.2 | 2 |
2 | 4 | 4 | トウケイニセイ | 岩手 | 牡8 | 55 | 菅原勲 | 11/2 | 1 |
3 | 8 | 8 | トウホクグラス | 岩手 | 牝5 | 55 | 小竹清一 | 1/2 | 3 |
4 | 1 | 1 | ユウユウサンボーイ | 岩手 | 牡7 | 55 | 草地保隆 | 8 | 5 |
5 | 5 | 5 | グレートホープ | 岩手 | 牡9 | 55 | 千田知幸 | 21/2 | 4 |
6 | 6 | 6 | アーデルジーク | 岩手 | 牡8 | 55 | 小嶋久輝 | 1/2 | 6 |
7 | 2 | 2 | タンホイザー | 岩手 | 牡6 | 55 | 三野宮通 | 8 | 8 |
8 | 3 | 3 | アフエクシヨネツト | 岩手 | 牡5 | 55 | 佐藤雅彦 | 大差 | 7 |
払戻金 単勝260円 複勝100円・100円・130円 馬連複150円 |
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