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連載第32回 1992年 ターフチャンピオンシップ

『最後のターフチャンピオン ヘラヨシオー』
1992年ターフチャンピオンシップ ヘラヨシオー

Movie(映像ファイルサイズ:18.4MB)
 「地方競馬といえばダート」、これはほぼ競馬ファンの常識に近い。実際は盛岡競馬場のように1996年に現在地へ移転した際に、1周1400m、高低差4.6mの芝コースを併設しているところもあるが、地方競馬全体の中ではその競走数は少なく、概ね「地方競馬といえばダート」だといえる。
 実は1971年から1995年まで愛知県競馬組合主催の中京競馬開催で芝のレースが行われていた。現在ダートで行われている東海桜花賞や駿蹄賞が、それまでは芝のレースとして行われていた。あのオグリキャップも笠松在籍時の1987年10月14日の中京盃(芝1200m)を1分10秒8のタイムで勝っている。JRA移籍初戦のペガサスステークスは初芝ではなかったのである。
 現在、盛岡競馬場でも芝の地方競馬全国競走が5レース行われているが、それ以前に既に「芝の地方競馬全国交流競走」があった。ターフチャンピオンシップである。このレースが創設されたのが1990年であるが、前年の1989年に前身となる「名古屋市制100周年記念」が行われている。1着賞金4000万円(当時としては破格)、中京芝2000m、中央招待馬4頭、地方選定馬8頭による中央・地方交流競走であった。レースはJRAのシヨノロマン(武豊騎手)が1分58秒3のレコードタイムで制している。この記念碑的レースの翌年からターフチャンピオンシップと名を改められ、4歳馬(現3歳)による1着賞金3000万円の、今日で言うところの地方競馬全国交流(他地区選定交流)として行われるようになったのである。
 ヘラヨシオーは1991年9月28日、大井の福島酉次厩舎からデビュー。初戦を勝った後、船橋の出川己代造厩舎に移籍した。クラシック路線には乗れなかったが、4勝(着外2回)で臨んだしらさぎ賞で2着。続く夏場のB3、A3を連勝し次に挑んだのが芝の交流レース「第3回ターフチャンピオンシップ」だった。
 単勝1番人気に推されたのは東京ダービー4着の大井・トキノクンショウ。そして2番人気にヘラヨシオー、3番人気に芝の駿蹄賞2着、東海ダービー2着、岐阜王冠賞1着、そして後に中央に移籍しフェブラリーハンデで2着したシンワコウジ。
 ゲートが開いて飛び出したのは芝の駿蹄賞を制したキングランナー、その直後にウインザーミカと、3番手にヘラヨシオー、その直後に1番人気のトキノクンショウという隊列。後続はやや離され気味。
 トキノクンショウは初芝に戸惑ったか掛かり気味で2番手に、一方ヘラヨシオーは絶好位3番手で馬なりで追走。その外にはシンワコウジが迫り3~4コーナーから直線へ。
 トキノクンショウが動き、外からスノーボールも仕掛けて来たところ、石崎隆之騎手がチラッ、チラッと何度か外を見た後、逃げ粘るキングランナーに並びかけ一気にスパートする。
 ヘラヨシオーの伸びは素晴らしく、あっという間に後続を引き離す。実況アナもその末脚を目の当たりにして何を言っているのかわからない。そして混戦の2番手争いを尻目に、5馬身の差を付けてゴールした。
 石崎騎手は「馬を完璧に仕上げた先生のおかげ」と言い、出川己代造調教師は「石崎が上手く乗った」と言う。
 南関東でも同じような光景を何度か目にしたことはあるが、この師弟は80~90年代屈指のゴールデンコンビと言っても過言ではない。

 ターフチャンピオンシップ快勝で勇躍その名を全国にとどろかせたヘラヨシオー。その後のダービーグランプリは1番人気に推されたものの10着惨敗。暮れの東京湾カップも同じく1番人気で7着に敗れた。浦和に移籍するなどしたが、その後も全くいいところなく、ターフチャンピオンシップ以降11戦し未勝利。1996年の京葉盃(A2下)を最後に現役を引退した。
 引退後は福島県の乗馬クラブで主に障害の乗馬として第2の馬生を送っていたが、2007年1月、調教中に倒れてそのままこの世を去った。
 ターフチャンピオンシップも第3回を最後に廃止され、計らずもヘラヨシオーの名が最後の勝ち馬として後世まで記憶と記録に残ることとなった。
文●小山内完友(日刊競馬)
写真●いちかんぽ
競走成績
ターフチャンピオンシップ 平成4年(1992年)10月10日
  サラ系4歳 1着賞金3000万円 中京 芝2,000m 晴・良
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 1 1 ヘラヨシオー 船橋 牡4 56 石崎隆之 2:03.1 2
2 6 7 ニシキトウカイ 佐賀 牡4 56 鮫島克也 5 8
3 4 4 スノーボール 愛知 牝4 54 兒島真二 ハナ 9
4 5 5 キングランナー 笠松 牡4 56 濱口楠彦 11/2 6
5 3 3 トキノクンショウ 大井 牡4 56 鈴木啓之 1 1
6 2 2 キングダイハード 大井 牡4 56 的場文男 11/2 4
7 7 10 システロン 笠松 牡4 56 仙道光男 2 7
8 8 11 ウットマン 新潟 牡4 56 渡邉正治 4 11
9 8 12 シンワコウジ 愛知 牡4 56 櫻井今朝利 クビ 3
10 7 9 ホリーキャスト 浦和 牡4 56 桑田豊 3/4 12
11 5 6 アテヨーノソロン 愛知 牡4 56 井手上慎一 2 5
12 6 8 ウインザーミカ 愛知 牝4 54 鈴木真一 5 10
払戻金 単勝420円 複勝170円・250円・310円 馬連複2,510円