「北海道には梅雨がない」と言われる。しかし、梅雨の時期に北海道の太平洋側で雨が降る“蝦夷梅雨”と言われる独特の気候がある。函館や門別で一定の期間、雨が続く時があるのは、蝦夷梅雨の影響である。特に今年は、JRA函館開催は雨にたたられ、門別競馬も例年に比べると開催中は雨の影響を受けている。
グランシャリオ門別スプリント当日、第1レースの頃までは曇り空だったが急激に雨が降り、馬場状態は稍重から重、不良と一気に悪化した。9レースの頃には雨は上がり、降ってもパラパラという状態だったが、結局、昨年に続いて不良馬場でレースを迎えることになった。
外枠のトルシュローズとフジノパンサーが好スタートを切ったが、内枠のナリユキマカセも先手を取りたい構えを見せた。道悪での時計勝負となると、前でレースをしたい騎手心理が働く。まして1000メートルの超短距離戦。スタートダッシュから、11秒8-11秒3=23秒1のラップを刻み、見応えある先行争いが繰り広げられた。
前走北海道スプリントカップJpnⅢでは2着に追い込んできたメイショウアイアンだが、「本当は外枠が欲しかったんですが、2番だったので、イチかバチか前でレースをしてみるように指示を出したんですよ」と、田中淳司調教師。好スタートを切り、気合をつけながら中団の内でレースを進めた。
「こちらが思い描く位置を取りに行けるのは、状態が良いからでしょう。自ら行く気を見せてくれました」と、落合玄太騎手はレースを振り返る。
直線でフジノパンサーが抜け出し、ショコラブランが捕まえたと思った瞬間、メイショウアイアンが自慢の末脚を繰り出し、ゴール直前で捕えた。昨年の絆カップ(盛岡)で重賞初制覇を飾ったが、門別の短距離重賞は2着3回と悔しい思いを常にしてきた。その鬱憤を晴らす、地元重賞初Vだった。
「玄太で勝てたのが嬉しいですね。他の厩舎にも、強い馬に乗せていただいていますし、上手くなるのは当然なんですが、今日は指示通り乗ることもできましたし、確実に腕は上がっていますよ」と、田中調教師は愛弟子への賛美を送った。
そして、自身の重賞初制覇となった落合騎手は、「同期の岩本(怜)が先に重賞を勝ったので、意識もありました。前走は中央馬相手に2着とはいえ、やっぱり2着は悔しかったので、今日は本当に嬉しい勝利でした」と、満面の笑顔で話していた。
メイショウアイアンは、北海道スプリントカップJpnⅢの時から、陣営はクラスターカップJpnⅢを目標に置いていた。地方馬に人気のあるレースだけに、選出される上でタイトル奪取は大きい。クビ差2着に敗れたショコラブランも、吉原寛人騎手とのコンビでリベンジを誓うべく盛岡を目指す。そして、田中淳司厩舎に移籍し、7月18日に転入初戦を迎える予定のブルドッグボスも、クラスターカップJpnⅢを予定している。短距離馬が層の厚みを増した北海道勢の走りに期待したい。
関係者が表彰式で胸に差した花は、普段であれば式が終わると主催者に返すものだが、落合騎手は目録とともに持ったまま。「母親に送ろうと思って……」と、親への感謝を忘れない姿勢が何とも微笑ましかった。
Comment
落合玄太 騎手
内枠に入った今回は、位置を取りに行くレースをしようと意識しました。スタートが決まったことで、思い描いていたレースができました。直線で前が開いた時には、差し切れる手応えがあり、勝ったとわかった瞬間は、素直に嬉しかったです。
田中淳司 調教師
昨シーズンも頑張ってくれましたが、満足のいく状態で臨んだレースは多くありませんでした。9歳馬ながら、今が充実している印象さえ受けるほど、今季の状態は良いですね。もともとクラスターカップを目標に置いていたので、この勝利でタイトルを加えられたことはホッとしています。